第5話 Midnight Kabukicho

俺の名はジョナサン・ブライム

俺は今 世界一危険な街 カブキチョウにいる

俺はNY市警の刑事だ NYで起きた凄惨な事件の犯人を追ってはるばるこの極東の地までやってきた 犯人は日本のヤクザだ

奴らはNYでの縄張り争いでイタリアンマフィアを皆殺しにした世界の犯罪組織の中で最も凶悪で残忍な超危険集団

そのヤクザの本拠地があるのがこのカブキチョウだ


俺は日本に着いたその足で早速この街にあるカブキチョウ警察署に出向いた

日本は全く英語が通じない国だ 警察署の受付で聞いても彼ら(彼女ら)は俺が喋る言葉はまるで伝わらない 俺が困っていたところへ後ろから流暢な英語が

「何か困りごとですか?」

俺はほっとした 日本人が俺に英語で話しかけてくれたのは日本に着いてから初めてだったからだ 振り返ると艶のある黒髪のオリエンタル美女が微笑んでいた

「あのー ヤクザを担当してる課に行きたいんだ‥ああ 僕はNY市警から派遣されてきたブライム刑事だ」そう言うと彼女は

「ヤクザ ニンジャ対策課ね 私もそこに所属してるの ネオミ・リー刑事よ どうぞよろしく」


彼女に案内されて一緒にその課に行くとそこにいた刑事たちはに冷たい視線を向ける 俺はその雰囲気に緊張しながら捜査主任がいる個室へ向かう 部屋の前まで来ると彼女がコンコンとドアをノックし

「リー刑事です NY市警の方がみえてます」

「どうぞ入りたまえ」

中から日本語で低音の声がする

二人が中に入るとデスクに着いてる主任は俺の顔を見るなり微笑みながら椅子から立ち上がり右手を俺の方へ差し出すと流暢な英語で

「日本までの長旅ご苦労さまです 捜査主任のノブ・トヨダです」

「NY市警のブライム刑事です」

トヨダは俺に椅子に座るように勧めると

「NYから話は聞いています」

「早速ですが奴らのアジトの場所はわかってるんですか?」

「イチヤマ組ですか?」

「そうです 世界で最も危険な組織イチヤマ組です」

「亡くなった前組長イチヤマから組を引き継いだヒロ・ヤカモトは相手を敵とみなせば容赦なく殺す残忍な男ですが同時に彼は頭がすごく切れる 我々には尻尾は見せません」

「イチヤマ組の場所は見つけられないと?」

「いえ それが長年の内定捜査をすすめた結果 アジトの場所が特定されました」


国にいたころはスシは大好物だったがここ数日でもううんざりしてしまった

俺は日本人のようにスシは食えない ハンバーガーが恋しくなる

だが今夜のディナーもスシになりそうだ


俺は課のナガサキ刑事たち約30人の刑事と共に常にネオンで溢れてる街でもとりわけ派手な光を放っている高級スシバーへ向かった

もちろん警察だと相手に悟られてはいけない その高級スシバーの派手なネオンに書かれている店名は「縁取ふちどりの口約束」

俺はナガサキに尋ねる

「店名の意味は?」

「さー?」


俺たち「A班」は店に入る

「予約していたアッサン商事ですが」

ナガサキが店の入り口で出迎えていたキモノ姿の女将に言う

「お待ちしておりました アッサン商事様」

女将は手のひらを重ねてお辞儀をし「さ こちらへどうぞ」とナガサキと俺に続き後から入ってくる「捜査員」たちを席へ案内する 今夜この店は「貸し切り」ということになっている


内定捜査ではこの店の地下にイチヤマ組のアジトがあることがわかった そしてそこに繋がる秘密の出入り口の存在も 俺はイチヤマ組の組長ヒロ・ヤカモトを逮捕しにこの日本へやってきたのでイチヤマ組アジトの奇襲作戦は俺にとって最高のタイミングだったがボスのトヨダは俺がこの作戦に参加するのを渋った だが俺は「ぜひ自分も」と志願したのだ


店の外では防弾ヘルメットから降ろした防弾バイザーで顔の大部分を覆い 紺色の防弾ジャケットの肩からかけたアサルトライフルで完全武装した「B班」が息をひそめて装甲車両の中で「その時」を待っていた


俺たちがカウンターの席に案内されると

「いらっしゃーい」「いらっしゃーい」とカウンターの向こうから板前たちの威勢の良い掛け声が


一方 近くに停めたマイクロバスの車内に設置された複数のモニターにはあらゆる角度から店内の様子が写し出されていた

潜入捜査員からのメガネ型カメラによって送られてきた映像をトヨダは見ながら合図を出すタイミングを図っていた 俺は一般のガイジン客を演じながら感心した 彼らは百戦錬磨の猛者集団ではなく完全に宴会するサラリーマンに見える


2時間ほどして宴もたけなわになってきたところで外に停められたマイクロバスのモニターでここの状況を監視しているトヨダが遂に「突入」のGOサインを出す

それは長髪に隠れたイヤホンや骨伝導メガネを通して捜査員たちに伝えられ さっきまでそこで宴を開いていた集団はいきなり「警察モード」になりサッと椅子から立ち上がると銃を抜き板前や従業員たちに向けると一斉に叫ぶ

「警察だ!そのまま動くな!」

すると不意を突かれた彼らは驚きの表情を見せホールドアップする

そして完全武装した「B班」がアサルトライフルを構え次から次へと店の中に突入してくる 紺色の防弾スーツの背中には(Y N ATTACK FORCE)の文字 ←(日本語訳:ヤクザ ニンジャ 攻撃部隊)

そこに防弾スーツを身にまとったネオミ・リーがアサルトライフルを構え他の隊員たちに続く


厨房裏の従業員休憩所の横に「秘密の出入り口」がある 隊員は「何の変哲もない通路」にキモノ姿の女将を呼び出し「(地下のアジトに繋がる秘密の扉を)開けろ」と指示する すると女将はそこに置かれているタイムレコーダーに店長のタイムカードを差し込むとゴゴゴゴゴと壁が上に動き そこに「秘密の階段」が出現する 先陣の隊員たちは左手で防弾盾を持ち逆の手でハンドガンを構え慎重に階段を降りて行く そしてその後ろからアサルトライフルを構えた隊員が続く


上に残った隊員たちは銃を店員たちに向けホールドアップさせたまま奥の部屋に全員集合するように指示を出す


階段を降り「地下の空間」に続々到着した隊員たちは張りつめた緊張感の中 アサルトライフルを構えながらゆっくりと移動し室内をくまなく捜索する

隊員の一人が恐る恐る奥の狭い部屋に進むと そこにはぽつんと置かれたテーブルがあり その上にはティッシュ箱くらいの大きさの「物体」がピッピッピッと音を鳴らし赤いランプを点滅させていた それを見た隊員が叫ぶ

「罠だ!爆弾が仕掛けられてる!早く脱出しろ!」


その声はイヤホンを通して上の階にいる隊員たちにも伝わった

俺の隣にいたナガサキは流暢な英語で叫ぶ

「ここは爆発する!すぐここから出るんだ!ブライムさん」

ナガサキは俺のジャケットの袖を掴み背中を押して俺を店から強制的に放り出した その瞬間 さっきまでいた店は耳をつんざく大音響と共に粉々に吹き飛んだ(まるでマイケル・ベイ映画のように)

俺は爆風で吹っ飛び体を地面に叩きつけられて意識を失った


その時 俺はニューヨークでの「あの出来事」がフラッシュバックしてきた


ニューヨーク郊外の誰もいないどっかの倉庫前のだだっ広い空き地

数台のパトカーがひっくり返り車内からもくもくと煙と炎が上がっている

車外へ投げ出され瀕死の俺と同僚の刑事たち その陽炎の向こうにはロケットランチャーを肩に担ぎ不適な笑みを浮かべた黒スーツにサングラスをかけたスモーレスラーのような体型のヤクザの姿 その傍に停車している黒塗りのベンツのドアが開きピカピカに磨かれた革靴を履いた足が地面に降りる(スローモーション)


サングラスをかけ黒のスーツを着たヤカモトがゆっくり歩いてきて俺の前方で倒れてる数人の刑事の頭に銃を向け バン! バン!と次々と容赦なく弾を撃ち込んでいく 中には車外に投げ出された時点ですでに息の絶えた者もいたかもしれないが倒れている人間にはお構いなくダメ押しの弾を撃ち込みながらこっちへ近づいて来る ヤカモトは俺の目の前で倒れている年上の相棒トニーの頭に銃口を向ける

俺は意識はあるが動けない身体と声が出ない状態で念じる

「や め ろ !」


ヤカモトが引き金を引こうとした時 倒れているトニーが虫の息でヤカモトに言う

「‥‥お前が‥どこへ逃げようと‥俺たち‥捜査員は‥お前を‥地獄の果てまで‥追って行く‥お前を‥必ず‥死刑台へ‥送って‥やる‥からな」

トニーのふり絞ったささやくような声を銃口を向け黙って聞いていたヤカモトがフゥッーとため息をついて一呼吸あけてから口を開く

「じゃあ それはあんたの役目じゃないな」

そう言って バン!と銃弾をトニーの頭に撃ち込む

その光景を目の当たりにしても 俺は身体を動かすことも声も出すこともできず悔し涙をポタポタと落とし唸ることしかできなかった そしてヤカモトは俺に銃口を向ける 俺は観念した

「俺はここで死ぬ」

そのとき後方から けたたましいサイレンが鳴り響き十数台のパトカーがくぼんだ地面から浮き上がるように姿を現しこっちに向かって突進してくる パトカーの窓から身を乗り出した刑事たちが前方にいるヤカモトに向けて銃を撃ってくる その反撃に慌てたヤカモトは俺を殺すのを諦め 後方から猛スピードで走って来た部下の運転するベンツに飛び乗り車は土煙を巻き上げながら急速Uターンする

そしてヤクザたちを乗せたベンツは市警のパトカー軍団に追いかけられ俺の視界から消えた その場に残った数台のパトカーから同僚の刑事たちが倒れている俺のもとに駆け寄り一人が俺を抱きかかえると

「ブライム刑事!大丈夫ですか?しっかりしてください!」(セリフにエコーがかかる)


俺は意識を取り戻した そしてゆっくりとまぶたを開ける


(ここは‥‥どこだ?)(天井が見える)


布団に寝た状態で目玉や首を動かし辺りをキョロキョロ見回す

そこは旅行ガイドで見たことがあるような典型的な日本の寺院だった

それは言葉や文字では表わせないほど神秘的で西洋文明にないオリエンタルな雰囲気をかもし出している


しばらくすると俺の視界に何かの伝統武道の道着を着た白髪頭で白いひげを口元とあごにはやした老人の姿が

「やっと目が覚めたようじゃの」

「ここは‥‥どこですか?」俺がその老人に尋ねると

「わしの寺院じゃ」

「‥‥あなたは‥‥?」

「わしの名はゼンドーじゃ」


ここはイチヤマ組の新アジト


夜 間接照明の薄暗い都会的なオシャレなリビングでヤカモトが肌触りの良さそうな高級ガウンを羽織り就寝前のワインを嗜んでいた


「無用心だぞ ヤカモト 戸締りをしっかりしないとな」

ヤカモトの目の前に現れた黒装束のニンジャ姿の男

「カゲトラか」ヤカモトが男に言う

「寝首をかかれるぞ あんたが俺に殺させたイチヤマのようにな」

ヤカモトはカゲトラの忠告にワイングラスを傾けながら言う

「ヤクザとニンジャは長年敵対してきた だが時代は変わった ヤクザとニンジャが手を組めばシンジュク いやトウキョーをも我々の手で支配することができる」

「イチヤマは我らと組むのを反対していた」

「奴は昔ながらの任侠ヤクザでを嫌っていた だから消えてもらった」

「それで今ではあんたがイチヤマ組のナンバーワンだ」

「でも そんなオヤブンを裏切った男とよくあんたは組む気になったな? 俺がまた裏切ってあんたを殺すかもしれんのに」

「お前に我らニンジャは殺すことはできない 裏切ったら必ずお前を殺す」

ヤカモトはカゲトラの言葉にうんざりした表情を見せ

「ま いいだろう 」カゲトラにそう言うと 部屋全体に響きわたるように声を張りあげて言う

に仕事を頼みたい とてもデカい仕事をな」

ヤカモトの依頼にカゲトラが右手を上げて合図すると

カゲトラの背後には今まで暗闇の中に隠れていたニンジャ軍団が現れ たて膝をつき てのひらを合わせ人差し指を立てたニンジャポーズを取り夜行性動物のように不気味に眼を光らせていた




《次回予告》


【トヨダ捜査主任の個室】

ネオミ・リー刑事にトヨダは言う

トヨダ「うちの課の捜査員でイチヤマ組に捜査情報を流している者がいる」


【ゼンドーの寺院の畳の稽古場】

ブライムがゼンドーから「ジュウジュツ」の稽古をうけてる ゼンドーに腕を決められて悲鳴を上げるブライム 「ケンドー」の稽古でゼンドーにボコボコにやられうずくまるブライム 夕陽を背に居合の稽古を一心不乱にしているブライム

等身大の藁人形に手裏剣を投げ込むブライム


【イチヤマ組の新アジト ヤカモトの書斎】

カゲトラ「あのゼンドーが弟子を育ててる 厄介なことになった」

ヤカモト「ゼンドー?あの老いぼれか?あんたの元師匠だったな」

カゲトラ「ゼンドーを甘く見ないほうがいい」

ヤカモト「‥‥それで どうする?」

カゲトラ「新芽を摘むまでだ」


【ゼンドーの寺院の御堂の前】

刀を構えた数十人のニンジャたちに取り囲まれる真紅のニンジャコスチュームのブライム

そしてさやからゆっくり刀を抜き それを上段に構えると こう宣言する

「オレワ ニンジャ ダ(カタコトの日本語で)」


※もう続きは書きません だってめんどいから  



読者「‥‥ショートショートにしては長いけど これオチないよね?」


うん ないよ(真顔)














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