10編のノルマ

幕戸 健太

第1話 カツカレー禁止法

どんな理由でこの法律が作られたのか覚えていないがとにかく今この法律があるそれが「カツカレー禁止法」

五人の捜査員たちがドカドカと土足で俺のアパートに踏み込むと叫ぶ

「そのまま動くな!」そして捜査令状を俺の顔の前に差し出し

「イハラ タクヤ カツカレー製造容疑で今からお前の部屋を調べるからな」

五人の捜査員はサッと散って1DKの決して広いとは言えない部屋をそれぞれの持ち場を決めてクローゼットの中やベット周り そして風呂場やトイレまでも入念に調べる するとキッチンにいた捜査員が他の捜査員たちを大声で呼ぶ

「ちょっとこっちに来てください!」

別の所を調べていた捜査員が全員キッチンに集合する(初めからここだけ調べればいいと思うが)捜査員が俺に尋ねる

「お前 今さっき何やってた?」

「夕飯を食べてました」

リーダー格のベテラン捜査員がガスレンジの上に置かれた鍋のふたをパカっと開けると中身を確認し

「中身はカレーだな?」

「はい」

「晩飯で食べたのか?カレー」

「はい でもカレーだけです」

「本当だな?」

「はい」と俺は返事をする

最初にキッチンをガサ入れしていた捜査員が横から

「チョーさん 冷蔵庫からこんなものが」

ベテラン捜査員はその「ブツ」を確認すると キッと鋭い目つきで俺を睨みつけ

「何だこれは?」

「と、とんかつです‥‥明日カツとじにでもしようと思いまして」

俺の言い訳を聞いたその捜査員は俺の目をじっと見つめる 別の捜査員が俺に

「半分どうした?半分しか残ってねーぞ このカツ」

「食べました」

「食べた?いつ?」

「えー昼です」

五人の捜査員が俺を取り囲み睨みを利かせてくるのは相当なプレッシャーだ

この中で一番若そうな捜査員が血走った目で俺に強い口調で言ってくる

「おメェー カレーと一緒にカツを食ったんじゃねーのか?」

「いえ 一緒には食べてません!」俺はすぐ否定する

ベテラン捜査員は険しい顔で俺を尋問する

「カツにカレーはかけてないんだな?」

「はい かけてません」

「カレーの上にカツを乗っけるのも違法だからな」

「はい わかってます」

そのやり取りの最中 一人の捜査員が流し台に目をやり ベテラン捜査員に耳打ちすると彼はうなずき 流し台のすぐ近くまで行くと他の捜査員たちも一緒にゾロゾロ移動してくる そこにはまだ洗う前の食べカスがこびりついた皿が置かれていた

俺は思った「しまった 早く皿を洗うべきだった」

捜査員たちはカレーの食べあとで汚れた皿をマジマジと凝視する

ベテラン捜査員が俺に聞く

「皿にカレーと一緒にくっついてんのは何だ?」

「えっ?」

「揚げ物の衣のカスじゃねーのか?これ」

若手の捜査員が凄んで俺に言う

「おメェー とぼけてんじゃねーぞ!これとんかつだろうが!」

「そのカスは‥‥コロッケのです」

「おメェー食ったのはカレーだけですとか言ってたよな?さっきの話と違うじゃねーかよ!」

「コロッケも一緒に食べたのを忘れてました」

「忘れてた?あ?適当なことぬかしてるんじゃねーぞ!このヤロー!」

その答えを聞いたベテラン捜査員が俺に質問する

「じゃあコロッケにカレーをかけて食ったんだな?」

「はい カレーをかけたのはコロッケでとんかつではありません」

「コロッケいつ買った?」

「今日のお昼に とんかつと一緒に」

「レシートあんのか?」

「すいません どっかいってしまいました」

「調べればすぐわかるんだぞ」ベテラン捜査員が穏やかに言うと横にいる若手の捜査員が俺を怒鳴りつける

「おメェー警察舐めてんのか!」

そのやり取りの最中 一人の捜査員が俺の寝室に入り少ししてそこから出てきた

「ありました」捜査員がベテラン捜査員に報告するとそのレシートを手渡す

ベテラン捜査員がレシートの内容をじっくり確認していると後ろから他の捜査員たちもそれを覗き込んだ ベテラン捜査員は俺に言う

「お前コロッケなんか買ってないだろ?買ったのはとんかつだけだな?」

横にいた若手捜査員が俺に吠える

「おメェーもういい加減観念しろ!証拠は上がってんだぞ!」

ベテラン捜査員は腕時計を見て時間を確認すると

「イハラ タクヤ 19時54分 カツカレー製造及び飲食の容疑で現行犯逮捕する」

そして俺は手錠をかけられた


カツカレーは人生を破滅させる






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