シェイダーズ 〜男子高校生、妖怪退治に強制参加の模様〜
浜藍蓮華
偽りの七不思議編
第1話 予想外系男女
なろう:https://ncode.syosetu.com/n2799fe/
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あまり運命とかそういうのを信じたくはない、そういう星の元生まれてきたと自分の生まれを揶揄されたくないし。
でも、ただ少なくともこの状況で、この蒼天の霹靂のような出会いだけは運命なんじゃないかと思ってしまったりする。
夜の校舎は眩く輝く赤色のスパークによって、紅のヴィヴィットカラー1色に染まり上がった。
怒声みたいな叫び声と劈く悲鳴が響く、正真正銘、ここが正念場だ、ここでやらなきゃどうすると自分を鼓舞する。
微かに感じる暖かな火の温もりが、体から抜け出た血液で血まみれになって一層冷え切った体の芯に染み渡り動くための活力を与えてくれた。
霞んだ視界の端に映る感覚の乏しくなった手を握っては開くを繰り返す、どうやらまだ辛うじて動くらしい。
…お膳立ては十分。
死んでたまるか。まだ動く、動いてみせる。
地に伏せていた体に無理やり力を込めて上半身だけを起こす、下半身は…既にもう感覚がない。
『これ以上は動くな』と体が警鐘として激しい痛みを出力してくる、でも全部無視して全身全霊、最後の1投をーーー
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(なんか…すっげえ変な夢を見てたような気がする)
今は昼休み、授業という睡眠増幅装置から解放された生徒達が昼飯を食べたり、友達とだべったりしてる中、ぼっちでぼーっと外を眺めている男子生徒其の一。
それが俺である。
昼食は早弁したし、次の授業の宿題も無いので本当にやることがない、完全に手持ち無沙汰状態。
太陽の陽気と窓から吹き付ける少し冷っこい風が気持ちいい。
初夏特有のジメジメした天気ではなく、ちょうどいい感じの気温と湿度、加えて風も丁度よく吹いているのだ。
これでのんびりとしない方がおかしい。
「ふわぁ〜〜」
予想より大きいあくびが出た。
このままだと夢の世界への直通ルートだが、とはいえまだ眠るわけにもいかない。
徐々に丸まりつつある体をしっかり起こしつつ、腕や肩を軽く伸ばしてストレッチする。
「ぉわっ…!?
…あのさあ、もうちょっと気配とかそういうの、どうにかならねえのかよ」
俺が座っている席の横を素通りしかけた一年にしては随分と大柄な男子生徒はようやく俺に気付くと、小さく驚くとついでと言わんばかりに文句まで垂れた。
「…悪かったな、こちとら生まれつき影が薄くてね」
けっ、と効果音をセルフで挿入しつつ悪びれるふりをするが、これもまたいつもの教室の日常風景である。
男子生徒改め俺の数少ない友人である弦矢 源二が無駄に爽快な笑い声を上げた。
「んな顔しちゃって、とっくに慣れてるって自分でさんざん言ってんじゃねえかよ、うりうり〜」
「…うざっ」
何を勘違いしたのかニタニタと態とらしく悪い顔をして肘で俺を突いてくる、特に痛くはないがシンプルにうざい。
…運動部特有のノリというのについていけない陰キャみたいな感じとか、そういうものでは断じてない、決して違う。
頭によぎった悲しい事実を否定しつつ、今なお俺を肘でつついている友人を払いのける。
「やめろ、っと邪魔だっての…ったく、毎回驚かれるってのは割とクるもんがあんだよ、というか…面倒くさい?」
「確かに。毎回ビビられてちゃ世話ねえもんな」
…慣れてるって点についてはイグザクトリー、残念ながらその通りだ。
俺、
曰く、夕方に帰宅しようと思ったら急に後ろに気配が、びっくりして悲鳴をあげたけどよく見ると俺だったとか。
前に立たれていても俺から話しかけられるまで全く気づかなかったとか、悲しいことにこういった話がマジで枚挙に暇がない。
たまに自動ドアが反応しないのは流石にどうかと思うし勘弁してほしい。科学技術の結晶が個人の体質に負けてどうすんだよ…
「全く…俺は幽霊か何かですかって話だっての」
「実際幽霊よりタチ悪いぜ、なんたって実害ないのに確実に存在してんだからな」
「俺に何か恨みでもあるのかよオイ、泣くぞ?」
源二、意外と辛辣。
もしかしてさっきのことを恨んでるのだろうか。
実際はこの体質もとっくの昔に慣れたし、授業中に居眠りしててもほとんどバレなかったりするので、そんなに悪い事ばかりじゃない。
むしろ体質のおかげで得をした事もそこそこあるし、開き直ってしまえばデメリットとメリットは釣り合ってるような気すらする。
その証拠と言っては何だが、さっきの数学の授業は開始5分で夢の中でした(ニッコリ)。
源二が持ち主の出払っているお隣さんの席に腰掛ける、手には購買でうまいと評判のコロッケパンが握られていた。
俺が寝起きの眠気に抗ってぼーっとするのに時間を消費していた間に購買に行ってたのか、道理でいつもより来るのが遅いわけだ。
源二はコロッケパンの封を切ろうとして、ふとこちらを見る。
俺の手元の方をジロジロと見ると、疑問がありそうな顔で話しかけてきた。
「…お前昼食はどうした?」
「あ〜2限の途中に食べたわ、臭わなかった?」
「やっぱ真犯人はお前かよ!?
先生がマジでキレてたのを笑って見てやがったな!?」
得をする部分ってのはこういう所である。
いや〜、一般的に厳しいと評判の先生の授業で飯を食べるのはなかなかスリルがあって面白かった。
先生が臭いに気づいたけど誰が食ってるか見当もつかないからキレながら授業続けてたのは見ものでしたね。
「いい天気だし中庭行かね?後20分くらいはあるし」
「個人的には早弁の真犯人として疑われた俺に対する謝罪をだな……はあ〜、もういいや。
中庭か、別にいいけどさ、お前結構好きだよな」
「前者に関しては…大変すまないと思っている。
んで、まあ中庭が好きというか…うちの学校の構造、随分と風変わりだなぁって、今更だけど」
「謝罪する気がない謝罪どーも。
まあ…変ではあるよな、ドーナツみたいで」
俺らが通っている私立森咲高校は立地的には山の中腹を整地して建てられていて、通学路は緩やかな坂がしばらく続くため自転車通学がちょっとしんどい。
学校のパンフ曰く創立は江戸時代の寺子屋だそうだが、変に改築を繰り返したせいで面白いことにパッチワークのようにコンクリの校舎と木造校舎が入り混じっている。
どうやら何十回も校舎の補強や追加で建物を増築したりして今の形になったそうだが、耐震構造とか問題ねえのかと度々疑問に思ったりもする。
木造校舎の部分は生徒間では旧校舎と呼ばれているがその旧校舎、夕方を過ぎると古めかしい雰囲気と相まってやたら不気味なので、うちの学校では定期的に新しい怪談話が騒がれている、という噂話。
今の所そういった話は、昔からある学校の七不思議くらいしか聞いたことないんだよなあ…
でも特に不思議なのは源二が言っているようにそこそこの広さの中庭を校舎がぐるっと囲んでいる事だろう。
ドーナツの様に校舎の真ん中がポッカリと空いていて中庭になっていて生徒は自由に利用できるが、どうしてこんな構造にしたのか、コレガワカラナイ。
そして、その中庭の真ん中にはかなり立派な1本の古い桜の木が佇んでいるのだ。
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中庭に移動し、2人掛けのベンチに野郎二人で腰掛けながら駄弁る。ちなみにコロッケパンは1分もしないうちにこの巨人の腹に消えた。
「だってさ、この桜は別に移植すればよくね?
そうすれば中庭にちゃんとした通路が作れて移動が楽になると思うんだけどさ」
ご立派な大木を指差しながら疑問をぶつける。木の年齢については全くわからないが300年は生きた木なんじゃないだろうか、幹を抱きしめても腕が回る気がしない。
それに、桜が1本だけ中庭に隔離されているような気がして、なんというか…可哀想?
桜があるだけで確かに中庭が立派なのはその通りだとは思うが。
…あれか?ぼっち気味の人間特有の仲間意識的な?
そんなことを考えていると源二が急にニヤニヤし始めた。
「桜の樹の下には死体が埋まってるって言うじゃねえか。
おまえ、きっとそいつに呼ばれてるんだよ」
ひゅ〜どろどろどろ、とセルフ効果音を口にしながらおどろおどろしい口調で話す。どうしよう全く怖くない。
今、俺うまいことを言ったな、みたいな雰囲気でドヤ顔をかましているのがこれまた少しイラっとくる。
この男、顔もそこそこで高身長、バスケ部期待の新人だというのにこういう性格のせいでモテない、所謂残念系男子だ。
「おま…セルフ効果音って、ガキじゃねえんだから」
呆れ半分面白さ半分で返答する。まさにムードメーカーって感じの雰囲気なんだよな、こいつ。
影が薄い所為か、はたまた単純に人付き合いが苦手なだけか、多分前者だけど俺には軽口をたたける友人が少ない…というかクラスメイトに高確率で誰?と聞かれる程度の認知度なのでこんな感じの源二との適当な会話は好ましい。
…本人に言うと色々面倒なので言わないが。
「へいへい、どうせ俺にはこういう台詞は向いてないですよ〜だ」
よ〜だってお前…やっぱり高校1年生なのに随分とまた幼いっていうか、ガキじゃねえんだからさ…
______キーンコーンカーンコーン
本日5回目の
「っと教室戻らねえと」
「オーケー」
どうせ寝てても何も言われないが授業は面倒なことに変わりない。
足は重くなりつつも中庭のベンチを後にする、と言っても1年生の教室は1階なので別にそんなに急ぐ必要はないのだが。
予鈴がなってから大体2分ほど、あと3分で授業が始まるというところで教室に無事にたどり着いた。
「じゃあまた放課後な?」
「おうよ」
こちらもじゃあなと言い返す前に源二はまた爽快に笑いながら自分の席に戻って行った、人の話は最後まで聞けっての…っと。
俺も次の授業の支度をしないといけないが、次は…現文か。
(めんどくせぇな…)
教科書を机から取り出すが、腕を枕のようにして机ごと覆いかぶさる。
運良くクジ引きで手に入れた窓際最後尾の席+ポカポカお日様陽気に当てられ意識がホワッとしてきた。
飯を食べたあとは胃に血が行くので眠くなる。つまりこれは生理現象、避けられない逃げられないので仕方ない。
…食べてないけど。
無駄に正当化してみるが…ダメだ、クソ眠…
…どうせ影薄いし、バレないし。ま、平気だろ。
なんてふわふわ考えながらも、意識はだんだん遠のいてゆき…___________
______キーンコーンカーンコーン
☆ ☆ ☆ ☆
──微睡みから覚めると、そこは沈黙が支配する茜色差す校舎だった。
なんて、女口説いてる時の源二みたいにロマンチストを気取ってみたが、早い話が目が覚めたら夕方。
推測ではあるが、どうやらあの馬鹿野郎げんじにも担任にも忘れ去られて、絶賛学校に取り残されているらしい。
「…あちゃ〜、やらかした」
この状況が何となく色々と拙いということを察して、そんな独り言兼愚痴が口から自然と漏れ出た。
「…って、にしても静かすぎね?」
日の傾き加減的にまだ運動部が外を走る音とか、硬球がバットに当たる音とかしても良い時間帯だと思うが…今日は部活動のない日だったっけ?
生憎部活動には所属してないのでそういうのには疎いんだよな…
壁掛け時計に目をこらすと、時計の針は午後18時50分を刺している。
確か部活動の最終下校時刻は6時半だったはずなので大きく予想が外れた、そりゃ部活動の音もしないわけだと納得する。
ということは…授業中含めて5時間くらいぐっすりしてたわけか、これは流石に寝すぎてる。
今晩はあんまり眠くならないだろうな…
とりあえずこっからどうするか…目覚めたばっかりであまり頭が働いていないのか思考がまとまらない。
眠い目を擦りながら机の中の教科書やらを適当に鞄に放り込んで帰り支度をさっさと済ませる、というかマジで静かだな。
今の最終下校時刻は約1時間前なので部活動もとっくに終わってるし、そりゃ学校も静かなわけ…だ?
「…いや、やっぱり変だろ」
若干頭が回り出したからか、急に違和感を覚えた。
いくら田舎の山中にある学校だからといっても、この時間帯は流石に教師が仕事で残って居てもおかしくない…というか残ってるもんだろ。
近年ブラックだ何だと騒がれているだけあって残業が長いともっぱら噂。
でもそれにしては今の学校全体があまりにも静かすぎる、まさに『誰もいない静けさ』って感じになっているのは流石に違和感を感じざるを得ない。
なんとなく感じていた違和感が明確となり、それが余計大きな違和感へと膨れ上がる。
目を瞑って耳に意識を傾けても、夏の煩い虫の声と鳥のさえずりしか入ってこない。
おおよそ人間の生活音なんてものは聞こえてこないので、本当ににこの学校には誰もいないのではないかと錯覚してしまう。
まだ日も沈んでいないのに。
(…さっさと帰った方がいいな)
『薄暗くなった古めかしい学校、人のいる気配はおろか生活音が全くしない』、そこまで考えると少し怖くなって軽く鳥肌がたった。
荷物をササッとまとめて教室を出、ドアを閉めようと振り返って見た外の風景では、山に差しかかる夕日がその顔を大地に引っ込めようとしている。
一見日本の原風景とも思えるような美しい景色だが、ふと、どうしてだか胸にとてつもない焦燥感と疎外感のようなものを覚える。
「…もうすぐ、夜か」
──ねえ、知ってる?うちの学校の七不思議の1つ。
──1階奥の男子トイレ、赤紙青紙の話。
夜が迫ってきて少し怖くなったからだろうか。
いつだったか女子生徒が愉しそうに語っていた七不思議の話、それがふと頭を過ぎっていった。
疎外感のような何かと、そして今感じた認識の違和感。
それも含めてなんだか段々気味が悪くなってきて体に鳥肌がたつ。
…寒気のせいかトイレ行きたくなった。
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