失望野球部
今井杞憂
第1話 空元気?
突然、今の生活が終わりを告げることが決まったら、どう思うだろうか。
終わったら、ではなく、第三者によって終わりが決められたら、という話である。
「という訳で、野球部は廃部だから」
校長の一言で、俺の青春は終わりを告げられた。
**********
廃部を告げられた翌日、俺は野球部の部室に来ていた。
「あ、
部室には、控え選手の
「ああ、遊佐。お疲れ」
「……廃部、だってね」
「ああ」
「ずっと、頑張ってきたのに……」
遊佐は泣き出してしまった。声は立てずに。
俺だって悲しい。悔しい。泣きたい。
でも、遊佐の涙のほうが明らかに重い。俺たち同学年は十人。遊佐は唯一、試合に出られない選手だからだ。
ここの野球部はただでさえ勝ててない。でも、俺たちはまだ一年生だ。もう少しチャンスをくれたっていいじゃないか。
そう思っていると、捕手の
「おい、聞いてくれ。廃部を延ばしてもらった」
「延ばすって?」
俺は耳を疑った。
「校長は今すぐにでも廃部にしたがってたけどな。教育委員会に報告してもいいんですねって言ったら、『それは困るぅ~、よし分かった、君たちが卒業してからにするぅ~』ってさ。やっぱりあの狸、世間体と保身にしか興味ないみたいだな」
やっぱり食えない男だな。あっはっは、と笑う米沢を見て、俺はそう思った。
ただ、米沢の笑顔が空元気であることも、容易に察しがついた。
数十分後。
選手十人全員が集まり、話し合いが行われた。
議題は勿論、これからどうするか。
米沢が廃部の延期を告げても、喜ぶ奴はいなかった。それもそのはずだ。
延ばしてもらったところで、俺たちが勝てる保証など、どこにもない。
せめて、公式戦53連敗などという、更新中の記録が無ければ、幾分かは良かったのかもしれない。もしくは、86点差という、県内の公式戦での最大得点差が無ければ、良かったのかもしれない。が、結果は結果、変えられない。
「やっぱり、公式戦一勝じゃないか? 目指すのは」
一塁手の
「じゃあ、勝つために何をするべきだ?」
主将の
「そりゃ、練習して……」
「練習しただけで、勝てるの?」
高瀬がそう言うと、高擶を含めたほとんどの部員が口をつぐんだ。
だが、遊佐だけは違った。
「練習しただけじゃ確かに勝てない。でも、練習しなきゃ勝てないよ」
「じゃあ、俺たちに足りないもの、言える?」
高瀬が問い返す。
「まあ、まずは……監督でしょ」
「だよなぁ」と漏らしたのは、遊撃手の
「監督、辞めちゃったもんな」
今の二年生が集団万引き、暴行など、めちゃくちゃにやってしまったのが、廃部への引き金。監督も責任を取って辞めてしまったから、指導者もいない。あと二年で定年ではあったが、選手からは好かれていた人だった。
夏の大会で三年生が引退した直後にこれ。さらに、延ばしてはもらえたものの、校長は「廃部」と確かに言った。
本当に腐ってると思う。二年生も校長も、今の結果と地位を簡単に受け入れている自分たちも。
「あとはまあ、勝つときに足りないこと、だよな」
「ああ」
三塁手の
「
前監督の関根は、よく言えば楽しんで成長することを重視、悪く言えば勝つのは二の次、といった方針だった。公立校だし、よっぽどのことが無い限りは解任の心配はない。
今年の夏も初戦負け。ただ、上級生は、「九回までやれたんだから頑張ったほうだよな」という会話を交わしていたので、要するにそういうレベルである。正直、どこをどう取り繕っても、五点差の無安打無得点負けは「頑張った」レベルではない。しかも相手は貧打で、打たれた安打は四本だけ。失策五つが全て失点に絡んだ。
「大体、得意なことだけやって勝とうなんてのが、虫のいい話だよな」
瀬見と同じく外野手の
「そのとーりぃ。みんな分かってんじゃないのさ」
女性で、身長は百五十センチとちょっとくらい。十人のなかで一番小さい俺、
「あの、どちら様ですか?」
そう高瀬が問うたが、米沢は「俺は知ってるぞ、入学した時に全員覚えたからな」と得意そうに言った。
「お、まさか一年生で知ってる生徒が居るなんてね。どこの担任もしてないのに」
「そりゃあ、教師のネタは俺の大好物ですからね。名前くらい把握しとかないと」
グヘヘ、と笑う米沢は無視し、改めて名前を聞く。
「よくぞ聞いてくれた。私は
「よろしくって、何がですか?」
高擶がそう言うと、千歳は事もなげにサラリと答えた。
「何って、君たち野球部の監督に決まってるじゃん」
◆◇◆追記
読んで下さりありがとうございます。弱小校が成長していくという王道ストーリーですが、飽きるまではお付き合い頂けたらと考えています。それではまた次回。
◆◇◆おまけ
最大得点差試合のランニングスコア(五回コールドゲーム)
0 0 0 0 0|0
21 18 32 15 Ⅹ|86
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