復讐:神代の絶望

相澤の粛清を見届けた俺は、外のベンチで千聖を待っていた。

ココアを持つ手が震えていた。

最初の相澤の悲鳴が相当きていたようだ。


「すーっ…ふぅ…」


落ち着こうと深呼吸をし、ココアを口に含む。

体が暖まる。それだけだが俺には救いだった。


「俺は優しいんじゃない…甘いだけだ……」


あんなに恨んでいたのに、いざ目の当たりにすると怖気付いてしまう。

元カノという思い出の数々が俺の脳裏に過ぎる。

本当に……だめだな俺は。

俺が自分に落胆していると、千聖が戻ってきた。


「おまたせっ」


そう言ってぴょんっと跳ねて止まる。

千聖といるだけで心が落ち着く。

俺はもう千聖依存性なのか!?

これは治療が必要……いやいらないか。

心の中でバカなやり取りをしてむりやりいつも通りのテンションに戻す。


「次あの神代ってやつ?」


「ああ、最後は派手にいこう」


「んふふ。楽しみだな〜」


千聖はそう言ってはにかんだ。

神代は相澤のようにぬるく終わらせるつもりはない。

あのクソ面に一発お見舞いしてやる。









土曜日の朝10時、場所は変わって神代の屋敷。


「紗枝のやつなにしてるんだ?」


神代は昨日から相澤と連絡がつかない。

相澤が返信しなかったのは最高でも一時間ほどだ。

いつもならすぐ返すはずの相澤が一日も返信してこないなんて珍しい。


「これじゃあ明日の配信に参加するかわからないじゃか!」


それ故に神代は苛立っていた。

自分が待たせるのは逆に気分がいいが、待たされるのはどうしても許せない。


「なにしてるんだっ!」


持っていたスマホを壁に投げつける。

それと同時にチャイムが鳴った。

誰も出ていないのか、何度もチャイムがなる。


「おい!誰もいないのか!?」


鳴り止まないチャイムに苛立ちを隠せなかった。

自然と声が荒くなる。


「そういえば……くそっ!」


突然家の従業員たちが一斉に辞めた。

お金にもう困らなくなったと皆が口を揃えて言った。

仕方なく神代は出ることにした。


「なんだ!何度も何度もうるさいぞお前!」


インターホンがあるところに出た途端にそう叫ぶ。

しかしそこには誰もいなかった。


「は……?」


神代が呆気にとられていると、首から全身へ激しい衝撃が流れわたる。


「かはっ!」


神代は抵抗する間もなく気絶した。













「うぐっ!」


唐突な冷たさに目が覚める。


「う…うう……」


意識がハッキリしない。

頭がまだ痺れている感覚に襲われる。


「おはよう」


だんだんと脳が起きる。

視界のボヤけがなくなっていき、目の前にいる人物がハッキリと見えるようになる。


「荒川…?」


「ようやく起きたか?」


「なんでお前が俺の目の前に……っ!?」


ようやく縛られていることに気づく神代。

起きてからというものもあって、急な展開に思考が追いつかない。


「おい!これはどういうことだ!?さっさと解け!」


「嫌と言ったら?」


「お前を今すぐに殺してやる!嫌なら解くんだ!」


「んー、それは嫌だな」


「はっ!なら早く解くんだな」


「でも無理だ」


「な、なんだと!?」


神代は顔を真っ赤にして蒼太を睨みつける。


「まだ自分の立場を理解できていないようだな」


「は?なにをいって…」


「これ、なにかわかるか?」


蒼太はそう言って神代に熱しているハサミを見せる。


「な、なんなんだそれは?」


額に汗がにじみ出る。


「拷問っていくつもあるだろ?」


「は、は?」


蒼太はそんな神代はおかまいなしに話を続ける。


「プライドの高い人間は何個目の拷問で挫けるんだろうな」


「お前は、どうなんだ神代」


「お、おおおお前まさか!!」


刃の部分が真っ赤になったハサミを持って蒼太は神代に近づき、指先を刃の間に入れる。


「すぐに失神するなよ?」


「やめろ!やめろおおおおおお!!」


パチンっと軽い音が鳴り響くとともに、


「ぐあああああああああああ!!!!!」


神代の悲鳴が響いた。

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