2 役場は町で一番美しい

 ここでいったん役場の様子を説明しよう。

 サウザス役場──この町で最も大きく、美しい建物である。

 場所は西区。表玄関は中央通りに面しており、左隣に銀行、右隣に警察署がある。

 2階建ての建物で【表棟】と【裏棟】に分かれている。上空から見ると『回』の形をしていて、表棟は縦に長い長方形で、裏棟は『凹』を左へ90度回転させた形をしている。



 まず【表棟】の中央にある表玄関を開けると、円型の住民ホールが広がっている。

 ここは住民の様々な手続きを行う。結婚届や出生届、住民証や免許証など。手前の半円には待合ベンチがズラリと並び、大理石のカウンターで仕切られた奥の半円では、スタッフが慌ただしく書類を処理している。石造りのため少々寒く、冬になると灯油ストーブで芋やお茶を温めはじめ、用もないのに老人が集まり談笑している。


 ホール内には、南と北に巨大扉がある。扉を開けると長い廊下で、教室や会議室のドアが並んでいる。紅葉はこの一室で、ギャリバーの免許試験に合格した。南の廊下の突きあたりには図書館が、反対の北には裁判所がある。図書館は、町民によく利用されてるが、裁判所は、傍聴人以外は寄りつかない。(だが便利な場所にあるためか、サウザスは他の地区より傍聴人が多いようだ)


 住民ホールの上階は、半球型の町議会場となっている。コロシアムを彷彿とさせる大会場では、日々サウザスの政治が行われている。重鎮が集まる2階は貴賓室や食堂、休憩室など、1階の施設より “ちょっぴり” 豪華だ。


 表棟の外観は、白大理石の巨大な長方形の建物に、ドーム屋根の円柱塔が3つ並んでいる。塔の中は、南から『図書館、町会議場と住民ホール、裁判所』が入ってる。壁にはぐるりと石像の彫刻装飾が施されており、草木や鳥たち、巻鹿族の女性が戯れる様子が、絵巻物のように彫られている。3塔の尖端は1本ずつデザインの違う旗が舞い、それぞれ『町民、政治、司法』を表している。


 壁には他にも、丸みを帯びた装飾柱が8本等間隔に並んでおり、本物のギリシア神殿のように荘厳な雰囲気を醸し出している。田舎町にこんな壮麗な(不相応なほどの)建物が作られたのは、ひとえにサウザス創設者らの尽力の賜物だ。

 ここまでが【表棟】の紹介だ。



 表棟の裏は、その名のとおり【裏棟】がある。

 ここでは多くの役場職員たちが働いている。外観はシンプルで華美な装飾は何もない。壁の色もセメントを重ねたような灰色だ。唯一屋根だけは、鉱山と火の神に敬意を表し、赤みを帯びた鮮やかなオレンジ色の瓦が敷かれている。


 この赤橙の屋根こそ役場の正面から見た際に、背部からぼんやり火の色が浮かび上がって、白い表棟の美しさを際立たすという寸法だ。サウザス町を支える使命を表す赤橙は、役人の制服の色でもある。


 裏棟の裏玄関は、表玄関のちょうど正反対の西にある。関係者以外は立ち入り禁止だが、職員全員が使うため表玄関と同じくらい大きい。中に入ると、まず町長室の立派なドアが出迎える。ドアの右には、総理事ブライアン・ハリーハウゼンの胸像、左に火の神の全身像があり、役人は毎日ここから各々の部署へ散っていく。


 広々とした作りの表棟と違い、裏棟は資料と物資がギュウ詰めになっていて、物置や会議室が無数にある。実態は役人すらあまり把握していない。役場の窓はどこも鉄格子があり、いつでも監獄気分が味わえる。



 囚人のような職員たちの、唯一の保養は【中庭】だ。

 中庭は、表棟と裏棟に囲われた——つまり『回』の中心部に存在する。四季の花々が植えられ、庭師が丁寧に手入れを行い、職員はベンチでランチを食べている。一般町民がうろつくのは許されない。外周から容易に侵入は可能だが、警備員にすぐ追い返されて表棟の窓から眺めるよう指示される。もちろん窓は鉄格子があり、見物には向いてない。


 役場の【外周】は、高さ2mの石塀でぐるりと囲われて、塀の上には矢尻型のアイアンフェンスが張り巡らされている。石塀と建物の間は、大人5人が横に並べるほどの長さだ。灰白レンガで舗装され、向かいの棟に行く職員たちが走っているのをよく見かける。


 そう、【表棟】と【裏棟】は直接通行できないのだ。

 屋根部分は繋がっているが、 2階は壁で行き止まり。1階に2mほどの渡り廊下があるが、双方の扉は常に施錠されて通行禁止となっている。不便な造りのため、災害時の逃走ハッチは各地に設置されている。ただし一度きりしか使用できず、使った後はすぐにバレる。



 現在ショーンが閉じ込められてるのは、【裏棟】の2階にある南東の角部屋だ。

 ショーンは新聞に描かれた役場の見取り図を思いだしながら、事件についてアントンに話を聞くことにした。

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