鹿乃子の日常奇譚

みゆki

序章

第0話 序章

 西暦二千百十一年十二月三十一日(木)


 昨夜ゆうべからずっと、しん殿でんで修行を続けていた。


 お父さん…じゃない、父上から命じられたから。


 龍神様のお言葉を聞く事が出来る様になるまで、ずっと続けろと言われた。


 御飯ももらっていない。


 身体からだを動かせば、おと…父上か叔父おじ上が棒でたたく。


 二人が、交替で見張っているんだ。


 今、見張ってるのは父上。


 じっと座り続け、祈りの姿勢を保ち続けている。


 母上は、わたしの弟か妹がお腹に居るので休んでいるらしい。


 もう、かなり長く会っていないな。


〈いかんな、少々やつかいな事になるやもしれん〉


 頭の中で、龍神りゅうさんの声が響く。


 部屋の外から誰かが父上を呼ぶ声が聞こえた。


 何か、話をしている声は聞こえるけれど、何を話しているのかまでは判らない。


 用事を告げに来た人と一緒に、父上が部屋を出て行った。


まずいな。鹿乃子かのこよ。逃げた方が良い。立てるか?〉


 龍神りゅうさんが、あせった様子で話しかけてくる。


 龍神りゅうさんがこんなことを言うの、初めて聞いた。


 無理だよ。龍神りゅうさん。昨日の朝からずっと正座で座り続けているんだ。もう、全く感覚が無いんだよ。


 そう答えたら、身体がぼんやりと温かくなった。


 叩かれたところの痛みが弱くなってきて、足の感覚もいくぶん戻ってきた。


「何をしている! 何時動いて良いといった。此の穀潰しが!!」


 父上が戻ってきた様だ。


「まあ良い、次の巫女に期待すれば良いだけだ。お前はもう、用済みだ」


 後ろえりつかまれて、まま引き摺られた。


 そして、庭先へと放り投げられる。


 ガツン、と言うショックが有って、肩の辺りからいやな音が聞こえた。


 時々、棒で叩かれて、腕や足の骨が折れたときのようないやな音。


 庭の、大きな石にぶつかったみたいだ。


 父上が、用済みって行ってた。


 どうゆう意味なんだろう?


〈おぬしに妹が出来る。その子に巫女の仕事をやらせるつもりなんだろう。誰が我の巫女を選ぶのかも判らんとは、情けない事だ…〉


 じゃあ、わたし、もう修行しなくても良いのかな?


 だったら嬉しい!


 思わず、期待を込めた視線を父上に向けてしまった。


 何か。長い棒の先に短い棒が横向きに付いた物を振り上げていた。


 ハンマーっていう物じゃ無いのかな?


「お前は、事故で引退だ」


 視線が合った瞬間、目の前が真っ暗になった。


 首の辺りで、とってもいやな音がした気がする。


『なんと言う事を……許さん!!』


 龍神りゅうさんの声が聞こえた気がする。


 もの様な、頭の中で響く声では無く、耳から…


 何時も、修行で叩かれたり、られたりしてきたから、痛いのはもう慣れた。


 でも、さっきの真っ暗になったのは何だったんだろう?


 とってもいやな感じだ。


 身体に、全然力が入らない。


 段々周りの音も聞こえなくなってきた。


 龍神りゅうさんの叫びの後、近くで雷が落ちた様な凄い音が、続けて何度も鳴っていた気がするんだけどな。


 それに、とっても眠くなってきた。


 少し、寝ちゃっても良いのかな?


〈少し、休んでいると良いぞ。守ってやれずに済まなかったな〉


 さっきの大声と違って、とっても優しい声だった。


 しばらく、うとうとした後、気が付いたら、目の前に地球が浮かんでた。


 でも、その地球は、大っきな穴が開いていて、段々そこからくずれていくところだった。


 お月様も、次第に地球から遠くに離れて行くし。


 ぼんやりと眺めていると、どんどん壊れて、最後には、小さな岩に別れていった。


 なんでこんなのが見えるんだろう?


 夢なのかな?


 テレビで、何か見た事が有った様な気もするけど…


 なんで今、こんな夢を見るんだろう?


 まあ、いいや。


 龍神りゅうさんそばに居てくれるのが判る。


 今は、ちょっと眠らせて貰おう。


 おやすみなさい。

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