ゴートラスタ島で、三日月を伸ばしたくて
崇期
序
二十歳で社会人となってから、一週間もお休みをもらったのははじめてのことと言える。
失業期間中は旅行へ行こうなどという余裕はまったく持てなかった。働いているときは、もっとそうだ。いわゆるお客様商売、サービス業だったので、盆も正月も交代で出ていることが多かった。社会人生活二十二年目、四度の転職を経験。勤め先は二社倒産している。能力の幅がどうにも狭いので、だいたい似たような業種で働いてきた。
私が今、いさせてもらっている会社は、やや古い体制で、従業員三十名程度の中小企業だ。有給休暇を取っている人など見たことがなかったが、義務化に逆らえるわけもなく、ほぼ社員と同じスタンスで年中走り回っている社長から「津村ちゃん、この辺で休みどう? よかったら取っちゃってよ」と壁にかかっているカレンダーを指差して言われた。
その下に貼りつけてある、売り上げ成績表。改めて、トップをひた走っている店舗と自分の所属するチームの棒グラフを見比べてから、もっと平和的な、無味乾燥な数字に目をやる。
「連休前にってことですか?」
「この前まとめて取ってみたいって言ってたじゃん。せっかくだから、いいんじゃない? 来月からキャンペーンとかで忙しくなるし、今のうちにね」
いくらなんでも急だわ、と思った。でも、個人の思いで自由に取れるものとも思っていない──というわけで、その提案を受け入れ、おかげで予期せぬまとまった連休が実現し、私は今ゴートラスタ島にいる。
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