第8話試験開始

担当教師「あー公平を期すため希望制ではないため選んでやれない。とルール上は言わなければならないんだが、面倒だしお前らでいいか。相手となる班だが....仲良さそうなそこのお前らに決定だ。」


教師が選んだ対戦相手は男女比が1:2であり、リューズ風に表すなら"大当たり"の班であった。もちろんそんな羨ましい班に何も感情を抱かないわけもなく、アホ2人は凄まじい形相で睨み付けていた。


担当教師「それじゃあ他の班は二階に行ってくれ。もう少ししたら俺の合図で試験を始める。それまでは敵同士とは言えクラスメイトなんだから軽い会話でもしててくれ。くれぐれも合図の前におっぱじめるなよ。」


「よし。それじゃあまずは僕たちから自己紹介させてくれないかな?」


リューズ「あーはいはい。勝手にどうぞ。」


「ありがとう。では僕から名乗らせてもらうよ。僕はフリュー。この学校での目標は、たくさん友達を作って楽しい学生生活を送ること。よろしくね。」


クルヴィ「聞いてないのに目標とか言い出したぞ。」


フリュー「班員が女子だけだったから男子の友達が欲しかったんだ。試験が終わったら一緒に買い物にでもいこうよ!」


ガルイク「恐ろしく気さくで爽やかな男だな。バカ二人とは正反対だ。」


リューズ「張り倒すぞ」


「次はあたしね。あたしはユミナ。あんまりパッとしないあんた達にわざわざ名乗ってあげたんだからフリューに感謝しなさい。」


ガルイク「言われてるぞ、お前ら。」


リューズ「おぉ...可愛い...口が悪いところも絶妙なスパイスになっている。満点だ..」


クルヴィ「うん、最高。とにかく顔がタイプ。終わったら告白するか。」


ガルイク「....」


「あっあの、私はメリディアといいます!あぁっ、声が大きかったですよね。ごめんなさい..」


リューズ「あー↑いいね。引っ込み思案で小動物のような可愛らしさが素晴らしい。満点だ..」


クルヴィ「うん、最高。とにかく顔がタイプ。終わったら告白するか。」


ガルイク「脳みそがかなり萎縮してるんだろうな。ゴブリンと合コンでもしててくれ。」


担当教師「待たせたな、それじゃあ始めるぞ。俺がこの笛を吹いたら始めてくれ。」


いよいよ始まる試験に、対戦を控えた生徒を含め、皆が緊張した面持ちをしている中、一人だけ不敵な笑みを浮かべていた。


ガルイク「作戦はおぼえているな?ただの役割分担とはいえ、足の引っ張り合いを可能な限り避けれるはずだ。」


クルヴィ「もちろん!俺がメインでモテまくる!」


リューズ「ふっ。大人なおれは後ろから支えてやるよ。お前たち脇役をな..」


担当教師「それじゃあ。ピー。」


“よーい”のような掛け声もなくテキトーなやる気の感じない弱弱しい笛が鳴った。互いにコンセプトは同じなのか前衛1、後衛2のサポートに人員を割くかたちであったため、フリューとクルヴィが距離を詰め合う。


フリュー「友達とはいえ、これは試験だからね。手加減なしの全力で行かせてもらうよ!」


クルヴィ「遺書は書いてきたか?お前はここで事故死するんだからなぁ!くたばれぇぇえ!!」


明らかに気合に入り方がおかしいクルヴィに気おされてしまいフリューの顔面にモロに拳が入る。この隙にガルイクが土をドーム状に作り出し二人を隔離させる。


担当教師「お。上手いな。」


ガルイク「リューズ!火属性を!」


リューズ「OK蒸し焼きだな!」


少しだけ空いた穴に向かって即座に火を放つが土のドームを覆うように氷のドームが生成される。


メリディア「火傷で済みそうにないから..あ、危ないのはダメです!」


ユミナ「ナイスよメリー!さてと、あたしに火属性を使って来るなんていい度胸じゃない!丸焦げにしてあげるわ!間抜け2号!!」


ガルイク「言われてるぞ、歯抜け二本。呼吸し易そうで羨ましいぞ。」


リューズ「お前毒吐きすぎだろ毒属性使いかよ。彼女という解毒剤が欲しいです。」


前衛同士と後衛同士がぶつかり合うが、2層のドームで囲われている2人をよそに魔法が飛び交う。火属性を得意とするユミナが凄まじい勢いの火球を乱発しているがリューズにそれをしのぎ切る程の力はないため


ユミナ「ほらほらほらぁ!逃げるだけじゃあたしには勝てないわよ、2号!」


リューズ「やばいやばいやばいぃ!!何であんなに撃ち続けれるのに俺だけを狙ってんだ!ああああああああ走れぇ!助けてガルゥウウ!」


ガルイク「悪いがこっちも手が離せない!あの子、凄まじいぞ!」


全く動いていないはずのガルイクの額を汗が流れる。じわじわと表情が険しくなるにつれて地表の温度が下がっていく。


メリディア「あっ、諦めてください!」


ガルイク「地面を氷で覆って自分の場にするつもりだ!抵抗しているが直に押し負ける!」


リューズ「俺にできることはないぞ!頑張れ!」


ガルイク「お前はモテない!絶対にな!」


何もできないと言ったが策がない訳じゃない。力比べだけが闘いじゃないってとこ見せないとな。


必死に逃げ回っていたリューズが急に真っ直ぐに正面から向かっていく。先ほどまでの逃走劇が噓のようにグングン距離を縮めていく。


ユミナ「近づけばなんとかなるって思ってるのかしら?だとしたらやっぱり間抜けね!」


リューズに向けて放った火球を途中で落とす。するとたちまち凄まじい勢いで火柱が上がりリューズの接近を阻む。


ユミナ「これで近づくことどころか避けることすら難しくなったでしょ。汗をかきたくないし、そろそろ終わらせる!」


更に弾幕が激しくなり、的確に狙い撃ちをしてくる火球を避け切れず正面から受けそうになり魔力で体を硬める。が、直撃すると思われた火球は足元で落ち、火柱が上がる。痛恨のミス。ではなく火柱を突き破って火球が飛び出した。


リューズ「しまっ..」


一瞬、気が緩んでしまい直撃してしまう。魔力での強化は集中力を使うため気休めほどの出力しか出せていない。間違いなく無事では済まない。


ユミナ「目くらましからの時間差攻撃。少しは頭脳プレイを見せた方が判定で有利でしょ。火傷したでしょうけど男の子なら我慢しなさいよね。」


リューズ「女の子だから我慢できてないと思うけどな。」


ピンピンしていた。火傷の痕どころか服に焦げすら見えない。それもそのはず。そもそも当たっていないのだから。


リューズ「最初はちゃんと気にしてたみたいだけど、ヒートアップして完全に失念してただろ。」


ユミナ「あっ!メリー!」


メリディアに当たらないように火球を放っていたが、火柱を使用することで自らの視界を悪くしてしまった結果、リューズに利用されてしまった。


ユミナ「ごめんなさいメリー!大丈夫?火傷してない?」


メリディア「う、うん。大丈夫だよ。それよりも..」


とっさに氷の壁を張り身を守ったが、凍りかけていた地面が温度を取り戻すと共に主導権をガルイクに奪われてしまう。


ガルイク「リューズ!俺は今から一時的に相手を引き離す。その内にクルヴィと共に爽快男を仕留めてこい!」


リューズ「了解!あいつの首を楽しみにしてな!」


最初と同じようにユミナとメリディアを幾重もの土のドームで抑え込む。一つ目のドームを放棄してこちらに全神経を集中させる。


ユミナ「メリー。あなたなら簡単に破れないかしら。」


メリディア「ううん。ダメみたい。あの人、魔力操作が上手で穴を開けると直ぐに埋められちゃう。」


ユミナ「あたしとはかなり相性が悪いわね。火を使えば蒸し焼きになるから手が出せない。全部を吹き飛ばしたいところだけど、魔力は無駄に使っちゃったし..」


女子二人がドームからの脱出に苦戦を強いられる中、男たちの祭りが始まろうとしていた。


リューズ「どうもこんにちは。死刑執行人でーす。」


ずかずかと放棄されたドーム内に入り込む。今までひたすらに肉弾戦をしていただけあって二人共疲弊しきっている。


フリュー「これは..厳しい展開だね。」


クルヴィ「来てよかったのか?ガル一人だとあの子たちが心配だ。」


リューズ「安心しろ、やつは不能だ。さぁ予め言っておくがこのドームはとっくに捨てられていて簡単に壊せてしまう。しかし!漢である我々はあえてこの中で雌雄を決したい!我が友フリューよ。この願い、聞き入れてくれまいか。」


フリュー「ふふ。友達の願いなら断れないね。いいよ、やろう!」


クルヴィ「あの世で後悔するなよ!」


鬼気迫る二人による数分間に渡るインファイトになんとか応戦していたフリューだが、限界が迫っており、徐々に防御が間に合わなくなる。友と言っておきながらまるで親の仇を相手しているような無情な鉄拳の嵐になすすべなく意識を飛ばされてしまう。


クルヴィ「よっしゃあ!俺らの勝ちだぞリューズ!!」


リューズ「ふふ、ふふふ、ふふふふ。」


不気味な笑みを浮かべながらクルヴィに近づいていく。


クルヴィ「おい大丈夫か。殴られすぎておかしくなったのか?」


冗談を言いながらもリューズを心配して、肩を貸そうとした瞬間、クルヴィの腹に拳が一閃。


リューズ「勝者は一人の方が目立つよなぁ。まぁ後は上手くやっとくよ。」


クルヴィ「この..ゴミ野郎..」


そう言い放ち意識を手放してしまう。そう、リューズのこの試験での目標はあくまで目立ってモテることなのだ。勝ち負けなど二の次である。


ガルイク「クソッ。まだか、二人共!」


一人になったガルイクは閉じ込めた二人を相手にドームを維持できなくなりつつあった。限界間近であったがギリギリでリューズが姿を見せた。


ガルイク「勝ったか⁉」


リューズ「うおおおおおおおぉぉぉん!俺たちの大切な仲間のクルヴィがぁぁぁぁ!クルヴィがボコボコにされてぇぇぇぇ!」


突如大声で泣き出すリューズ。あまりの出来事にガルイクもあっけにとられドームを開放してしまう。


リューズ「どうして!どうして友達であるフリューと殴り合ってしまったんだぁぁ!俺はあんなに止めたのにいぃぃぃ!俺たちは友達じゃなかったのかぁぁ!俺はかなし..」


ピーッ!!


迫真の演技の途中だが笛が鳴った。担当教師が気まずいそうな顔で近づいてくる。


担当教師「あー試験終了だ。なんだその、悪かったな。いきなり学友同士で闘うってのは少々過激だったよな。まぁとりあえず気絶しているやつは医務室に連れていってくれ。勝負の判定は後日連絡する。」


気絶した二人を医務室に連れていくリューズに皆から盛大な拍手が贈られる。中には涙を流しながらその友情の有様を讃える者もいた。そんな中、彼は絶えずゲスな笑みを浮かべていた。


これで俺の株は大暴騰!!!!一人勝ちぃ!!!!

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