閑6ー勝3 Q:A-O3D-A-MB1【漆黒金紋の災獣】

 【テイム】――特殊スキルの一種で、魔物を手なずけて戦闘や諸々の業務に使い回す他、単に散歩したりのんびりしたりと用途が幅広く活用の幅が広いスキルだ。


 テイムは系統スキルツリーの完成度により従属させられる魔物の質と数が変わる。数多く魔物を従えたとて、甲等級などの終盤ダンジョンでは余程強力な魔物でもない限りは前線でバリバリ戦わせることは無いが、それでもお供の戦力としてはとても頼もしく、他にも農業や娯楽要素としても魔物は大いに役に立つので是が非でも鍛えておきたいスキルだ。

 単に強力な魔物と言えばダンジョンボスなどは是非仲間に欲しいものだが、さすがにダンジョンの正規ボスと多くのボス級はテイム不可設定がされており、ボス級に並ぶか進化させれば匹敵するレベルの魔物を厳選してテイムする必要がある。


 魔物をテイムする方法は数種類ある。

 特にユニーク種で多い、特定のクエストを達成することで仲間に引き入れる手法。これは精霊との契約と似たようなものだ。

 次いで多いのが、魔物を屈服させること。戦闘において一定ダメージを与えた状態でテイムスキルを発動すると、魔物により違うが一定の確率でテイムすることができる。失敗した場合は倒しきってリポップを待つか魔物を回復させて削りなおす必要があり、手間ではあるが正攻法と言えばこれだ。

 最後、滅多にないが、魔物が最初からこちらに従順である場合、テイムは100%成功する。


 しかしNSVにおいて魔物が最初から従順であるケースの発生条件は一切不明であり、そんな宝くじ的な期待を狙うよりはやはり削りかクエストを狙うのが一般的だ。




>Quest : Adventure -乙 3 Dungeon - √A - Mid Boss 1




 ところで、カツゾウこと森 千尋は大の動物好きだった。

 実家で長く犬を飼っていた経験から、動物は姿形と習性が違うというだけで家族足り得る存在だと考えている。

 NSVでもテイムしていた従魔枠の実に半数以上が愛玩兼娯楽用に見繕った魔物たちで、NSVサービス終了では彼らとの別れも寂しく思い涙したくらいだ。


 今まさに攻略中の乙3Dで対峙している、脱線で飛ばされたAルートに出現する中ボス級の魔物【漆黒金紋の災獣】こと金紋狼も、NSV時代にテイムしていた魔物の一つだ。

 乙3Dにしか出現しないユニーク種ではあるが、古巣である乙3Dにすら存在しない従魔固有の強力な魔物に進化させることができ、甲等級でも通用し得るなかなか優秀な戦力となる。



 今相対しているのは、見た目こそ同じだがかつての家族とは全くの別物。

 とは言え正直なところ甚振いたぶるのには躊躇いがある。倒せばまた湧くと分かっていても、やはり愛着のあった金山キンザンと名付けた金紋狼を思い出すと、他の魔物と同じようにサクッと斬り捨てて進む気にはなれない。


 あぁ、変わらない。それどころか、NSVのグラフィックよりリアルで……


 金紋狼は頭胴長十メートルほどでドーベルマン体型の巨躯。艶のある上品な漆黒の毛並みに独特な黄金の紋様が入っている。

 

 いつ見ても毛並みが極上だなぁ……


 金紋狼の美しさはその紋様もさながら、一切乱れのない整った毛並みにこそある。

 NSVでは散々撫でてきたけど、やっぱりリアルの感触が気になる……


 思い立ったら実行。金紋狼がその巨大な牙を剥き出しにして咬みつこうとするのを飛び退いて躱しがてらに頭頂をサッと撫でる。


 「うっひゃ~~~~~~!!」


 たんまらんっ!

 ツヤツヤツルツル!さっきシャンプーしたばっかり?!ケアの仕方を教えてほしい!


 見た目通りの極上の肌触りに思わず興奮で滑稽な声が漏れた。


 あぁ、やっぱりテイムしたい。でも今はそれどころじゃないし……

 名残惜しいが、撒くのも骨が折れるのでせめて戦闘不能くらいにしてから先に進もうかと向き直ったところで金紋狼が予想外の挙動を見せた。


 「ん?」


 何と金紋狼は耳をおっ立て、その場にお利口にお座りして尻尾をぷるぷると振り回している。


 その恭順きょうじゅんするような姿が余りにも見覚えのあるあの子と重なった。


 「……金山?」


 「ヴォフッ」


 かつて同じ種の子に付けた名を呼ぶと、心なしか楽し気な返事を聞かせてくれた。


 「……テイム」


 育成するとしてもまだ先になるだろうと特に手を付けていなかったテイムスキルは当然現状の熟練度は最初期値。乙等級中ボスクラスなど到底成功し得ない熟練度だが、


 ――金紋狼 を テイムしました


 テイムは一発で成功した。つまり一瞬前には物凄い形相で襲い掛かって来たこの金紋狼は今この瞬間には私に従属する意思が芽生えていたということ。

 

 ……頭撫でたから?


 まさか、たったそれだけで?と思うもそれ以外に思い浮かぶものはない。


 ともかく、期せずして強力なお供を得ることができた。戦力的にもそうだが、散り散りになった仲間を取り戻したかのような精神的な充足感。NSV時代のあの子とは違うと理屈では分かっているが、どうにもそんな気がして止まない。


 「金山、背中に乗っけてくれる?」


 言うと金紋狼は軽快な足取りで私の脇に立つと、尻尾を振りながらその場に伏せた。


 同じだなぁ。


 あの子と同じ仕草。金紋狼は全てそうなのかもしれないが、それでもこんな姿を見せられて愛着が湧かない訳がない。


 「王座に向かって。この先に待ってる人がいるの」


 背に飛び乗り行先を告げると、金山は気前よく一吠えしてダンジョンを快走した。




 ………




 そんなこんなで無事ミツカと合流できたカツゾウだが、無事生きて合流できたこと、ミツカが自分の想定以上に心配し再会に安堵してくれた様子に感極まり泣きそうになってしまった。それを誤魔化すために咄嗟に抱き寄せたところ丁度控えめな谷間に顔を埋めさせるような格好になり、ミツカもそれを拒まないものだから、アリアを疑っておいて何だしこのタイミングでどうかとも思うが正直ほんのちょっとだけよこしまな気分になってしまい、以降帰宅するまでの一切の記憶が飛ぶくらい頭がパチパチしてしまったのは彼女だけの秘密だ。



※ ※ ※


参考


金山かなやま

戦国時代、美濃国に存在した藩で、織田信長配下 森(勝蔵)長可が継いだとされる。



※ ※ ※


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