もふもふと製錬
顔に何かが触れる。その違和感によって俺は
体を丸めているその姿はまさに毛玉のようであり、何とも触り心地が良さそうだ。口から零れて凝固した血がコントラストとなり、勇敢な動物の大往生のようにも見える。すぅすぅと寝息を立てている所にはギャップが生まれ、可愛げもあったりした。
「気持ちよさそうに寝やがって」
そう愚痴りながらも、自分のことながら口角が上がっていることに気づいていた。いつもより寝床が狭くなったのにも関わらず、よく眠れたのは気のせいでは無くこの毛玉のおかげだろう。もう一度寝ても良かったが、狙いすましたかのように腹の音が鳴った。そしてそれは俺ではなく冬狼からだった。飯を作って下さいと言わんばかりである。新参者で居候の言いなりになるのは
「うっ、寒い」
冬狼の毛のお陰で忘れていたが、この時期の朝は酷く冷える。その日の最高温度が氷点下になることすらある。壁に掛かっている気温計を見るに、とても人が生活していけるような温度を示してはいなかった。この地域をよく知らない者が見れば壊れているのかと勘違いしてもおかしくない。
「……先に炉をつけてしまわないと」
ベッドから冬狼を起こさないようにそっと起き上がる。こんな寒さでは朝ご飯ができる前に凍えてしまう。戦車には元々大勢の兵士を輸送できるような部屋が設けられていたが、それを全てぶち抜いて一つの大きな部屋を作った。その為、人一人が暮らすには十分過ぎる大きさの空間が戦車の中だというのに生まれていた。
俺は部屋の中心にある数々の炉が鎮座する場所に向かった。一際目を引く大きな炉は
錬金術の主な目的は三つ。
ではどうするか。
「ちょうどいいし、次いでに銃作るか」
武器製造をするのである。ある程度の製錬技術と溶鉱炉があればいいということで、多くの錬金術師が武器、主に銃器を作っている。お陰で
肝心の朝食作りは後回しにすることにした。まず何よりも作業を優先するのは、錬金術師の悲しき
◆
俺は
俺は棚から『
コークスと呼ばれる焼いた石炭と
次に鉄を融解させる作業へと入る。そこで使うのが
そして、ここぞとばかりに足元にあるペダルを思いっきり踏みつける。連動した送風機が高温の
鉄はその温度に耐えきれずに融解を始めた。ここまでの手間を掛けて
銑鉄は耐熱素材でできた通路を流れて、これまた隣接した転炉に入っていく。全ての銑鉄が出切ったと思ったところで蓋を閉める。一向に冷める気配を見せない溶鉱炉の中に残っている
その後に転炉によって銑鉄を酸素に触れさせること中に含まれている炭素を取り除き、更に純度を上げて
紅炎を起こす際に使用した水のせいで、戦車の中は出来の悪いサウナのような状態になっていた。ちらっとベットの方を見やると冬狼は深い眠りについているままだった。時折、体を少し
俺は製錬の方に意識を戻した。予め用意していた水の入った鍋に転炉に設けられた口から中の鋼を注ぎ込んでゆく。その後、水蒸気の上がる鍋をよく振り、中身の鉄を
そして鋼を型に流し込んでパーツを作る。決められた型に決められた量を流し込むのだ。鉄は熱いうちに打てという
こうして金属を取り出して更にそこから加工していくまでの
後は無事に形となったパーツを組み立てるだけ、という所で冬狼がのそのそと寝床から起き上がってきた。どうせ鋼が冷えて固まるまで時間がかかるので、取り敢えず作業は中断することに決めた。そしてタイミング良く、俺の腹もぐぅぅと鳴り出したのだった。
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