第6話 俺の頭の中にいるあいつ
「おは」
今日も俺の頭の中で声がする
そう別人の声が
あれは7年前になる 俺は帰宅ラッシュで混雑する駅のホームで倒れた
それから先は覚えてないが気がつくと病院のベットにいた 目を開けるとそこには心配そうにこちらを見守る親族たちの姿があった 病名は脳出血 でも不思議なことに後遺症はほとんどなかった あのこと以外は‥‥
「今日は午後から雨だからな 傘持ってった方がいいぞ」
俺の頭の中であいつの声が聞こえる テレビの天気予報では午後から曇りだが雨は降らないと言っていた 降ったとしても弱雨程度で傘がいるような天気ではない
俺は傘を持たずに家を出る
あいつが俺に言う
「なぜ俺の忠告を聞かない?」
俺はその声に反応することなく黙って最寄駅まで歩き続ける
突然の大雨で駅の出入り口には傘を持たない帰宅途中の多くの人であふれた
「ほら 言ったこっちゃない 俺の言った通り傘を持ってたらよかったんだよ」
俺はそこで雨宿りをしながらあいつの言葉を聞いていた
俺が初めて頭の中の声を聞いたのは7年前 入院中の時だ
午前6時半
俺は病室のベットで目覚める いつもの起床時間だ 廊下側からはガチャガチャ朝食を準備する音が聞こえる
「よく眠れたか?」男の声が俺に尋ねる
‥‥?‥‥誰?
この病室は六人部屋で俺のベットがあるのは一番右の廊下側だ
正面のベットにいた患者は昨日退院し まだベットは空いていて誰もいない
左のベットもカーテンで仕切られているがベットは空いているはずだ いや 新しい入院患者が入ったのか?
俺は声の主を探す
「どこを探してるんだ?俺はここだぞ」
どっから声してんだ?
「俺は君の頭の中にいる」
えっ?全く意味わかんないですけど
「俺の名は
くろねんばく?どっかで聞いた響きだが‥‥
朝7時半 朝食の時間
「君 こんな猫の餌みたいなもんよく食えるな?」
そう あいつの言う通り猫の餌みたいな朝食かもしれない だが病院食とはそうゆうもんだ
俺はプラスチックの皿にちょこんと乗った野菜炒めと何の魚かわからない焼き魚の朝食を黙って食べ続ける
廊下の方から入院患者の大きな叫びが聞こえる
「こんなもん人間の食いもんじゃない!」
それはこの世の終わりの様に
「これからリハビリの時間だな 頑張ってな 俺はまたしばらく寝るわ」
あいつはそう言うとしばらく沈黙する そして午後5時過ぎの夕飯の時間になり
「あーよく寝たわ」
俺は黙ってプラスチックの皿にちょこんと乗ったキャベツの千切りと異様に小さい鶏の唐揚げ2個が乗った夕飯を食べ続ける
「おいおい今度は犬の餌かよ?」
パクパク クチャ クチャ(もちろん食べてる擬音です)
「俺が寝てる間なんか変わったことなかったか?」
パクパク クチャ クチャ
「シカトかよ?俺が君の友達になってやろうとしてんのに」
友達?だから何なんだよ?この声
「君 友達いないんだろ?だから誰も見舞いに来ない」
大きなお世話だ ま 本当のことだが
夕食が終わり9時までの消灯時間の間 ベットの前に置かれた小さなテレビやっているのはタレントが無駄に多く出演しトークで笑いをとるバラエティー番組だ
俺はそのテレビをボーッと眺める
するとあいつがテレビ画面に映るタレントたちにク○ワードをマシンガンのごとく連発し聞くに耐えない罵詈雑言を浴びせまくる
※あまりにも発言が過激すぎてここでは文字にすることができません
スタジオのテレビカメラの向こうでは視聴者からメチャクチャ汚い悪口言われまくる芸能人とはなんと因果な職業だろう ま あいつの言う通りだと共感できるとこもいくつかあったが
そんな同じ一日が毎日繰り返され一ヶ月がたった 就寝時間になり病室の電気が消され俺が眠りにつこうとベットに横になった時 あいつが俺に言う
「君に言っておくことがある」
どうでもいいけど
「俺は冬眠に入る」
知らんがな
「だからしばらく君と会えなくなる」
それが何か?
「寂しくないのか?」
別に
「強がんなよ 本当は寂しいくせに」
は?
「君の唯一の友達がいなくなるんだぞ」
俺はお前を友達だと思ってない 大体何なんだよ?お前
「おい 俺をお前と呼ぶな ちゃんとバクと呼べ」
12月になり あいつは冬眠に入ったようだ
俺は年明けに退院し日常生活に戻った
あいつの声が聞こえなくなって三ヶ月が経つ
そしてあいつの正体がわかった
バクは俺だ 退院してからネットでいろいろ調べたが俺がなった病気は傷ついた脳が原因か治療で使う薬が影響しているのかわからないが まれに幻覚 幻聴を感じることもあるらしい
そう言えば俺は入院中にあの声とは別に数々の不思議な体験をした
(ここでは書くことはできないが)
↑そこを書けよ!
つまりバクというあいつは俺が作り出した幻聴にすぎない
↑それって自演ってこと?
それがわかってしまえばあの体験もなかなか面白かった
あいつの声が懐かしくなる もし今度会う機会があったら あいつに優しく接しよう
なんせ自分自身の声なんだから
季節は夏になり俺はあいつのことをもう忘れかけていた
俺は夕飯に週3で通ってる店でいつものように紅生姜を山盛りに乗せた牛丼を掻き込む
「やっと餌から人間の食いもんが食べれるようになったな」
あいつの声だ いや俺が作り出した頭の声
「さっき冬眠から目覚めた ふあぁ〜(もちろんあくびです)しばらくぶりだな」
↑冬眠長すぎるよ!普通春に起きんだろ
俺が作り出した声とはいえとてもリアルだ 本当に別人がしゃべってるようだ
ああバクか 久しぶりだ
俺はあいつにあいさつを返す
「君が俺のことちゃんとバクって呼んでくれたの初めてだよな?」
そうか?
「君なんか心境の変化あった?」
‥‥そうだな‥‥
と俺はもったいぶった様にあいつに言う
するとバクが俺に
「‥‥君 なんか勘違いしてない?」
何をだよ?
「俺のこと」
俺のことって?
「君は俺の声を自身が創り出した幻聴だと思ってるんだろ?」
バクのストレートな質問に俺は答える
ああ そうだ
その答えにバクは言う
「それは違うぞ」
何が違う? 俺は反射的に言葉を返す
「俺は君ではない 別人だ」
なるほど そう来たか 俺
「君はまだ わかっていない様だな」
何がわかってない?
「言っただろ?俺は
いや お前はしょせん俺の幻聴にすぎない
「違う」
じゃあ違うことを証明して見せろよ
「そこまで言うんなら」
俺の頭が作り出したとは思えない会話遊びはやはり楽しい 本当にもう一人の人格が存在してるかのように俺の言ったことに反応してくる
バクは俺に言う
「俺が君ではない決定的な証拠を言うぞ」
ああ 楽しみだ それを聞きたい
俺は少し高圧的態度でバクに言う そしてバクがその理由の説明に入る
「それは❌❌❌❌❌が❌❌❌❌❌❌❌で❌❌❌❌❌❌❌❌だからさ」
↑ちゃんと書けよ!←断固拒否する
えっ?その具体的な理由を聞いて俺は絶句した 幻聴だったと思っていたバクは実在していたのだ 俺の頭の中で そして二人でアパートへ戻りバグからもっと詳しい話を聞いた
「これでわかったろ?」
お前の話は納得した で?お前が俺じゃなかったら一日中 俺のこと見てんのか?
「いや 一日の大半 俺は寝ている 寝ている間は君がどこで何しているのか俺は知らない」
じゃあ今度からお前が寝てる間に風呂とかトイレ行くようにするわ
「それと俺には特殊能力がある」
なんだそれは?
「予知能力さ これから起こる出来事を予知することができる」
マジかよ? バクにそう言った俺だが一切その手のものは信じていない
テレビの番組に出てくる自称予知能力者に本物がいるわけない もし本物の予知能力者なら公営ギャンブル百発百中だし株でも大儲けできるはずだからわざわざテレビなんかに出る必要がない だがそんな俺でもバクの存在は認めざる負えない
ちょうどテレビでは競馬中継をやっていた 俺はバクの予知能力をテストすることにした
どの馬が一着で来ると思う?
バクは興味なさそうに言う
「うーん4番の馬かな?」
バクの言う通り4番の馬が来れば大穴だ
レースは終わった 結果は10番の馬が一着でゴールした
外れたな
「そうだな」とバクは素っ気なく言う
予知能力あるんじゃないのかよ?俺はバクに言う
「ああ でも馬のレースには興味ないから」
興味ないから当てられないのかよ?
「ああ そう言うこと」
ずいぶん都合のいい予知能力だな
予知能力を証明したければ西暦何年何月何日に何が起こるとか そんな予知はどうでもいいのだ 確実に自分は予知能力者だと証明したければ金に絡む予知をすればいいだけだ だが多くの(全員と言ってもいい)予知能力者はなんだかんだと理由をつけてそこから逃げる だからバクがそのことを言い出した時 その能力を全く信じていなかった
「俺の言うことがガセだと?」バクが俺に言う
だって今 お前はずしたじゃん
「今度ははずさん」
じゃあ次のレース
「馬の予想はダメだ」
じゃあ他の公営ギャンブル
「ギャンブルの予想はやらん」
何でだよ?お前 予知能力あんじゃねーのかよ?
「俺のポリシーだ」
じゃあ何の予知ならいいんだよ?
「天気?」
お前 ざけんな
「わかった わかった じゃあ今から君に言っとく」
何だ?
「君が朝いつも通勤で利用している電車 明日止まるから 車両故障で○○駅と○○駅との間で」
ふーん 俺はバクの言葉を信用せずに聞き流す
「だから○○駅までバスを利用した方がいいぞ」
次の日の朝 バクが予知した通り 電車は止まり駅のホームは大混雑だった
バクの予知はいつも当たった
でもその予知は「もうすぐ意外な芸能人カップルが入籍を発表する」だとか
「日曜に行く映画は上映途中で機械トラブルが起きて上映中止になる」だとか
「ファミレスで注文した食い物をそこのバイトに自分の席でブチまけられ洋服が汚れる」だとか どうでもいいことだった
「今日 君が使う公衆トイレの紙 切れてるからポケットテッシュ忘れんなよ」
お前の予知は毎度どうでもいいことだな
「なんでだよ?君のために教えてあげてんのに」
もっと俺のためになる予知しろよ!例えば宝くじのこととか
「前に君に言ったろ 俺は金にまつわる予知はしない」
しないじゃなくできないんだろ?
「できるさ 本当は」
じゃあ それを俺に証明して見せろ だいたいよ 今までのお前の予知だって
たまたま当たっただけじゃねーのか?
「そこまで言うか?‥‥わかった‥‥じゃあ君が望む通り宝くじ当ててやる」
本当だな
「8月30日の午後2時46分 ○○宝くじ一枚300円 連番10枚買えば一等前後賞5億円当たる 今年はいつもより販売期間が長い 抽選は9月だしな」
その当たり券どこで出んだよ?
「○○市の○○商店とゆう小さなタバコ屋だ」
○○市?そこどこだよ?聞いたことないけど
「○○県にある」
○○県?そこ隣の県じゃんか!しかもタバコ屋って‥‥
「そうだ でもそこで出る」
そのタバコ屋 高額当選よく出んのか?
「今まで一度も出たことない」
お前は俺にそれまで電車賃使って買いに行けってか?
「金にまつわる予知は今回限り一度しかやらない それを信じるか信じないかは君の自由だ」
8月31日
「昨日は俺が言った通り宝くじ買いに行ったか?」
お前 知ってんじゃないのか?
「俺は知らん ちょうどその頃 睡眠タイムだ」
宝くじの予知ができるってことは俺の行動も予知できるはずだけど
「いや 俺は出来事の結果だけ予知できるがその周りにいる人間がどんな行動をとるのか予知することはできない つまり午後から雨が降ることは予知できるが君が家から傘を持って行くのか行かないかは予知できない」
‥‥うーん‥‥わかったような わからんような‥‥
↑自分でもいったい何書いてるのかよくわかりません
「それでさっきの質問」
そんなもんわざわざ隣の県まで買いに行くかよ?
「残念だったな 買えば5億当たったのに」
○○宝くじの当選発表は9月15日 あと2週間ほどある バクは二度とその手の予知はしないだろう
最近の俺はバクのおかげでツイッターでは予知能力者
「何月何日の何時頃 ○○テレビの情報番組のゲストコメンテーターが生放送中に思わず放送禁止用語を言ってしまう」とか「○○が○○と○○になる」←(何も思いつかなかったので適当に想像して当てはめてください)とか「何月何日 ○○プロレスのチャンピオン○○がヘビー級王座から陥落」とか「何月何日の何時頃 ヨ○○シ ○○店にプレステ5が入荷する」とか そんなツイートだ 俺のフォロワーはここ数日で急激に増えた なんせそこで予言したツイートは的中率100%(150ツイート全てが的中)だからだ(ま そのほとんどはどうでもいい くだらない予言だが)
「どうやら君は俺の予知能力を認めたようだな」
バクが俺に勝ち誇ったかのように言うと
どうでもいい予言だが当たっているのは事実だ
「俺は夏の甲子園の優勝校を当てたぞ」
あの高校の優勝は誰も予想していなかった あの予言的中で野須虎のフォロワー数も一気に増えたわけだしお前がやった唯一のまともな予言だ
「そう俺は本物の予知能力者だ おかげで君もカリスマになれた」
でも俺はお前の能力をまだ疑ってる
「まだ信じないのか?」
ああ
「じゃあ今度はデカいのを予知してやる」
言えよ
「あと一週間後の○日午後4時18分○○県の○○市の市街地に小惑星が激突して街が消滅する」
ありえん その予言ツイートは却下だ
「でも本当のことだぞ 警告してやらなければ大勢が死ぬことになる」
その予言はあまりにも荒唐無稽すぎる
「ま いいさ 自分で決めろ」
俺は迷った 予言はとんでもなくバカバカしいものだが 今までのバクの予言的中率は100%だ もしそれが当たっていたら俺は見て見ぬふりをしたことになる
そうだとしたら俺は一生後悔することになるだろう
俺は意を決してこの予言をツイートした 予知能力者 野須虎として
俺の予言 いや バクの予言したツイートは瞬く間にネットで拡散され大きな反響を呼んだ
(ヤベー予言 キタ───(≧∇≦)アァ────)
(あいつマジもんじゃん)
(俺死ぬの?)
(リアルアルマゲドンやん)
(デマに決まってるよ 本当に小惑星がぶつかるなら だいぶ前からNASAが警告出してる)
(野須虎さんの予言信じます)
(東京影響でんの?)
(ネットでデマ流したら逮捕な)
(野須虎さんのおかげでプレステ買えました)
(東京に移住します)
(小惑星に生物いる?)
一部の人たちはその予言を信じてパニックになり国立天文台や気象庁などに確認の電話が殺到し通常業務ができない状態になっていた
野須虎の予言に不安を感じた人たちの書き込みが他の人たちによってどんどん増幅されて行く それがネットの世界だ
予言当日になった
野須虎の いやバクの予言は外れた その街はいつもの様に平和だった
お前 俺に嘘の予言教えたな?
「ああ そうだ」
なんでだよ! 俺は強い口調でバクを問い詰める
「こんなク○みたいな予言 本当に君が信じるのか確かめたかった とてつもなく荒唐無稽すぎる いまどき小学生でも信じないような ありえん超馬鹿みたいなホラ話を」
お前 ふざけんな!ぶん殴ってやる!
「殴る?どうやって?」
俺は我にかえり振り上げた拳を静かに下ろす
「俺は嬉しかった 君が俺のこと信じてくれて」
これがお前を信じていた男に対する仕打ちかよ!
ほどなくして家に二人の刑事がやって来て「署で事情を聞かせて欲しい」と任意同行を求められた 署に着くと何の容疑だったか覚えてないがそこで逮捕された
俺は刑事から取り調べを受けその日の夜は留置場に一泊したが翌日の昼には釈放された
たぶんテレビのワイドショーあたりで「デマをネットで流した男を逮捕」と報道され そこのコメンテーターから「ネットリテラシーが」とか「馬鹿な奴」とか言われて 俺は散々コケにされてるはずだ 俺の人生は終わった
するとあいつが言う
「本当に悪かった 君に罪滅ぼししたい」
今更 何だよ?もうお前なんか知らん!
「ま 機嫌直せよ」
俺はバクの言葉を無視して黙って歩き続ける
「俺の予言でまだ結果が出てないのが一個だけあるけど」
俺は黙って歩き続ける
「明日はこの前 俺が予言した宝くじの抽選日だ」
俺は黙って歩き続ける
「君 まだ持ってんだろ?アレ」
‥‥‥‥
「本当は俺の言う通り宝くじ買ったろ?」
‥‥ お前あのとき起きていたのか?
「ああ」とバクが答える
俺は財布から連番10枚セットの袋を取り出す
「開けて見せてくれ」
俺は黙って裏面の のり付けされたところをはがし袋の中から10枚の連番宝くじを広げてみせる
お前のこと信じて3000円損した いや交通費入れて5000円
「5億円当たってるぞ」バクが言う
それを聞いた俺は皮肉まじりに返す
どうせまたガセなんだろ?
するとバクは少し怒ったように俺に言う
「勝手にそう思っとけ!」
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