幕間 邪王軍会議 Ⅰ
邪王ヴォルディガが占拠した、ミストルティアの城の玉座の間に、魔将総長と邪王軍四魔将が一堂に会していた。今日の議題は、先だって邪王が逃した、この国の王子と王女についてである。
「して我が忠実なる魔将総長と四魔将は、奴らがどれだけ生き残ると思う?」
邪王の問いには、いつだって凄まじい重圧がある。この蛮族の王は賢く勇猛だが、しかして冷酷無慈悲でもあった。返答を間違えたその時、彼の王の強大な魔力で自身の首が飛ぶことが無いとはとても言い切れない。
重い沈黙が垂れ込める中、それを破ったには意外にも四魔将一、否邪王軍一無口だと言われる男、造物魔将バレトであった。
「我が王よ、あなたが創造した私の完璧な頭脳によれば、3日と生きられぬかと」
銀のゴーレムの提言に、邪王は薄く笑った。
「ほう、何故だ」
「そもそも人は、我々魔法生物と違い、3日も飲まず食わずであれば死ぬ生き物です。それに王族の者が、野に放たれて生きていく術を持っているとは思えません」
このゴーレムらしい、理屈っぽいが、それでいて単純な結論だった。しかし、他の者から見てもその結論に異を唱えるべき箇所があるとは思えなかった。
「なるほど、連中はそこらで野垂れ死ぬと。いやしかし、逃げる時に奴らは何やら頼る伝手があるようなことを言っていた、存外そうでもないかもだ。ほれ、他の者も何か予想を言ってみろ。何、ただの戯れよ、何を言っても罪には問わぬ」
罪には問わない、と邪王が言ったことで、他の魔将達の緊張も解れたようだった。いや、たまたま最初に喋ったのがバレトというだけで、そんなものを最初から抱いていなかったものもいた。黒騎魔将アワンもその一人である。
「いずれ全て滅ぼす連中だ。早いも遅いも無い」
この意見に内心頷いたのは、ほぼ全員であったろう。妖艶魔将ミグドノレシアなども、人族一人一人の区別などひよこの雌雄よりも気にしていない。
「その者等が我が前に立つことあらば、その時が最期となりましょうぞ」
余裕たっぷりに言うのは猛獣魔将グロティガだった。肩に担いだ大斧が、誇らしげに輝いたように見えた。
「――――――今日より4日後」
各々が好き勝手に答える中、はっきりとそう告げたのは、一人のドレイクの男であった。真紅に輝く魔剣を携えるのは、魔将総長サーガその人である。和らいでいた会議の雰囲気が、冷水を浴びせられたかのように再び静まり返る。この男の言葉は、時として邪王のそれよりも重いのだ。そしてその重さに耐えられるのは、邪王ヴォルディガただ一人のみ。
「ほう、何故だ?」
「この魔将総長サーガが直々に手を下すからにございます、邪王陛下」
「ふぅむ、しかしそれではあまりにつまらんというものではないか?」
「いいえ。必ずや、邪王陛下のお眼鏡に適う絶望を連中に味わわせてみせましょう」
「ほほう、ならば貴様に任せよう。行くが良いサーガよ」
「はっ」
サーガは翼を広げ、窓から飛び立とうとして、邪王に聞こうとしていたことを思い出した。
「邪王陛下、恐れながらお聞き致しますが、邪王陛下ご自身は、奴らがどれだけ生き残るとお思いなのでしょうか」
その質問に、邪王は楽しげに答える。
「あるいは、この首落として、再びミストルティアが栄華を極めるかもしれぬ」
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