あの娘になりたい
赤井林檎
第1話 彼の好きな人
彼が好き。
いつも八重歯をチラッと覗かせて、顔をくしゃくしゃにしながら笑う、彼が好き。
彼の笑顔はいつも眩しい。
彼__山本翔吾、私、岡田咲子の好きな人。
高校の入学式で初めて彼を見て、すぐに恋に落ちた。一目惚れだったのだ。
私は彼を見た瞬間、彼と出会うためにこの世に産まれてきたのだと感じた。
それから毎日彼のクラスに行き、彼の姿を見るのが日課になっていた。
そして3年になり、ついに彼と同じクラスになった。
毎日朝教室に行くと彼がいる。彼のあの笑顔を毎日見れる。どんなに幸せだろうか。
あれ…?
今日は彼が私の見たことのない顔をしている。彼の頬はほんのりと紅くなっており、猫のようなキリッとした目が少しだけとろんとしているような気がする。
ドキッとした…。私にはわかる…。私も彼を見ているときは今の彼のような顔をしているはずだもの。
彼には好きな人がいる。
彼の目線の方に目をやると、そこには吉川美緒がいつもの仲良し4人グループで何やら雑談していた。
クラスで1番美人で、1番頭が良い子。
彼はきっと、あの娘が好きなんだ…。
「なるほどね〜…」
お昼休憩、屋上でお弁当を食べながら私は親友の武田真由美に今日の山本君の様子を話した。
「きっと、吉川さんのこと好きなんだよ、山本君…。吉川さんになんて勝てるわけない…」
「でもさぁー、付き合ってるわけじゃないんでしょ?そもそも山本君が吉川さんのこと好きってことも、咲子の勘違いかもしれないしー」
「うん、たしか彼女はいないはずだから付き合ってはなさそうだけど…でもあれは絶対好きだと思う!」
「まあどっちにしろ、咲子がアタックしてみればいいんだよ!山本君に!」
「いや〜、私には無理…。見てるだけで充分…」
私が山本君にアタックするなんて無理な話だ。私にそんな勇気ある訳ない。私がアタックしたところで山本君が振り向いてくれるはずないもの。私は吉川さんみたいに美人でもないし頭も良くない。地味で暗くて目立たない。これといって取り柄もない。
「じゃあもし吉川さんと山本君が付き合ったとして、それでも咲子は指をくわえてただ見てるだけなの?」
「えっ…。それは辛いけど…でも仕方ないよ。」
山本君と恋人同士になれるのは、きっと吉川さんみたいな美人だけだ。私みたいな女は山本君とは釣り合わない。
でもやっぱり彼が私以外の誰かのことを愛してほしくないし、誰かのものになって欲しくない。本当は山本君のあの笑顔を1番近くで見ていたいし、あの華奢だけど大きな手に触れてみたい。細いのに意外とがっちりしていそうなあの胸に抱かれてみたい…。
「咲子っていつもそう…。最初から自分は無理だって何でも諦めてる。たまには頑張ってみればいいのに」
「そりゃあ私だって、もっと綺麗だったら頑張るけど…こんなブスに好かれたって、山本君も迷惑だよ」
「咲子はブスじゃない。もっと頑張ったらもっと綺麗になれる!」
「頑張るって、具体的に何を頑張ったらいいと思う?」
「そうだなー、まず少し痩せる!そして、ベタだけど、メガネをコンタクトにする!」
「…わかった、やってみる!」
「すごいじゃん!そうこなくっちゃ!」
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