ノン恋フィクション

あるあお

第1話

 私の一番目の彼女Aとは、ネットで知り合った。流行っていたSNSでのやり取りから、実際に会おう、という流れになり、恋仲になった。

 通りを歩けば10人中5人は振り返る程度に美人で、10人中11人は注目するであろうオッパイの大きい彼女Aだった。ブラの既製品が少なくて、しかも高いし、可愛いデザインが無い! といつも困っていたのを良く覚えている。

 当時の私は、初めての彼女&巨乳&美人という事もあり、有頂天だった。毎日がハッピーで、彼女Aに呼び出されれば、例え深夜であろうと、車を走らせ駆け付けた。

 そんな彼女Aが動画配信をやりたいと言い出したので、私は高性能パソコンを用意し、マイク・カメラ等々配信環境を整え、彼女Aのネットデビューを全力でサポートした。

 会社の有給の殆どを彼女Aの為に使い、祖父、祖母には死んだことになってもらい忌引休暇も取得した。当時の私は狂ったように、彼女Aのオッパイを……彼女Aを溺愛していた。

 そして彼女Aは、万を期して、ネットデビューをした。

 そして数カ月で動画配信に飽きて、辞めた。

 さらに、その時ネットで知り合った男と遊んでいるうちに、彼女Aはその男と恋に落ちていた。


 私は一瞬の瞬きの間に、彼女Aの中で過去の男になってしまった。


 初めてのオッパイ……ではなく、初めての彼女を失った私は、この世の終わりだと嘆いていた。

 青空は灰色に見え、夜の闇は逆に薄明るく見えた。私の世界からは色が抜け落ちてしまった。


『男の失恋の傷は、時間と女が解決するんだ。だから婚活にうわなにをすくぁwせdrftgyふじこ』


 そう言いながら酒を勧めてきた友人Tに私は八つ当たりをし、渡された婚活のチラシを破り捨てた。友人Tに対して怒鳴り散らし、彼を追い出した後、私は何もする気が起きなくなった。何日も何日も家に閉じこもり、水の他に、固形物を食べた記憶が無い。当然、仕事にも行かなかった。よくもまぁ、こんな従業員をクビにしなかったものだと、今更ながら思う。

 栄養失調と睡眠不足とその他諸々により、思考も意識もあやふやで定まらなくなり、もうこのまま死んでもいいや。大家さんすみません。この部屋、事故物件になります……。と私が思い始めた頃、視界の端に、床に破り捨てられたバラバラの婚活チラシが目に留まった。

 気が付いたら、私はのろのろとチラシの破片を摘まみ上げて、机の上に並べはじめていた。

 チラシが元の形を取り戻した時、私は友人Tの言葉と、そして魂に刻まれてしまった、大きなオッパイを思い出した。


 私は巨乳と出会うために、婚活に参加することにした。


 そして婚活に参加した私は、貧乳と出会っ……彼女Mと出会った。

 彼女Mは、漫画やアニメで言えば、描画すらされないMOB顔だった。10人中誰も振り返らない、MOBオブザMOBだった。そしてチッパイだった。慎ましいと言えば聞こえはいいが……正直に言ったら、背中と見分けがつか……彼女Mの尊厳の為にこれ以上はやめておこう。

 彼女Mは、私の好みのタイプとは真逆だった。容姿も私の好きな美人系でなく、敢えて言うならば、カワイイ系(?)であった。……正直言えば、MOBなので大して可愛くもなかった。オッパイに至っては、彼女Aと比べて月と鼈くらい差があった。同じ人間でどうしてこんなに差がでるのかと、私はいつも不思議に思い……もうオッパイの話はやめておこう。

 そんな感じに、私の彼女Mに対する好感度はほぼ0であった。メールの返事は適当であるし、彼女Mが食事に誘おうが、映画に誘おうが「用事がある」と言って断っていた。諦めずにこんな塩対応の男に対して、妙な積極性を出す彼女Mを、当時の私は不思議に感じていた。こんな男のどこが良いのやら。彼女Mは人を見る目が無いなぁ、と。


 そんな私の元に、友人Tがやってきた。そして彼は私にこう言った。


『オッパイの大きい女を振り向かせるよりも、最初から自分を好いてくれる貧乳を好きになった方が良いぞ? 楽だし』


 そんな友人Tの言葉に、私は「ふーん。でも俺は貧乳より巨乳」と答えた。

 友人Tが残した言葉に対して、口では適当な事を言っていた私だが、実際には「一理ある」とも感じていた。

 好きな女性に、自分の魅力を伝え、好意を抱いてもらうのは、とっても大変な事だ。友人Tが言うように、最初から自分を好きな女であれば、確かに楽だと思ったのだ。


 私は友人Tが帰った後、諦めの悪い貧乳M……おっと失礼。彼女Mの何度目かの食事のお誘いに乗ることにした。その時の彼女Mは「本当?」と返信してきた。私はその返信を無視し「いつ行く?」とだけ返した。

 その後、彼女Mと食事に行き、映画に行き、日帰り旅行を重ね、泊まりの旅行にも行き……。


 私は、オッパイに貴賎は無い、という真理にたどり着いた。

 大きいも小さいも関係ない。オッパイは尊く、みな素晴らしいモノだと気が付いた。

 そして、私は彼女Aを思い出す事が無くなり、彼女Mの事を考えている時間の方が、圧倒的に多くなっている事に漸く気が付いた。


 男の失恋の傷は、時間と女が解決してくれる。

 まさにその通りだった。


 オッパイ成分は、巨乳ではなく、貧乳でも十分賄える。

 まさにその通りだった。



 私は先日、彼女Mから「絶対に逃がさないぞ♡」と「結婚すっぞ」宣言をされている。正直言うとその時の彼女Mは怖かった。彼女Mの目が笑ってなくて、捕食者の目をしていたからだ。断ったら殺されるかもしれない、と思った。だから、笑顔で「嬉しい」と答えた。

 さらに、彼女Mの御実家の隣に、既に二人が住む為の家が用意されていると知らされた時は体が震えた。私は引きつった笑顔で「ありがとう」と答えた。

 追い打ちで「コンドームに穴を開けるのは流石にやめた」という発言を聞いた時は、夜逃げしようかと思った。

 私は笑顔を顔面にペタリと張り付けて「子供は何人くらい欲しい?」と聞いてみた。彼女Mに「いっぱい!」と即答された。頑張らないと……と思った。


 そんな彼女Mに、私は数週間後、プロポーズするつもりだ。そしてそのまま籍を入れることになるだろう。……正直なところ、彼女Mは突飛な事をやらかすので、不安な面の方が多いかもしれない。だけれど、今の私は、彼女Mとなら、きっとなんだかんだ上手く過ごしているだろうなぁ、という妙な確信が持てていた。

 それに、私には彼女Mに絶対に言えない、些細な楽しみ……好奇心がある。

 彼女Mと同じ時間を過ごす中で、私はその好奇心をを少しずつ満たしていこうと思う。


 それは――――




 Q オッパイは揉むと大きくなるのか?

 A ――――。

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ノン恋フィクション あるあお @turuyatan

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