第154話・大和丸竣工。
博多湊 高橋鑑種
その夜は祝杯を挙げた。我が兵は軽傷者のみで、何と山中兵にも重傷者はいなかったのだ。勿論山中水軍は無傷だ。仔細はわからぬが筑紫隊は壊滅して、筑紫惟門は討死したようだ。
翌日の夕方、湊に船団が入って来た。山中の南蛮交易船団だという。熊野丸というらしい同じ型三隻の船団だ。六隻の熊野丸が並ぶ姿は圧巻だ。熊野丸は三隻で毛利水軍を壊滅させられる商船なのだ。
その夜も交易の無事を祝って祝杯が挙げられた。
博多湊に戻る商人が続いている。
山中隊が襲ってきた毛利隊を退けて、山中水軍が毛利水軍を壊滅させたという噂が流れているせいだ。そしてこれからは、強力な山中隊が博多湊を護持するという事が広く周辺に伝わっている。
儂もせっせと材木を運ばなければならぬ。商人らに材木を入れるように頼まれているのだ。
この機を狙ったように大友隊が豊前に侵攻していた。山中にも援軍要請があったが
「我らは将軍家に命じられた博多湊の復興に来たのだ。毛利と大友の争いには関与しない」と突っぱねていた。
当然だ。
山中殿が筑紫隊と水軍を蹴散らしただけでも、大友にとって大吉報だ。その上に援軍要請などと筋違いだろう。
厚かましいな、虫ずが走るわ。儂には引き続き山中の助力をするようにとの指示だ。
よし、決めた。
「山中殿、是非、某を麾下にお加え下され」
「相解った、受け入れよう」
「有難き幸せ!」
「だが、今それをあきらかにすると問題があろう。しばらく表面上はそのままでおられよ」
「承知致しました」
さあこれで儂も山中家の一員じゃ。明日からは朝の調練の指導をして貰うぞ。
永禄五年七月 紀湊
ゆっくりとそれは入って来た。
船長百三十五尺(45m)船幅三十尺(9m)の大和丸の一号船だ。
船首船幅は熊野丸(30×7)に比べて確かに大きいが、そう驚く程では無い。一番目立つのはその高さだ、熊野丸よりも船室が一層多い二層となっている。その上層中央に大和砲を設置する砲甲板がある。
帆は三枚帆に補助補が前後に付き、操舵は初の輪舵式となっている。
敢えて大きさを抑えて速力・操船・運動性などを重視した。定員百六十名、砲二十四門を装備して二千石の荷を運べる商船だ。
そう大和丸は、武装しているがあくまで商船だ。山中水軍は今のところ軍船を作るつもりは無い。
大和丸は新たに竣工した熊野丸三隻を引き連れての入港だ。熊野の造船所では、年に大和丸を二隻、熊野丸を六隻作りながら同時に改修などを出来る能力がある。
現時点の山中水軍は、大和丸一と熊野丸九隻になった。これに乗船する水軍兵は一千と少しだ。
関船は荷船に改修して各湊間の連絡船として運航する。喫水が浅く河川まで入って行ける小早は、人や荷を運ぶ渡し船に使用している、その機動力を生かしての沿岸警備もこなす。その人員に百名ほど、これも水軍兵だ。
「新たに熊野丸の船長を命じる者は、並木勝俊、矢田千次郎、玉置図書に曽根弾正だ。九鬼春宗は大和丸の補佐をせよ」
「「はっ」」
野分けが来る前に、新船長の航海訓練と大和丸の試験航海をしておきたい。
「照算は渡辺・曽根を引き連れて、東予湊に熊野屋の拠点を作れ」
「はっ」
「佐々木は狐島・並木を連れて博多湊に熊野屋の人員と荷を運べ」
「はっ」
「氏虎は、矢田・図書を連れて琉球まで試航海だ。儂も行く」
「はっ」
「野分けが来るまでは、まだ少し間があろう。だがその兆候が見えたら近くの湊で通過するのを待て。決して無理をするのでないぞ」
「「「はっ」」」
永禄五年七月 博多湊 神屋宗湛
博多城は石積みが終わりその上に多聞櫓を建築中だ。商人街の町割りや道普請も終わり商人が続々と戻りつつある。儂も早速戻って来たわ。
何と言っても山中様が城を築いて町を護る気概を見せてくれたのが大きい。三隻の商船で博多を焼いた筑紫と毛利水軍を壊滅させその力を見せてくれたのだ。
山中家の運営する熊野屋の店は、もう大方の形は出来上がっている。主要な建物は新宮湊から運んで来て組み立てるだけなのでとんでもなく速い。城内の建物も含めて殆どの建物が同じ規格に統一されているのだそうだ。実に合理的に考えられている。
山中家が商いを大きく伸ばしている秘密が垣間見られるというものだ。
「神屋どの、お久しゅう御座います」
「これは、木津様、お出でで御座いましたか」
熊野屋の主は、木津寿三郎様だ。
泉屋をあっという間に堺一の店にした商人であり大名家の家柄のお人だ。商大名を目指しているそうだ。やり手だが面白いお方だ。
そしてなんと、山中様の義弟君なのだ。若手ながら儂などが到底及ばぬ力をお持ちなのだ。
「博多の復興、真に感謝しております」
「それは商いで取り戻しますので、お気になさらずに」
「「ふっふっふ」」
「早速、神屋どのに相談ですが、このあたりで産する石炭をご存じですか?」
「はい、山に燃える石があると聞いたことはあります。それが?」
「山中は石炭を欲しています。ですが方針として、採掘は現地の者に任せる方向なのです」
「ふむ・・」
燃える石・石炭か、火力は強いが煙が多く出て建物の中では燃やせぬと聞いた。山中はそれを何に使うのだろう?
「石炭をどのように利用されるのでしょう?」
「殿は、タタラで使うと言っております」
成る程、タタラか。そうすると、鉄・銅・鉛・金・銀・鋳物など武具や道具などを作るのに大量に使われるな。需要は多い・裾広がりに増えると言う訳だ。
「では、石炭の採掘を手前も検討しましょう」
「よしなに」
「他にも耳寄りな話がありますかな?」
「やはり採掘ですな。殿は東伊予湊にも出店します。近くの山で銅が取れる筈だと仰せです」
東伊予湊といえば四国の真ん中に近い所だ・・・あそこに鉱山があったかな?
聞いたことが無いようだが、はて・・・
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