海行く翼と春告ぐ緑

美夢るる

1章 ~緑~

第0話 だれもしらない童話

━━━爽やかな風が野原を流れてゆく。

小さなつぼみが、少しずつ

やわらかな花弁を開いてゆく。

穏やかな、ある晴れた春の日のお話。

まだ、だれもしらない童話━━━。


「おはよう」

だれもいない無音の空間に、

ぽつりと声を投げる。

当然、返答など返ってこない。

いつも通り、制服を着て、朝食を食べて、

鞄を持って学校へ行く。

いつも通り、仲のいい友達と話して、

先生に少し叱られて、

家に帰って、ポストを覗く。

普通じゃない私にできる、

精一杯の『あたりまえ』。

それでもやっぱり、満たされない。

ずっとずっと、からっぽなわたしのまま。


━━━凍ってしまった時間がいつか、

春の日差しに暖められて、小さなつぼみを

開かせる、そのときを、ずっと━━━。

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