第132話・ゴールドラッシュ。


永禄四年八月

今、南都の銀座本店はゴールドラッシュ状態だ。


かつて外国列強の商人が日本から金を吸い上げたように、南都の造貨場に日の本の金が凄い勢いで集っている。


金を運び込んでいるのは、大手の商人たちだ。各地の目敏い商人が銀で金を買って、それを山中領で両替しているのだ。


新たに銀座という組織を作った。金銀は厳重に保管して運搬する必要がある。まあ警備を強化した両替屋で山中家直営の組織だ。


金銀から硬貨に両替出来るのは、桑名・南都・五條・紀湊の銀座だけだ。特に湊を大幅拡張普請中の紀湊は各地の商人の船が沢山入るようになった。



 実は金貨の両替が下火なので、先月から交換比率を五分あげたのだ。


これまで金12.5gが4金貨だったのが、4金貨と銀貨2枚銅貨5枚になった。この銀貨銅貨がお得分だ、大量に両替するとそれだけで利が出るのだ。これに利聡い商人が飛びついたのだ。


 質が良く保管が楽で便利な硬貨はすんなりと商人に受けいれられて、あっと今に各地に広がった。



 硬貨の両替は毎月半ばで予定数になり停止する状態だ。銅貨100万枚、銀貨50万枚、金貨30万枚の貨幣がほぼ半月で消える。

銅貨の市場投入は、家臣や領民への給金でしている。これだけでも月に2・30万枚は出る。つまり300万銭=3千貫文は増えているのだ。とんでもない額だがそれでも市場の銭不足は解消されていない。だがこれは徐々に進めていかなければならない事業だ。


基本的に両替は市場に出ている金銀や銭と置き換えている形なので、全体としての増減は無い。増えているのはこの給金の分だけだ・・と思う。自信が無いのは、裏取引というものの存在が良く分からぬからだ。



「銅銭をもっと作って欲しいと各地の商人からの嘆願が届いておりますが、山中銭は山中領内だけ流通する貨幣である。領外の持ち出しは認めぬと断っております」


 十蔵が悪い顔をして言う。


「その通りだ。山中銭の両替は領内だけだ。領外への持ち出しはならぬぞ」

「しかし十棟もある銭蔵の床が抜け申した。金蔵、銀蔵も同じ様な状況でござる。山中領には意外と銭がありましたな」


「ふっふっふ、まあ家臣に給金を出せば、あっと今に無くなろう」

「左様ですな。五万もの家臣に出す銭はとんでもない額でござろうな」


 十蔵も家臣の給金については、勘定方家老の目木久衛門に丸投げだ。目木もその巨額に目を剥いているらしいぞ。銭が有り過ぎてもう銭を見るのは嫌だと言ったとか言わなかったとか・・



「都からは何か言ってきたか?」

「はい、山ほど。お聞きになりますか?」


「・・・聞かないでもいいか」


「一番大きいのが、帝から上京せよとの書簡が」

「・・・儂の具合が悪く出掛けられぬと返事してくれ」


「公方様よりも来ておりますが・・」

「体調が戻らず寝たきりだと返事してくれ」


「松永様よりの書状は?」

「読もう」


 ふむ、ふむ、やはりそう来たか・・


「なんと書いてありますな」

「山中銭が欲しいと」


「大和と丹波の松永領ですかな」

「摂津・河内・和泉・淡路・阿波・讃岐に山城もだ。公方様や帝も望んでいるらしい」


「・・参りましたな。しかし大将」

「なんだ?」

「自業自得でしょうな」


「そうだな。しかし領外で両替するのは問題がある。松永様には商人に依頼して山中領で両替をして欲しいと願おう」

「それが良いでしょうな・」



 実はこの貨幣造り、とんでもなく儲かるのだ。銭両替時に鋳造手間や悪銭や不純物のロスを大きくみているためだ。


 まあしかし流通させるのは、市場の物価をみながら一定の制限を加えなければならない。インフレ・デフレにならない様にね。



相変わらず京の東では六角勢と三好勢が睨み合っている。両方の国では田植えはちゃんと出来たのだろうか。それより何より、大丈夫か兵糧?

 三好一万五千、六角二万の四ヶ月の兵糧は膨大だぞ。


それより何より、国元の田植えはしたのか?

まあ米が無ければ戦も出来ないから、両軍の相当数の足軽が戻って田植えしただろうな。


 山中領でも五條などの大規模開墾した田は、兵が田植えをした。屯田兵って言うわけだ。五條の兵は屯田に物づくりが主な仕事だからな。


 せめて稲刈りの時期までには戦が終わるといいな・・・ん、ひょっとして動きが無いのは、腹減って動けねえからでは無いだろうな?



「それに大将、六角の布施が三雲と山岡の悪い噂を流しているようですぞ」

「それは、十蔵がやろうとした事だろう?」


 自隊に大きな被害が出た布施は、あまり被害が出ていない山岡と三雲の事を悪し様に言っているようだ。

切っ掛けは俺がいるであろう法用砦を不意討ちして俺を浚う事に三雲と山岡が情報不足だと反対した事だという。


俺はたしかに居たけどね。まあ一千もの部隊が動けば、あっと今に忍び衆に察知されて、待ち伏せして壊滅で終わりだっただろうけどね。


山中軍を舐めているね。

騎馬隊なら多聞城・法用砦・木津城を四半刻で駆け付られるのだぞ。

まったく・・馬鹿野郎だね。


「左様、某の楽しみを奪われました・・」

「はっはっは、どうやら布施は狭小な性格だな、そういう者がいると六角が滅びるのは早いかもな」


「大六角が滅びましょうか?」

「うむ、先代は大きな男だったが、義賢からこれまた狭小な義治の代になると内部から崩壊するかも知れぬ」



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