50 Q:A-O3D【砂に沈みし古の王朝】
マルトから馬を走らせることしばらく。
広がる砂漠地帯に堂々屹立するピラミッドが見える。
「あれが
恐らく騎士としてのこれまでの経験とは違った死地、初めて立ち向かう難関ダンジョンを前にアリアは冷や汗を流している。
乙等級第三ダンジョン『カブラマルク』
ピラミッド型のダンジョンで、全ダンジョンの中でも特に広域なダンジョンの一つ。ここの肝はゴールである核座が一つに対してボスである王座が複数、つまりいくつかの正規ルートが存在し、しかもそのいずれかを必ずしもプレイヤーが任意に選択することはできない点だ。
加えてダンジョン内には特定エリア固定もしくはダンジョン内にランダムで出現し自由闊歩するボス級の魔物が複数おり、どのルートを選んでも乙等級ボスクラスと最大で五戦こなさなければならない。
今日の一番の目的は攻略となる。
ルートが任意に選べないのが難点だが、幸いにもギルドで請けた依頼の全てがいずれのルートでも達成可能なものだったので、ただ手堅く攻略して核座を目指せばいい。
NSVでは「中級の壁」と云われていた乙等級が現実ではどのような感触かを見るためのトライアルだ。
期せずしてお供することになった女騎士ことアリア・ベル・シュバリエは、正直前日の印象では戦闘面で当てにならなさそうだ。不用意に死にかけられるのが一番困るので、最低限自分の身を自分で守るようにと言いつけ、出がけに買い込んだ大量のポーションを渡した。これにはカツゾウも何も言わなかったので、万が一の時に救うことも暗黙の了解ということだろう。
さて、ダンジョンに挑むのだが、ここで第一の関門がある。
まず生きてダンジョンの入り口に辿り着けるかだ。
砂漠地帯には普通に強力な魔物が出るので、運が悪ければダンジョンに辿り着く前に魔物の餌食となる。
まぁ今回はありとあらゆる対策法を知る俺とカツゾウなので余裕でパスだが。
例えば今物凄いスピードでこちらに迫っている蛇型の魔物 サンドヴァイパーは猛毒の牙を持つ。弱毒耐性がマックスでも普通に効くので攻撃はもらいたくない。近付くと却って狩りづらいので遠間から中剣壱【飛燕】水丁肆【水刃】複合魔剣術【水燕】で首を刎ねる。
「噂には聞いていたが、当然のように複合を使いこなすとは」
「アリアさんも使うのでは?」
「魔剣術を少しだけ……だが乱発はできない」
昨日の決闘から使ってはいたが、土壇場で出すくらいには温存したい手のようだ。まぁ使えるというだけでもマシな方だ。乱発できないというのは恐らく剣士傾倒ステータスでMP総量が少ないからだろう。後で最大値向上のコツは教えておくか。
さて
「では行きます」
いくつかある入り口の内最も容易に入れるそこは出がけからいくつかある所定のスポットにランダム転移する博打ゲートだ。三人並んで転移魔法陣の上に立つと、眩い光に飲まれてこの広大なピラミッド内のどこかに飛ばされた。
………
>Quest : Adventure -乙 3 Dungeon
幸いなことに今回は極悪ルートでは無かった。
比較的開けたドーム状の空間からいくつかのルートが展開するスポット。オーソドックスな迷宮コースだ。
このスポットは転移入場する度に正解ルートの入り口が変わる。全ルートの内王座に続くのは一本のみで、他は全て行き止まりの発掘ルートだ。アイテム自体は美味しいが、そこそこの会敵と移動をこなした後で行き止まりからの引き返しは普通に疲れるので、攻略本意の時は正解ルートの特徴を探し、見つからなければほどほどに引き返すのが正攻法となる。
「じゃーんけーん」
ぽんっ、と、唐突に緊張感なくじゃんけんを始める俺とカツゾウをアリアは不思議そうな顔で見つめる。
「私の勝ちですか……じゃあ今回は左からさらいましょう」
「おっけ~」
単純に方針決めのじゃんけんだが
「……乙等級に挑むというのに随分リラックスしておられるな」
アリアにとってそれは余りに不自然だった。
ここは容易に人が死ぬ。それこそ手練れであっても生きて帰れたら儲けものとまで言われる乙等級だ。じゃんけんからの当てずっぽうでルート選択などあり得ないと思えた。
一方俺とカツゾウからすれば、毎度ランダムで変更されるルートを決める段階で緊張もクソもないという話だ。特に二人のような廃ゲーマーからすれば本来ダンジョンは周回が前提であって、効率よく回ることに注力するためルート決めなど些細なことで消耗するのは馬鹿らしいとすら思っている。そもそもランダムなので当てずっぽうしかなく、一発で当たりが引けたら儲けもの、外れてもまぁ道中のドロップアイテムと経験値くらいにしか思っていない。
カツゾウの気まぐれで決めた道を進むと乙3D固有のミイラ変異種が出現した。各個体はそれほど脅威ではないが、死体をある程度焼き切らないと
今回はルート探索から始めているため、わざわざ焼き切らずとも一旦討伐し、外れルートなら復活する前に引き返せばいい。
そんなこんなで大小形状様々なミイラを葬りながら進むこと数分、ある程度進んだところで「じゃ、確認してきます」とカツゾウが一人凄まじいスピードで駆け抜けて行き、一分と経たずに戻って来た。
「ここハズレです」
「戻るか~……」
「……」
まるで緊張感が見られないその様にアリアは最早言葉も出なかった。
出現したミイラの魔物は、そのほとんどをミツカとカツゾウがそれぞれ難なく屠ってはいるが、アリアの知る情報では少なくとも一対一で難なく討伐できるような雑魚ではない。
現にアリアが相対した場合、その一見ボロく見えて鋼より硬い包帯をロクに斬り落としもできずミツカの助太刀でようやく倒せたくらいだ。しかもそのような魔物が闊歩する空間を一人突っ走って無傷で帰ってくるというのも全く奇想天外の攻略手法だ。
やはり、無理を押して着いて来て良かった。彼らならば或いは……
アリアは乙等級という死地から生還するという絶望的な条件に精神を擦り減らしながらも、何を置いても二人の協力を得なければと心を燃やしていた。
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