→【後悔を解消する。】→中途半端だけど片付いたから良し。→変わった日常を過、
→中途半端だけど片付いたから良し。→変わった日常を過、
徹底的にやろう、そう思っていたが躊躇った。
ほどほどでもいいと思ったのだ。
その場で止まればいい。
何せ、暴力なんて振るわないに越したことはない。
一撃でもう泣いているし、馬鹿でないなら周りも反撃がくると学んだことだろう。
何せ、俺というやつは野郎と脳筋に思った割には、現実でやったことはそうない。
少なくとも、ほぼ一方的に殴るという経験は全くないと言い切ってもいい。
だから、これ以上をする気にはなれなかった。ただの弱い者いじめになると感じてしまったから、振るう手がのらない。
「……っ」
何かを言いそうな、もう一人――殴っていない女の集団の中でリーダーを気取っている主犯が口を開く前ににらみつける。
やめておけ、という感情が伝わったかどうかは定かではない。
定かではないが、目をそらして確かに下を向いた。
歯向かう事を避けたのだ。
なら、それでいい。
裏から男どもを操作していた節があるし、そっちを押さえたし、わかっていると目で告げた。
結局、予想以上に広まってから怯えて手を引くような奴なんだから、これくらいで十分だろう。
「啓くん」
手が温かくなったと思ったら、俺の手をそっと芽依が握っていた。
暴力を振るっているという自覚が、今もぐずっている子供で芽生えてしまったか、気付かぬうちに震えてしまっていたらしいことをそれで自覚した。
もともと暴力を振るうこと自体が好きという訳ではない、ということもある。
しかし、それ以上に、調子に乗って振るうとやりすぎてしまうような嫌な予感のようなものが走ってしまったせいでもあった。
脳筋手段に頼っておきながらひよったといってもいい。
脳裏に、『子供は簡単に大怪我するよな、位置的に少し押し込んで倒れたら尖ったところで頭うちそうな角度だし』みたいな考えがよぎって離れなくなってしまったのだ。
実際、いじめになりかけていた悪戯や嫌がらせはやんだようだ。
喧嘩自体が小規模と捉えられたからか、教師の大きな介入すらなかった。いってはなんだが、さすがの駄目さである。一応怒られる準備位していたのだが無駄だったようだ。
表向きそれっぽいのはなくなっているし、男も気に食わないような目をしているものの関わらないようになった。
女の方は陰口は継続しているようだが――一応、聞こえないようにやっているつもりレベルで悪戯に広めて耳に入らないようにはなったらしい。
まぁまぁ平和になったよ、と芽依がいっていた。
こんなものだろう。
片付け方としては中途半端だが、やりすぎて大ごとになって、別の意味でどうしようもなくなるよりは。
ちゃんとお礼も言われたし、芽依のいう通りじゃないが、まぁまぁ満足できる結果といっていいんじゃないだろうか。
ヘイトが芽依よりこっちに来たという意味でも、もういじめは起こりにくいだろうし。
とはいえ、芽は残っているし、稼いだヘイトのぶん面倒くさい目を向けられることも増えた。
特に、どうしてそっちがというか、プライドが傷ついたのか殴られた男のほう……じゃなくて、にらみつけて行動を止めた女の方がいたく芽依にもだが、俺にもヘイトを向け続けているらしい。
男の方が恨むようじゃないかといえば、こっちも面倒くさい目を向けてきてはいるのだが。
直接どうこう、というのはないものの、無視しているような俺が気に食わないからか、手を出さないからこそか、ぎらついた目をずっとわかりやすく向け続けてきている。
さすがに、異常な執着に見えたのか、それとも先の一件でそうなったのか。
危うきに近寄りたくないというように、グループは縮小化の一手をたどっているらしい。
子供相手だし、どうとでもなるだろう。
現在は放置の一手である。もう、向こうからくるまで構ってやるつもりもない。
くるようなら今度こそ叩きのめせばいい。
そんな中でだらだら面倒なことは避けつつも、芽依などと遊びつつ毎日を過ごしていた。
そうしたら、ついに母の妊娠が発覚。
ということは事故の件に備えなければ――などと考えながら、芽依も今度遊ぶ時一緒に来るか? などと声をかけてみた。
家庭がうまくいっていないことを知ったからだ。
「うーん。家族りょこー? についていくのは気が引けるな……」
といわれて断られた。一応、誘っては見たものの、そうだろうなとは思った。元々今回はどっちにせよ誘っても中止にする前提ではあったけれども。
大体からして、家族がいる時に家に来るのも避けている節がある。
だから、仲がいい、程度はうちの親も芽依を認知はしているが、それ以上は知らない。
いじめられかけていた云々、殴って解決しようとした云々等々は、ことが小さくまとまっただけに言いにくい。
友達の親だからとて、仕方ない状況ならともかく、芽依だって自分の事を話されても困るだろうみたいな考えもあって。
芽依もどうやら、俺に行動させておいて知らせないレベルで黙っている、みたいな状態になぜかちょっと後ろめたさみたいなものを感じている様子もあり。
なんとなく、それが我が家では遊びにくい、みたいな雰囲気になってしまったのだ。
うちに来て親に絡むようなら、親も色々察して手出ししてきたリはしたかもしれないが、合わないのだから『息子の仲いい友達』みたいなレベルの印象しかないわけで。
なんとなく、その友達の親に連絡があまり繋がりにくいな、とは感じているようだが外面保つのは割と上手なようで。
「まぁーそれは置いといても、相変わらず果物うまいな。滅茶苦茶甘い。俺がいつも食ってるのは何物だったいうんだ……偽物?」
「高いみたいだからねー。いったら大抵のものは買ってくれるんだよ? 食べてみたいのとか、あったらいってね。いったら用意してくれるから。うちには、ほとんどいないけど」
へへへ、と笑う顔はいつもより明るくない無理をしたものだ。
そう、こうして興味なく放置されている現状などは、伝わりようがない。
「……ま、仕方ないから俺が遊んでやろう。対価はお菓子と果物でいい」
「へへー」
「ははー! じゃないのか」
「おこがまがえるなんだよ」
「おこがましい、な。それだと怒ってる蛙さんになっちゃうだろ」
「げろげろ」
少なくとも、身の回りなど金のかかる部分だけはしっかりしているのだからなおさらだ。
体面を気にして外面をよくするなら、興味がなくても子供一人くらい騙しぬいて見せて見ろというのだ。
「りょこーってお弁当とか持っていくの?」
「旅行ってほど遠出するとかじゃないよ。でも。あー。弁当なー……ぬるくなりそうだし、母の人別に料理うまくないし……」
「お弁当がいいのに……」
「うーん。そっかなぁ……じゃあ買い物連れてってもらってゆすってみるか!」
「普通にお願いすればいいと思うよ……あ! じゃあ今度私が作る? 作ったことないけど!」
「何がじゃあ、なんですかねぇ……」
精神状態が悪かったのは、これも関りがあったのだろうが――俺にはどうしようもない。
ただ遊んで気を紛らわしてやるくらいしかできないだろう。
今は、これ以上踏み込む余裕も覚悟も、俺にはないのだから。
芽依に言われたから、というわけじゃないが休みの日に母とでかけることになった。
まだそこまで負担ではない様子で、具合も悪そうではない。
あの日に具合悪かったのは、主に頭痛とかだった気がするし、もともと母自体は頭痛もちだが病気は少なく、むしろ体が強い方らしいというのはゲームでやり直しプレイをしてから知ったことだ。
「お弁当! お弁当!」
「なんでお母さんのほうがテンション上がってんの……?」
はしゃぐ役割が逆のような母を伴いつつ、ぽくぽくと歩く。
今日は暑いのに元気なものだ。子供より元気なのってどうなの? というくらい元気があふれている。
その姿を見ると、改めて事故は回避しなければ、と思わせてくれる。
この弁当も無駄になるという事になりそうだが、まぁ、材料がすぐ腐るわけでもなしに。
次の日にピクニックでも予定して、そこで作ってもらうなどすればいいのだ。どうせ得意じゃないんだから、みんなで作ってもいい。自分で作ったら多少おいしい補正も働いてくれるんじゃないだろうか。
「もうすぐ地獄の一丁目だぜ……」
「地下街に怒られろ」
目的地の一つにいくために、地下街に行くための階段付近に近づいた時――
「啓!」
叫びと、ドン、という衝撃。
浮遊感。
「あ?」
押された背中。
振り返れば、最近見たような目をしたクラスメイトの少年がいて。
スローで浮いているような感覚の中、その向こう側に同じく見たような、いやらしい顔をしたクラスメイトの少女がいたのが確認できた。
だからといって、何がわかるわけもない。
階段。
落ちる。
――これ、下手すると死ぬのでは?
そんなこと考える時間すらあった。非常に緩やかに、危機が迫ってくる。
ただそれを、待つしかないだけのゆっくりな時間。
泳ぐように、ゆっくりどうしようもなく無意識に伸ばした手。
手すりからは遠い。むしろ中心付近だ。壁から遠い。ちょっと浮いている。無理やり途中で止まるのも難しいだろう。
どうして? こんなバカの事を。
できるような奴じゃなかったはずだ。
もともとこいつは少年らしいというかガキらしい承認欲求とか独占欲とか好意の裏返しとかあったが、そこまでの奴で、操られて便利に使われる程度の奴で――大それたことなんてできるやつじゃ……いやそうか。
奥にいる。ざまをみろというような、醜いと自覚していないのだろう表情をしているガキか。
どうなるか、理解しているのだろうか。
どこか他人事のように考える。
俺が大怪我してもそうだ。死にでもしたら、なおさら。
自分だけ、言い逃れできるとか思っているんだろうか?
やったのはあいつです、って?
確認できないいじめじゃないんだ、そんなことは不可能なのに。
多少ならともかく、収まるような範囲ならともかく、ここまで、そこまで馬鹿なことしたらどうしようもない。
そんな、そんな程度の事がわからない奴が――
わからないような奴でしかない、責任逃れだけはすぐして逃げ出したまま安堵するような奴に、俺が?
中途半端だった。
やるべきだった。
自分だけは大丈夫、なんて思っているからこんなことができる。
やり返される、やるということをちゃんと伝えるべきだった。伝わる、なんてあいまいにしちゃいけない奴だったんだ。
普通より悪めのやつで、芽があっただなんてことに、記憶ではすぐ逃げ出していたからこそ気が付かなかった――
クソが。
クソが!
と思うもどうしようもない。
諦めていると、手が温かい気がした。
意識を向けると、あの日よりがっしり掴まれていて、引き寄せられて。
それをゆっくり体感していながら、どうしようも動きもできなくて。
時間の流れが戻る。
離れすぎていたのだろう。引き寄せられても、足りなくて――俺も、恐らく庇おうとした母も、頭から落ちる羽目になったのだと思う。
強烈な痛みとぼやける意識。
「――――!!!!!!!!」
ざわめいているようだ。
多分。
人が落ちているというか、落ちたのだし、当然だと思う。
ぼやけてにじんでいくような感じがする。
こぼれるような。漏れていくような。
つい、と、スローだった弊害か、加速しているような世界を見ている気分で母を見る。
母がこちらを見ている。
光のない目で、こちらを見ている。
意識のなく、動かない母は、みたことがある。
でもこんな風に、でろりとしていて、光のない母は初めて見た。
きっと、弟妹も、どうしようもない。
それがとても悲しくて。
きっと終わりだというのに、これ以上それを見ないでいいという事実だけがまるで慰めのように思えて、任せるままに目を閉じる。
「お前が悪いんだ!
くるみちゃんもいってたぞ!
お前がやらなきゃしなかったんだ!
どうだよぼくは強いだろ!
ぼくの勝ちだろ! こうしたら勝ちだって、教えてもらったんだからな!
怖くなんかないんだお前なんか、お前なんか僕は怖くない僕の方が――」
やりすぎるぎりぎりのライン近くまでやらないとわからない馬鹿はいる。ちゃんとやらないと自分だけは大丈夫だ、一方的にできる存在なんだと思い込める馬鹿がいる。普段は普通に流されるくせに、何かのきっかけで馬鹿な行動力を使える芽があるやつがあのクラスにいることもわかった。
なんとなく、全部は覚えていられないような気がした。
だから、次はきっと、いい塩梅に、しかし容赦なくやろうとだけ、色々怒りも恨みも置いて、それだけを忘れないように刻み込んだ。
内容はわからないが、不快であることだけはわかるバックミュージックが近づいてくるのをなんとなく感じながら、意識がおりていく。
自然に落ちる前に、また衝撃が来て、強制的に終わった。
「まいりましたって、言えよ! 僕の勝ちだろ!!!」
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