40 Q:A-H3D【小鬼たちの帝国】
「何だかどっと疲れました……」
無事
俺とカツゾウ二人きりであればこの足でそのまま
そんなこんなで速足気味にマルトに戻り、ついでに四人で請けた調査依頼の報告のためギルドに立ち寄った。
回収したフォレストワスプの死体と巣、ついでに四人で周回して得た丁2Dの素材や魔石を解体場で一挙に提出したところ
「しょ、少々お待ちください……」
職員が青い顔をして引っ込んでしまい、今は鑑定職や解体員などが集まって異様な光景に一様に唖然とした。
「俺たちはこの後すぐ出るので、集計の結果は明日にでも聞きたいんですけど……二人もそれでいい?」
改めて見る蜂の巣の惨状に固まってしまった兄妹二人だったが、実際には討伐にほぼ参加していないようなもので、先に聞いたところでどうしようもないと思ったのかこちらに
「疲れただろうから、今日はこのまま宿に引き上げてしっかり食べてしっかり休むといいよ」
「ありがとうございますっ!……あ、でもお金」
と、そうだった。彼らは身寄りなく、その日暮らしで落ち着いて休むこともできないのか。
「木漏日亭で二人食事付きだったらこれで足りるかな」
言いながら二人分の宿賃――労いの意味も込めてギルドのほど近く、マルトではなかなか良い方の宿に泊まれるだけのお金を取り出す。
「そんな!こんなに良くしていただいてお金まで……」
「ダンジョンに付いてきてくれたお礼ってことで」
二人は一瞬目を輝かせたものの、申し訳なく思ったのか遠慮し始めた。
メリサはこの短い時間で若干打ち解けた様子のカツゾウを見るが
「気にしないで、受け取って」
そう言われると観念したのか、お金の入った小袋を大事そうに受け取り
「ありがとう……ございますっ」
二人して嬉しそうに顔を
「じゃあ、明日の朝にでもギルドでまた会おう」
「はいっ。今日は貴重な体験をさせてもらって、ありがとうございました!」
そうしてあたふたと駆けまわる職員たちを余所に兄妹とは朗らかに別れた。
………
「あれは無理ですわ」
冒険者ギルド マルト支部長であるゴードンの元を訪れた二人組は投げやりな様子でソファに掛ける。
「はっ、お前たちにしては珍しく弱気じゃないか。どういう了見だ?」
ゴードンは二人組の端から諦めたような言葉に苛立ったが、一応報告まで聞くことにした。
「ありゃCランクの器じゃねぇ。間違いなく今マルトで一番強ぇ二人組だ。奇襲仕掛けても数で押しても無理だろうな」
二人は表立っては中堅冒険者として活動していたが、その実はゴードンの手駒として汚れ仕事の実行役を担ってきた者たちの中でも筆頭の実力者、一応「それなりの経験」を積んできた自負はあった。
だが目的の四人組を追った際、特に要観察と云われていた二人組がフォレストワスプの大群を難なく
フォレストワスプの巣が拡張され、個体数の増加、上位種及び変異種の出現を加味した場合の討伐難易度は格段に跳ねあがる。
それぞれ単体ではさして強力な魔物ではないが、数こそがネックとなる。それこそ集団で討伐に当たり、負傷者多数が常。そして必ずと言っていいほど上位種や変異種の毒針で死人が出るほどの大仕事だ。
今まで時間をかけて肥やし膨らせてきた一等巨大な巣、それをたった二人で大した時間もかけず、しかも子供二人のお守りをしながら無傷でこなし、まだ余力がある。
何より、そんな中でこちらの位置を気取り、明確に警戒していたこと。
………
時は
プスプスと表面が焦げた巨大な巣を間近で見て驚きの声を上げる兄妹の微笑ましい様子に同調するが、俺とカツゾウは蜂の巣に近付いてからずっと、一点からこちらの様子を
今まで度重なるPKに狙われてきた俺とカツゾウだからこそだろうか。マルトを出てからずっと付けられていることには気付いていた。位置はバレバレだったが、今しがた習得した【刺突予測】のおかげでこちら四人をめがけてウロウロと照準を動かす様子まで丸わかりだ。
「……片付けます?」
「いや、あっちの目的も繋がりも分からない。多分仕留めても元を
刺突予測で検知できたということは矢か投擲暗器の類。マルトから気配を消して(いるつもりだろう)近付いてきた手口的に野盗ではなく暗殺の心得のある何者か。ではその目的は?単発なのか、組織の一端なのか、誰かの駒なのか。
向こうは一応こちらに照準を合わせてはいるようだが、そのブレた様子からさすがに実行に出るつもりはないのだろう。現実に危害が発生していないのであれば泳がせて情報を探り、なお敵意があるなら一網打尽にする。
まぁ仮に一撃打ってきたとしても対処は容易いし、万が一当たったとしても治癒魔法で事足りる。
「それもそうですね。まぁあんなにブレる雑魚なら何匹やってきても余裕ですし」
「やってこなければいいけどね……」
「もしかしてまだフォレストワスプが居るんですか……?」
と、二人でぼそぼそ話しているのを勘違いした兄妹が不安そうにこちらを見ている。
「いや、蜂はもう片付いた。安心していいよ」
そうして巣と辺り一面に散らばった蜂の死骸を回収し、四人は何事もなかったかのように移動を始めたのだった。
………
詳細な報告を聞いてゴードンは戦慄した。
異例のスピードでCランクに昇進したという噂くらいは聞いていたが、その実Cランクの遥か上を行くであろう実力までは見通せていなかったというのが本音だ。
見誤った。だが幸いなことに、差し向けた二人は強硬手段を採らずに帰って来た。まだこちらの思惑までは見通せていないはずだ。
「……作戦変更だ。引き続き『オウル』を監視してとにかく情報を集めろ」
「……ハァ。分かりました」
二人はそう返事はしたものの、もはや積極的な行動に出る気は毛頭なかった。こちらは正体を気取られているかもしれないというのに、うかうかと対象に近付けるか。
(相変わらずか……この俗物爺さんは現場ってものを分かっちゃいねぇ……)
ことを甘く見ている。もし今回の件を向こうが腹に据えかねていたら、いかにこちらが多勢だろうと一瞬で一網打尽にされるだろう。そんなバケモノの尾を踏んでしまったかもしれないのだ。
(潮時だな……)
二人はもはやゴードンを担ぐメリットよりも自分の命のことしか考えていなかったが、ゴードンも二人組もよもや要注意の二人組が蜂の巣を駆除した足で丁2Dを周回した戦利品を持ち込み、休みなく次なるダンジョンへ向かっていたなどとは知る由もなかった。
………
>Quest : Adventure -丙 3 Dungeon
愛馬『百段』に跨って駆けること少し。
既に日は落ちてきたが、目的である無人の廃墟と言われている丙3Dの入り口部分ではトーチの上で火が揺らめいている。
丙等級第三ダンジョン ゲスターブ遺跡
大昔の貴族領の遺跡そのまま丸ごとという、ちょっとした街ほどはある半フィールド型ダンジョンだ。同じように遺跡や城がダンジョン化したものは数か所あるが、このゲスターブ遺跡で特徴的なのは出現する魔物が全てゴブリン種であり、戦闘も進行も
丙等級ではあるが、ゴブリン種ということで舐めてかかるプレイヤーの多くが痛い目を見る。ゴブリン系最上位種のロード級やパラディン級、変異種のトロルモドキなど、人と同じ二足歩行でありながら比べ物にならない
それでも丙等級に指定されているのは、正しくルート選択をすることで攻略自体はさほど困難なく済ませられるからだ。
また、経験値的にさほど美味しくない雑魚ゴブリンをいちいち相手にして回らず、自由闊歩型を除きほぼ固定エリアに居る上位種を狙って狩って回れるので、序盤の経験値稼ぎ周回には悪くないロケーションでもある。
面白い要素としては、半フィールド型であることが影響してか、昼と夜でダンジョンの顔が変わることだ。
俺やカツゾウのようなタイプのプレイヤーにとってはより好ましい夜モード、
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