第16話

「なに?私との婚姻以上に優良なものがあるとでも言うのか?」


「もちろんです。むしろ、私から言わせてもらえば、あなたとの婚姻など最低です。うまくいく未来が一切見えません。」


「ということだそうだ、マクルーガー殿。とにかく、我々はこの縁談をお断りさせていただく。」


「それで納得できるとでも?そんなことが認められるとでも思っているのか。

それともあなた方は、我が家を侮辱するつもりですか?」


マクルーガー様のお怒りはわからなくもありません。これといった明確な理由もなく、婚約を断ることになるのですから。しかし、私の直感、女の勘が言っているのです。この方と婚約してもいい未来は訪れないと。


「侮辱しているつもりはない。ただ、何度も言うように、君とローゼとの婚約が最良とは思えないのでね。」


「.....めない。絶対に認めない!」


マクルーガー様はとうとう怒り始めてしまいました。貴族として、商人として、このような場所で怒るのはいかがなものかと思いますが。

そこに、扉がノックされました。


「失礼します、アイザック様、こちらを。遅れて申し訳ありません。」


執事が入ってきて、お兄様に何かの資料と思われる封筒を渡しました。お兄様は封筒から中身を取り出すと、集中して読んでいるようでした。マクルーガー様も気になっているのか、少しは落ち着いたのか、お兄様の反応を待っています。

読みおえると、お兄様は口元をゆがめました。


「お兄様、どうしたのですか?」


「いや、面白いことが分かってね。

マクルーガー商会では、今新たな輸送機器の開発に取り組んでいるようだね。もしそれが完成するとなれば、多くのエネルギーが必要になる。我が家との婚約を望むのはわからなくもない。

ああそれと、マクルーガー殿、弟殿のご婚約がきまりそうなようで、おめでとう。しかも相手は、侯爵家のご令嬢だそうで。実にめでたい。」


「な、ぜそれを」


決定的ですね。マクルーガー様の弟さんが侯爵令嬢と婚約すれば、たとえマクルーガー様のほうが優れていようとも、弟さんが当主となってしまうでしょう。

それに対抗するには、さらに上、少なくとも同格の婚約者をめとるしかないでしょう。

我が家は伯爵家とはいえ、隣国の経済を掌握しているといっても過言ではないほどの家。その上、マクルーガー商会がエネルギーを大量に必要としているのであれば、侯爵家との縁組より、我が家との縁組のほうが圧倒的に有益であるといっていい。


「マクルーガー様、ただ我が家を利用しようとして近づいてきたのですから、私たちがこの縁談をお断りすることに異議は唱えませんよね?」


「.....わかり、ました。」


何とか解決ですね。マクルーガー様もこれで引き下がってくれました。お兄様とこの件を調べてくれたみんなに感謝しなくてはなりません。


「では、私はこれでしつれ......」


「いや、ここからは取引と行きましょうか。」

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