第307話・留守葛西連合軍との戦い!。


 黒川領から多賀城に向かう街道 黒川晴氏


「殿、この先留守領で街道が封鎖されています!」


「・・・突破する。そのように陣形を改めよ」


「と・殿、お待ち下され。ここを強引に突破すれば、留守家と戦になりまするぞ!」



「構わぬ。黒川は山中隊に同調すると決めたのだ。留守家など山中隊の敵では無い。いち早く戦場に駆け付けることが黒川の生き残る道だ。邪魔する者は撃ち倒して行くのだ」


「わ・分かり申した。殿がそこまで言われるのならば。ものども、戦陣形じゃ。留守領を突っ切って山中隊と合流する。急げ!」


「「はっ」」


 遂にこの時が来たか。このところの長閑な勤めもこれで終わったな。


 元大崎家家臣の黒川領は、留守家と大崎家の間にある。よって多賀城普請に出向くのには、留守領を通らなければならぬ。

我が娘と政景殿との婚姻の話もあって両家の間は親密で、留守領内の通行にも問題はなかった。


だが、留守領内にある国府多賀城再興を留守家が認めなければ戦になる。それは分かりきっていた事。

或いは都の帝の思し召しであるので留守家も認めるだろうという期待も空しかった。


せめて某に多賀城の動向を聞いてくれれば、手出しは留守家の為にならずと進言したのにな。某も当初は様子見であったが、山中隊の面々と付合ううちに彼等には到底叶わぬと身に染みて分かったのだ。


「黒川殿、留守家の動きが慌ただしく何時襲われるやも知れぬ。黒川勢もしっかりと武器を携行してお出で下され」

と北村殿に言われたのは三日前だ。我等も気付いていたが、新参であるのに山中隊の情報網も侮れぬな。



 我等が陣形を改めて猛然と迫ると、関所の兵は逃げ出した。そして留守領内には兵はいない、当然、全ての兵で多賀城に向かったのだ。そのまま一気に留守領を駆け抜けた。


「殿、城兵は城外に出て布陣しておりますぞ・・・」

「むん。見事な陣形だ・」


 中央に二隊、その後ろに本隊、少し離れて右翼と左翼も二隊ずつ布陣している。全体を白地に三つ山の山中の旗、本隊には黒地の隊長旗、各隊にはそれぞれの将旗が上がっているが某にはまだ見分けがつかない。

 十兵しかいない各隊が敵を圧する様に堂々としており、歴戦の勇である事が窺える。王者の風格さえ感じるのだ。


 対して留守葛西連合軍は、中央に吉田右近・辺見遠江の五十、その後ろに留守政景・花渕紀伊の本隊六十、右翼に余目伊勢・余目三郎太郎の三十、左翼に村岡兵庫・佐藤太郎左衛門の四十、葛西隊は右翼と左翼の後衛で五十ずつだ。


「参謀の花渕紀伊は反抗勢力の譜代衆を右翼左翼に配置して、逃げられぬように葛西勢を背後に付けましたな」


「うむ。七十と二百八十。留守側が四倍、数では圧倒しているが内実は相互不信でばらばらか・」


「攻めますか?」

「無論だ。右翼の葛西隊に突撃する」


「聞いたか者ども、山中隊にお味方する。突撃せよ!」

「「おおおお!! 」」




 山中隊本隊 北村新介


背後の三十と西の五十を殿と明石に任せて、我等は城外に出て布陣した。敵が何倍来ようが、城に籠もって凌ぐつもりは無かった。


「大隊長、何やら敵の陣地がきな臭いですな」

「うむ、右翼左翼に戸惑いがある」


留守家が我等八十に三百六十もの兵を揃えてきたのは、黒川を牽制するのと家臣団に不安があるからだ。

今留守家中は新参と譜代に分かれて反目し合っている。伊達家から政景を迎えたのは新参の花渕紀伊らで、家中統制手綱を握っている。

布陣にもそれが現われている。いつ裏切るかも知れぬ村岡・佐藤・余目の譜代衆を右翼左翼に外して葛西の重しを付けている。

情勢をみて適当なところで裏切りを考えていた譜代衆は二つに割られて戸惑っているのであろう。


 だがそんな事は、我等には関係が無い。


 戦を挑んで来たからには、勝つか負けるか乾坤一擲の勝負だ。負ければ撤退もやむなし、或いは領地を失う。留守家の家臣らには直接書状を送っているが、まだ誰も返書して来た者はいないのだ。


故に全て等しく敵と見做す。


「敵さん、来ましたな」


 敵勢がゆっくりと近付いて来る。

 おっと、松山隊が身震いした。逸るなよ、右近。

 皆には接敵するまで待てと命じてある。我等は迎えるのみだ。背後には大勢の町衆が見物に来ておる。城内からも良く見えているであろう。順調な多賀城再興のためには我等の力を衆人に知らしめる事が必要だ。



「まずは定番の矢からですな。ほう、進軍しながら射ますか・」


 敵先陣は進軍しながら弓を構えている。十の三隊、三十の弓隊だ。放つにはまだ間がある。長弓で歩きながら射るとは珍しい。さすがに戦に明け暮れている奥州だな。馬も畿内よりは多い、敵将と側近は全て馬上だ。組織された騎馬隊は無いようだな。


「来るぞ。念のために我等も盾を構えよ!」

「はっ!」


 敵が一斉に矢を放った。青空に点々と矢の影が浮かぶ。念のために島野隊が立てた大盾の後に寄るが、こちらを狙ってくる矢は見えなかった。


 ぱらぱらと盾に当る矢の音がする。少ない・・・棒で叩き落とせる程度だ。


「二射め、来ます!」

 二射めもこちらまで矢は来なかった。既に敵の顔が見える距離だ。敵先陣が槍隊に入れ替わった。


「敵、突撃して来ます! 」

 雄叫びを上げて敵が殺到してくる。先陣はそれに合わせて横に展開する。


「ひゃっほー」

 右近の声だ。先頭に立って迎え撃っている。丁寧に穂先を逸らして喉に一突き、それで終いだ。二人・三人・四人次第に速くなる。敵が殺到しているからだ。


 先陣が少し前進した。無数に倒れている敵が邪魔になったのだ。

 敵の後陣・留守本隊は先陣の壊滅をみて腰が引けている・・・



「大隊長、黒川勢が後続に突撃しています!」

「おう! 」


 黒川殿が来たか。街道は留守領で封鎖されていたが、突破されたか。

 そこで留まっても良いのに、敢えて突破して戦場に駆け付けたか。


なかなかの御仁よな。


「敵本隊に氏虎隊が到達。敵は逃げ腰ですな」

「ああ、右翼左翼も似たようなものだな」


 引け腰から逃げ腰になり、一目散に逃げ出すのにそう時間は掛からなかった。

 それを各隊がまとまって追撃してゆく。領外まで追撃して城も接収するのだ。兵たちにはご苦労だが一日働ける飯も持参している。


「進軍せよ。我等も追撃に向かう」

「おう!」



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る