→[処理が終了しました。]→【転校生の事を少し思い出した】→


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 ……?


「……どうしたの? 大丈夫?」

「……? あ、おう?」

「オットセイかな?」

「ォウッ! ォウッ!」

「よかった、元気だ」


 何か、ボーっとしていたようだ。

 何かあった気がする? いや、部屋の中で何が起こるというのだろう。


 転校生がくる。

 という話をしていたような気がする。


 そうだ。なんか、話を続けていたらぐずりそうだなっていうか、最近反応が鬱陶しすぎるからちょっと我慢もきつくなってきたな、みたいなことを考えていたはずだ。ストレスで意識が遠のいてしまったのだろうか。


「転校生、仲良くなれるといいね」

「……あ? うん……? 最近といってること違う、違うくない?」

「さすがに邪魔したら駄目だなって考え直したんだよ! 褒めてもいいんだよ?」

「マイナスがゼロになって褒めるとは……?」


 違和感があった。

 言葉自体もそうだが、デジャブというか。

 既視感があって、でも齟齬があるような。


 もっと、何か、違う事を言っていたような気がしたのだ。

 でも、それを言及する気にはなれなかった。

 言ってることを翻されてもなんだし――何か、嫌な予感がした。

 何かこのことでこれ以上ストレスを抱えたらキレるかもしれないというのならそうだ。

 でも、よくわからないけど、それ以外もあるような。

 ともかく、ヤメテ置いたほうがいいと思ったのだ。


 その選択肢は選ばない方がいい。


「男子なんでしょ? 仕方ないから、少しはくるみちゃんとかの相手して情報網構築で我慢していることにするよ」

「頭悪いのに情報網とかいってる」

「笑いながら言う事じゃないんだよ! 私は頭悪くないもん。色々よくなったの。なってるの」

「頭いい人はテストで四十点とかとらないと思うんだよなぁ……」

「次からは大丈夫だもん……」


 何か、自分の中で納得があったのだろうか?

 驚くほど、スムーズに物事が進んでいる気がする。

 すでに依存心がある程度取れているような……そうじゃなくても、独占欲が強すぎて制限するといったことは薄くなっている? 何か、裏があるかもしれないが、それはそれで自制が効いているということでもある。

 いや、だからといって前言撤回して友達になろうとするのやーめた! ということはないけど。


「芽依もちゃんと他にも友達作れるやつがでてくるといいんだけどな。転校生と俺が仲良くなれば、一応必然的に顔見知りにはなるだろうけど……そこから友達になれるかは別だしなぁ。くるみちゃんとかは……もうあれだけど」

「ふふ、心配してくれてありがとう。嫌われてないって素敵だねぇ。逃げられないっていいことなんだよ」

「は? 逃げるってなんだよ……なんかぞっとしたんだけど……芽依ちゃんは追いかけてくる系ホラー生物だった?」

「気が付いたら後ろにいる系なんだよ!」

「ひぇっ……戸締りしとこ」

「戸締りしてもベッドの下から這い出てくるのだ」

「タコの親戚かな?」


 これで転校生と仲良くなれたとしたら、時間が分割される以上に、できたこと自体に意味がでてくる。一対一で広がりがないのも悪い。

 芽依にも同性の友達あたりができれば精神も安定しやすいし依存心も下がっていくと思うのだが……その辺はもう、中学あたりで期待するしかないだろうか。

 だってなぁ、もうクラスメイトとかはほら……俺はもともと嫌なイメージしかないからあれだったけど……芽依自身も、もう完全に上下関係みたいになっちゃってるっぽいというか……

 なんだかんだ、もうちょっと対等な同性がいると、愚痴なども吐き出せるしいい方向に来やすいと思う。


 もうちょっと、距離感さえわかってくれれば俺だって苛立ちは少なくなるだろうし、向こうも不満が結果的に少なくなるだろうしウィンウィンになる、はず。

 もうちょっとお互いが物理的な面でも成長すれば、あれな話だが別の欲求も混ざってきて許せる部分も出てくるだろう……その分、また面倒になる部分だとか、それによって結局離れることになるとかもありうるけど。


「……ん?」

「あ、いや、なんでもない。それにしても、いきなり切り替わったもんだなー、その、考え方? とか」


 一瞬、芽依の目がとても、最近多くなっていたハイライト芸みたいなのりの空虚な目ではなく、もっと悍ましい何かに見えたような気がした。

 微笑んでいる。いつもより、綺麗な笑みだといってもいい。ちょっと、すっきりさえしているような、そういう顔だ。

 やはり、気のせいだったのだろう。大体、そういう目をする理由もないはずだ。


 演技ではない、はず。


 だって、一応、気付くのが遅れたこともあるとはいえ、これでも二年くらいは付き合いがある。

 そこまで感情強い状態では演技ができないことを知っているし、ある程度隠せるとは言え、よく注意していればやはり子供らしさというものがあって粗は見えてくるはずだから。


 それがいまないのだから、やはり、いい方向に向かっているということだ。

 もしかしたら、俺自身も依存心というか、勝手ながらも一応独占欲みたいなものがないわけではないのだ。

 ちょっと、うまくいうとそれはそれで寂しいとかもったいないとかいうのが滲み出て、そう簡単に良い感じになったりしないと思いたかったのかもしれない。もしそうなら、笑える話だ。


「啓くんとは、ずっと友達で一緒にいられるんだから、ちょっとしたことでぶつかるのはもったいないなって思ったんだよ。ナカヨシ!」

「はいはいなかよしなかよし」

「おざなりなんだよ!」

「難しい言葉知ってますねー」


 ともかく、予想外の事だが説得しなくていいというのは好都合だ。

 俺自身のためにもなることだ。

 もちろん、無理やり友達になろうとは思わない。気が合わないとかお互いにありうることだ。


「ふふ、上手くいくといいね」


 そういって笑う芽依は、見たことがないくらい大人びて見えた。

 女の子の成長は早いというが、そういうことなんだろうか。






 我が流動のクラスメイト達は、この一年俺といういかれている奴と、なんかクソほどたくましくなっちゃった芽依による、調教といってはあれだけど……対応し続けたものたちである。

 こういってはなんだが、他の噂があったり、未来ではいじめを劇化した奴らよりよほどましになったんじゃないかと。


 彼ら、彼女らは学んだ。

 力もないのにやべぇ奴には逆らうな。

 お互い死んだような目をしている。よぉし仲間だ、優しくしようぜ……

 みたいな一体感まで生まれだしているというか。

 反面教師というかなんというか。


 俺の鬱陶しいウザがらみムーブとかも少しは影響があったのかもしれない。

 なんか、疲れたような顔になった後は人には優しくしたほうがいいよ……できないならせめて無理に触らないのがいい……そう、つまり、要は敵対しないことが大事なのだ……ビリーブ……という心理にたどり着いたようだというか。


 滅茶苦茶親切になったわけではない。

 極端に善良になったわけでもない。元が元だし。

 率先して何かしようとか、極端に触れて鬱陶しいヒーロームーブするようになった、とかでもない。


 ただ、余裕があってできる時は手伝ったりするし、無駄に子供らしくつっかかったり意地を張ったりを控えるようになっていったのだ。

 そう……いうなれば、なんか大人の対応というものを覚えたらしい。


 ぶっちゃけ気持ち悪い。


「三宮大祐です」


 そんなところに、噂の転校生がきた。

 見た目は記憶の通りに、包帯でほとんど顔が見えないくらいになっている。手も手袋をしているようだ。ほとんど皮膚という皮膚が見えない状態。


 そんな、ここまで子供じゃなくともひそひそ話くらいはありそうな転校生。

 しかし、とんでも人物の対応に他の同級生よりずっと慣れたクラスメイト共がその転校生を目の前にして選んだのは、沈黙。

 沈黙である。

 騒がない、余計なことを言わない、刺激しない。逆に不自然。


 その悪く言えば無難。

 しかし、当たり障りのないプラスでもマイナスでもない対応をしてのけたのだ……まだ騒ぎがちで感情に振り回されまくりの子供がである。

 一体だれがこんなことができるクラスにしてしまったというのだろう。


 転校生が来た小学校の教室、とはとても思えないくらいシン、としている。

 物音を立てては負けだ……! という勝負をしてでもいるかのようだ。


「ええっと、じゃあ三宮はあそこな」

「はい」


 事なかれ主義の担任も慣れたもので、その静寂にわざわざ触れたりはしない。そのほうが面倒がないともう学んでいる。

 もちろん、質問タイムなどない。

 ないのだ。トラブルのもとでしかないと思っているのだろう。馴染むとか馴染まないとかは知ったこっちゃない、というところだろう。


 入ってきた時から期待も失望もない、というような目ではあったが、これについては三宮大祐と呼ばれた少年は、わかりにくいがほっとしたように見えた。

 わかる。わかるよ。

 子供だから無遠慮な質問とか平気でしてもおかしくないもんな。子供じゃなくても嫌な奴はいるけど、子供ならなおさら。

 えー、とか、きゃー、とか、下手すると気持ち悪い、みたいな声があるくらいも予想していただろう。期待もなにもしていない、みたいな無感情の目だけが異様な存在感を放っていたとはいえ、ちょっと体は緊張して固まっていたようだし。


 三宮君は無言で用意されていたらしい、少し俺からは離れた席に座った。近くの奴は珍しげに見ることもない。護身が完了している。


 改めて見てみると、仲良くなれるだろうか? とは疑問になる。

 警戒心の強さはもちろん、なんか当然、とは思いたくはないが、色々あったのだろうというのがわかる目に雰囲気だ。人間不信的なものもあるかもしれない。


 そこでちょっと考えてみようではないか。

 俺はクラス連中からして、やべぇ奴扱いである。

 ガキ大将というよりは『こっわ、近寄らないようにしよ』枠。


 知られた時点で仲良くなれないのでは……?


 いや、柔和な雰囲気で取り込みやすい風にすれば、逆に『こいつの近くにいれば安全』枠として考えられ……友達が作りたいんであって、別に利害関係だけで結ばれたいわけじゃないんだよなぁ……


「……」


 友達とは。

 同性の友達って、どうやってつくるものだったか。

 割と適当に話していればそれなりの関係になって、そこそこ付き合いながら地雷があったら離れる……うん。


 掘っていくと、俺、利害関係とか浅い関係以外で友達ってつくったことないような……うん。そうだ。現実の俺ってそういうやつしかやってねぇんだよなぁ……


 つい、上を向いて遠い目をしてしまった。

 被害妄想か空耳か、芽依のクスリという笑い声が聞こえた気がした。


 時間かかりそう。何か、きっかけでもないか。

 今までのよりも未知が強く、それそれでわくわくしているのも確かだった。

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