出会いちゅう
朝から吐気に囚われて二度寝した。あたしの午前は流れてった。
登校しなくちゃいけないからパン齧って、遅刻のベル鳴る。あたしだけ浮いてる油みたいに目線喰らって、静かに隣の席着く。番になった指定席で仕方なく。なるべく音を立てず、椅子を引きすぎもせず、間違ってもぶつかったりしないように細心の微動作で荷物を整え姿勢を正す。女子が多いらしきこの室内では、あたしの隣もセーター被せた女の子。とりあえず白いという見栄えで区切りをつける。しかし近くのものにどうしても目がいってしまう症候を活かし、この人の右側に着目した。白い長袖が手首までかかっている右手があたし側で握り締められている。落ち着いている。
しばらく経っても自然体だから、顔をバレずによく見る。狐のような目が伸びていて肌が白いことがわかった。近寄る難易度インポッシブルなあたしと違い、スタンダードっぽいこの人。柔らかい系の態度を感じ取っていたら、急に話しかけられた。ソフトタッチを伴い、次の時間は何と尋ねられた。あたしに触れるなんておぉ勇者よ、と思った。あたしはそのまま至って飾らない言葉でお返しして、英語の例文程度のやりとりは潰える。この二分後にハッとした。もしかして交友関係構築を目論んだ口実だったのか。そのサインを見逃したのかもしれない。思い違いなら痛ましいが。この人の積極性を無為にしてしまったと考えるともったいない、けどまぁいいや。ここからも一貫すべくあまりそちらを向かないようにする。
そしたらまた話しかけられた。実は先週欠席していたからノートを写させてほしいとのことだそう。なになにあたしのこと狙ってんのか。そんな顔じゃないか。でも早速二回も。話しかけられただけで好意持たれてると思っちゃうのは、よく染みた体質だから仕方ないんですな。そんな心の声とは裏腹に、二酸化炭素と一緒に出た声のトーンは一個下がった。修正するかのごとく咳込み。違う。冷たいわけじゃないんだ。怖いのだ。また失うのが目に見えてるのだ。
初めは優しい、波長が合う、顔も好み、だったんだよ前例も。そういうわけで他人のままでいましょ。
休憩時間は外の熱気を浴びに行く。あの人はカフェテラスでお喋りに行った。どっかに可愛い子いないかな。同じく一人の子に話しかけたら運命切り拓けるかもな。時間の許す限り、奥地へと踏み進もう。蒸した匂いのする坂道を行ったり来たり。
夕方になる。もういい、家に帰る。
寄り道してみた。スーパーのゲームコーナーに幽閉された景品に一目惚れした。アームをこねくり回して二千円、流行りのキャラのパズルを得る。横を窺うと、そこに小学生時代の知り合いが通過した。二秒目が合った。なかったことにしてそこから消えた。出口にて集団とすれ違いざまその一人が「ちっ」と言った。迷惑だから横歩きするなよ。誰もあたしを知らない場所へ、へ、いへ。視界を縦長に調整してます。
駅前いつもの帰路に引っ張られる。新作のアイスが売っている。中学校のプール。あのプールサイドを超えたらあたしん家。近所に幼馴染の洗濯物が見える。パッとしない寂しさがある。人並みはずれて可愛い子がいるならばお近付きになりたい。遊びに出かけたら隣を歩かせたい。一人で満ち足りたような、誰かで紛らわせたいかのような。他人とする交際の未知を諦めきれない。類はあたしに友を呼べ。あたしを嫌う理由は無感動だったり挨拶もしなかったり色々あるだろう。恐るるには足りないけど。ただそういう目で見るなよ。
握力が消耗された。新しい場所は体力不足のあたしにはちと厳しかった。そんで中途半端に食べかすみたいな下書きが残ってる。なかなか、上手くはならないもんだろ。今から夜までがあたしの本当にやりたいこと。人々と同じようにあたしの感覚を表現する。決して同級生の身体には惹かれない。実像よりも綺麗なものがあることを分かってるので。手を動かしてもいたいし。
しかし途切れた。最初だけ完成させたら後回し。時間はまだまだあるじゃない。けど安い気分屋はお呼びじゃない。そんなにそんなあたしの絵は魅力がない。毎回同じ失敗。これは病気ね。この気分崩れてるわ。気まぐれなせいだろうな。追い込まれた。課題解いてない。未完成のまま溜め込んでいる。溜まらない性欲吐き出す。命少し燃やした。あたしの午後も投げやりになる。キリ悪いから別のことする。あぁつまんねえ。つまんねえ絵描きやがるて。また一つゴミが生まれる。そこらで同じバランスの女体が量産されてるう。クソが殴る。空中で裏返した便所虫みたく手足もがく。ぎゃああああああああああ。頭がパンクする!顔をぶるぶる振ってる。くそ。くそどもぉ。ちっちっ、ちっ。あたしかぁ。
つまんねーしピンチだし。どうにもこうにも。平面の世界はインパクトがない。どう動いても同じ平面上。ってこと気付くくらいは、あの人もしているよね?無理かなぁ。だって皆、簡単に言えば話が通じない。こっちは合わせるように表現してんだけど。まぁ知ってるし同情してるし、対処法も簡単。リアルとフィクションを区別できないとはこのこと。そういうクソつまんないのはその世界線に閉じこもっているのがらしさだもんで。だがわたしは。新しさ、新しい世界へ飛び込ませてほしい。趣味も仕事も色褪せる。結局好きなことなんて物足りなくなる。手持ち無沙汰なんだ。思いついたのは、散歩。将来はそうしようか。散歩は生きる鮮度保つ鍵だ。あとはそう。あたしだけの女の子が欲しい。
兄が帰ってきた。足音うるせえ。深夜に帰ってえはえはすんな。ちっ。
くぅ。終わったわ。背伸びから一呼吸置く。
そして気付けば刃物を持っていた。
ガリリ。ガリガリ。リリリリガガガ。ッ。ガリガッガッガッ。黒インクを塗りたくる。裏っ返して。
完成しました。下手くそが。
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