第155話・氏虎の商才?。
永禄五年七月 土佐沖 大和丸
風を捕えて膨らんだ帆の白さが青空に映えている。全帆航走した大和丸は熊野丸を引き離ししつつある。
「速いですなあ!」
琉球大使・池城安清は船尾上甲板で小さくなる熊野丸を見ながら言った。
「積荷が軽いからで御座ろうか」
「そのようです」
大和丸の試験航海で琉球に向かっている。積荷は二千石大和丸の一割程度だ。
大使が大和(紀湊)に来てから七ヶ月、書の往来はあるが一度帰って口頭での報告をしたいだろう。琉球に立ち寄るのは数日だが、大使に同乗を打診したところのってきたのだ。
速いが大きさも相まって挙動が安定している。初の舵輪式の操船性も良い。小回りは熊野丸の方が良いが大和丸もなかなかだ。
「取り舵、志布志湊へ!」
減速して左に傾いで方向を変えた。時刻はまだ早いが今日はここに停泊する。湊には数隻の水軍の船が浮かんでいるが、船首の小旗が肝付氏を表わしている。丸に小丸が四つ、羽が付いたような紋様だ。去年来た時は島津の丸に十字紋であった。
志布志は肝付氏の手に復したのだ。
「城にご挨拶の手土産を届けて呉れ」
「はっ」
「おう、まっこと、素晴らしき船だ!」
その男が湊に降りてきたのは、夕刻前だった。
「毛利水軍を壊滅させたのは、この船か?」
「いや、この船は竣工したばかりで御座る。毛利と戦ったのはそちらの船で御座るよ」
氏虎が対応しているのは、がっしりとした体格で中背ながら眼光が鋭く鬢に白いのが目立つ老年に近い男だ。
「儂は肝付兼続。ここの城主だ。お手前は山中殿か?」
「儂は山中家水軍大将・堀内氏虎で御座る。毛利戦にも儂が出陣し申した」
「おお、そなたが熊野水軍の堀内殿か。道理で精悍なお方だと思ったわ」
「肝付殿こそ稀に見る豪傑とお見受け致した」
「「わっはっはっは」」
どうやら氏虎と肝付は気が合ったようだ。まあ見た感じ同類に見えるからな・・・
「停泊するとの事、ご随意に。商船ならば売り物を見せてくれぬか?」
「停泊のご許可、忝し。今回は船の試験航海なればお見せする商品は少ないが、今甲板に並べよう。お上がり下されるか」
「おう、足軽用の刀に槍、胴丸に陣笠も質が良いのう。短弓も使い勝手が良さそうだ。火縄まであるのか・・・それにこちらの刀槍、値は張るがなかなか良い物だな・・」
肝付氏は武具に興味津々だ。
「それは大和刀匠の自信作で御座る。某も愛用しておるが頑丈で切れ味も良いですぞ。一度使うと手放せなくなり申す。足軽用の武器も今までの物よりは質が高く、その上に頑丈で実にお買い得な品で御座るよ」
うむ、氏虎もなかなか商売が上手いぞ、ちょっと意外だ、俺たちは遠巻きにしてその様子をニヤニヤしながら眺めている。
「この刀と槍を三本ずつ呉れぬか、家臣の報償にしたい。それに足軽用の刀・槍・陣笠・短弓を百個ずつ欲しい、あるか?」
「大和刀匠の刀と槍はすぐにお渡し出来ます。足軽用の物は残念ながら数が足りませぬで、紀湊の大和屋にお出で下さらぬか?」
「おお、紀ノ港なら近いのう。ならば船を出させよう。大和屋だな?」
「はい、大和の大和屋、武具から道具・兵糧まで扱う大和屋で御座ります。紀湊で聞けばすぐに分かりまする」
やるね。氏虎君、足軽百個セットの大口?契約をものにしたぜ。
感心したよ。単なる武術馬鹿ではなかったな、商いもいけるぜ。これから商いの出来る武術馬鹿と呼ぶからね(^0^)
永禄五年七月下旬 琉球首里城 尚元王
「安清、倭国は如何であったな?」
「はっ、山中様の御領地は驚く程栄えておりました。普請中の巨大な湊には各国の商人が店を出そうと詰め掛けておりまする」
「そうか、軍の力はどうか?」
「はっ、山中様は今、九州の博多湊の再興に着手している様です。ところが、毛利隊と周防水軍が襲って来て、それを僅かな手勢で壊滅したと聞いております」
「なんと、中国の雄・毛利家を相手に・・・・・・」
「はい。世間では山中様の軍が日の本最強だと評判で御座ります」
「ふむ、山中国の武力と商いの力は本物だということか」
「正しく左様で御座ります」
「ならば、そのまま大使として駐在してくれ。京の都の様子はどうか」
「はっ、倭国の天子様がおられる都は、周辺の有力者の争奪戦の舞台になっており、想像以上に荒れておりました」
「さようか。それも都の宿命だな。山中国もその内の一つか?」
「いいえ、山中国の兵は一度も都に入っておりませぬ。山中様ご本人も度重なる将軍や天子様の召還にも一切応えておらぬと聞いております」
「なんと、そのような事が許されるのか?」
「どうやら日の本の都のお偉方様には援助だけをして、近寄らぬのが最善の道だと聞きました。将軍家や天子様は有名無力で、都に行けば必ず厄介な政治闘争に巻き込まれると」
「・・そうか」
有名無力か・・悲しいが吾も大差はないな・・、
「とにかく我らも山中様と交流を深めて、商いを拡げ武具を調達して富国の道を進むべきだと思います」
「わかった。山中国との交流を深めよう。これからも皆で考えて国を強くして行かなければならぬ、安清も知恵を貸してくれ」
「ははっ」
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