休5 ゲーマー、夢が広がる
金紋狼にビビり散らすマリスとメリサ兄妹を
いつもは惣菜や出来合いを買い込んで帰っているが、調理済みの物を魔物に食べさせる訳にもいかないので、いっそのこと今後は食材だけ買い込んで料理人を雇って調理してもらうのもいいかもしれないという話になった。
マリスとメリサは簡単な自炊程度はできるらしいが料理には明るくないようだった。二人が暇なら料亭にでも修行に出させてもいいのだが、今は鍛冶スキルの育成に専念してもらいたいので外で探すべくかというところで一旦落ち着いた。
「ついでですし、いっそ家事一式マルチにできる家政婦さんなんかがいいかもしれませんね」
マルチジョブ思考なだけあって、いずれは鍛冶要員である兄妹の戦闘スキルを……と戦力としての育成にも前向きな上、家政婦にもマルチさを求める。分かる。結局一挙に
「使用人募集は、私たち何か嫌われてるみたいですし変な輩も来そうで嫌ですね」
「確かに……となると、安全なのは奴隷?」
「一応見るだけ見に行ってみましょう」
郷に入っては郷に従えと言うので、兄妹を奴隷にしないでおいて何だが明日は一応その筋でも探してみることにした。
「そう言えばこれ、色 変わりましたね」
言ってカツゾウが取り出したのは既に攻略済みの
丁2D以降は順路に沿わず飛ばしで攻略したが、いずれも丁1Dと同様変色したので攻略において順番は特に関係がないようだ。
「とりあえず行けそうなところから順次攻略していけばいいかな」
「ですね。そろそろ塔とかも挑戦してもいいかもしれませんね」
「塔」とは、甲乙丙等級に各一つ存在する特殊ダンジョンで、NSVでは「修練塔」と呼ばれていたものだ。
塔のダンジョンは設定的には生身ではなく幽体離脱のような状態で挑戦する幻想ステージとされていて、死に戻りが前提のトライアルステージとなっていた。構造も性質も通常のダンジョンとは風が違い、通称の通り攻略と言うより腕試しや修練と言った要素が強い。
各塔は週一で挑戦でき、塔内で死んだ場合は味方による一定時間内の蘇生があればコンティニュー、無ければ脱落だがデスペナルティ―は掛からない。塔内では各ダンジョンのボス級と各階層で
現状の装備とステータスでは経験値稼ぎを考えれば丙の塔を高速特攻するのがコスパ的には良さそうだが、カツゾウと二人なので乙の塔で腕試しも悪くない。
「早く装備充実させたいな~」
「ホントですね やっぱり愛用武器がないと不便ですよね」
NSVでは鍛冶スキルも極めていた俺とカツゾウはそれぞれ自作のオリジナル武器を愛用していた。勿論トップランカーが愛用するレベルの超希少素材製、今の実力と装備では素材の収集すらままならない。
だが今回の乙3D周回ではいくつか有用なドロップを入手することができた。複数の魔法系ユニークスキルが付与された武器だ。
NSV時代、乙3Dのドロップ武器は乙等級以上では基本的に他装備の強化錬成素材かスロットに嵌めてお手軽ユニークスキルとっかえひっかえボタンのような使い方が主流だったが、腐っても乙等級ボスクラスのユニークスキル、丙等級すらほぼ未攻略の現状では前線で大いに役に立つ。
続いて今後の攻略の方針についても話し合った。
まず、マルトに一旦拠点を置いたので、転移ポータルを取得するまでの移動手段として飛竜が欲しい。特に塔はマルトからは距離があるので通うのであれば燃費は
そして飛竜を釣るためには通常スキルとして使えない風魔法が必要となる。複合でカバーしようとすると勝手が悪いので、風属性が付与されたドロップ武器を用いるのが定番。その主な採集場所が
そして素材収集。甲等級の攻略を格段に楽にする特殊ダンジョンのボーナス【龍王の加護】を取得するためには最低限希少素材製の装備が必須となる。特に武器用に早急に採集しておきたいヒヒイロカネやミスリルと言った希少素材は、発見率は決して高くはないが
だがどちらも極端に暑いか極端に寒いかと気候的な問題がある。耐熱防寒系装備の作成と環境順応系の気功術やバフを習得しなければ、リアル感覚では攻略どころか探索でさえ難儀しそうだ。
移動手段、装備と来たら、次は直接的な戦力増強だ。
今回の乙3Dではカツゾウが乙等級中ボスクラスのテイムに成功している。
目下二人での攻略も可能なダンジョンは多くあるが、現に強力な魔物のテイムが可能と分かったからには早速揃えておきたい。まだ自前の畑を持っていないので当面餌代など維持費用は掛かるが、今の稼ぎならある程度は問題無い。
現状で手に入れたい魔物と言えば……乙1D、乙2D、乙4D、
従魔の保有可能数はテイム系統スキルツリーの熟練度に拠るので、現状では全ては叶わない。絞るか……まぁ見送るものもいずれは……
そして従魔と対を成す強力な補強戦力 精霊。
精霊は突発的或いは一定エリアでの特殊コマンド遂行で出会えるが、この場合必ずしも望みの精霊と出会えるか、出会えたとして無事契約までできるかは分からない。
だが必ず所定のエリアで特定の精霊と出会え、所定の流れで契約が可能となるのが乙7D……『精霊の国アルフ』だ。アルフは他多くの通常ダンジョンと構造が違い、王座を攻略せずして核座に辿り着くことができる。そもそも性質として、攻略と言うよりかは特定の精霊と会いに向かう場所という意味合いが強い。
だがアルフでの精霊との契約は相手のホームだけあって熾烈を極める。大抵は戦闘か何らかのクエストを申し付けられこなさなければ交渉の資格すら与えられないのだが、これがまたRPGによくある意地の悪いミニゲーム宝庫のような具合でやりがいはあるがちょいちょい腹が立つ。
とは言え精霊の有無とその質は攻略の効率に大きく関わって来るのでめんどくさがっては居られない。
「森さんと一緒だと、行きたいところ多過ぎるんだよなぁ……」
ふと口を突いて出たのはそんな言葉だった。
出てから気付いたが、本人は楽しく攻略を進める予定のことを言ったつもりだが自分を「好き」だと言った相手に対しては思わせぶりも過ぎる言葉だ。
当のカツゾウはと言うと
「全部行きましょう。どこでも何回でもっ!」
ほのかに赤面しつつも輝く目にはゲーマー魂が透けて見えた。
まぁ、そんな彼女だから同伴が楽しいんだが。
そんなこんなで向こう当面の楽しい予定にウキウキしながら、同室の照れもすっかり忘れて二人してぐっすり眠りに就くのだった。
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