42 Q:A-H3D-F【小鬼を束ねし帝を討て】
「お疲れ様でした」
雑魚を片付け終わったカツゾウが
「さすが、
言って取り出したのは
「おぉ、ようやく闇魔法だ」
「一周目から拾えたのはラッキーでした」
未だ習得が済んでいない魔法属性の一つ、闇属性は習得のためにいくつかあるトリガーのいずれかをこなさなければならない。その内一つが「闇属性魔法のスキル持ち装備を身に着け、装備を介して闇属性スキルを使用する」ことだ。
一定のドロップ装備やレア素材で作成した装備にはそれ自体か、別の装備の付与スロットに加工して嵌め込む形で身に着けている時のみ使えるユニークスキルが付随するケースがある。闇属性は入門魔法書が存在しない代わりに、要はそれらを杖代わりに装備して最初のトリガーを満たす必要があるのだ。
「ま、今はそれよりボスですねっ」
やっと手に入った闇属性のトリガーだが、カツゾウはそれよりも目前に迫ったボス戦のことしか頭にないらしい。
まぁ気持ちはめっちゃ分かる。それに闇属性はここではあまり役に立たないから後回しで問題はない。
………
>Quest : Adventure -丙 3 Dungeon - Final
無理もない。遺跡と化して久しいであろう貴族の館、ダンジョンオブジェクトと化するその瞬間まで朽ち続けた最奥の部屋に繋がる扉だ。
だがその奥に居るのは、丁のボス級より明確に数段は格上。ゴブリン種最上位の中でも最もバランスが良く一般的な人間を遥かに凌駕するステータスと、カリスマカテゴリーに属する魔物だけが有するユニークスキルを駆使する強者。
NSVで初攻略した当時は苦戦し、向き合うのにも明確に恐怖があった。当時よりスマートにレベリングした今でさえ肌が粟立つ威圧感がある。
まぁそんな強者とて、カツゾウが負ける未来は一片たりとも見えないが。
カツゾウはその小柄な風体で
王座に鎮座していたゴブリンロードはそんなカツゾウに何を思った風でもなく、ただ泰然と王座を立ち
ドッ
破裂音がしたかと思えば、カツゾウの眼前にまで一瞬で間合いを詰め、目にも留まらぬ速さでその首に向けて手斧を振るう。
カツゾウは瞬時に膝で脱力して頭一つ分身体を屈ませ、頭上を通過した手斧の斧頭部に指を掛けると
ガクンッ
そのまま体術防参【逸らし】で振り抜きの軌道を明後日の方向に逸らし、釣られたロードは重心を崩して小スタン。そのままがら空きになった鳩尾に格闘術参【打貫】を叩き込む。
体格差が歴然の中、圧倒的に小柄なカツゾウから繰り出された的確かつ強力な急所への打撃にロードは思わず距離を取る。
相変わらずとんでもない反射神経と空間把握能力だ。頭上を過ぎ去る手斧を追うように触れるなんて常識外れな発想も素晴らしい。
だが何より、ザインとの試合でも見せた力のベクトルを操作するセンスが凄まじい。NSVで恐れられたカツゾウの技巧の一つ、本来は体術組み手で用いる高等技術をありとあらゆる物理攻撃に転用させるその壊れ具合は見ていてとても面白い。
そもそも彼女はありとあらゆる武器術も超一流だ。ゴブリンロード相手でも武器を用いれば俺がパラディンにそうしたように瞬殺も可能なはずだが、今そうしているように彼女は敢えてリスクを伴う体術で強敵を
手斧、棍棒、大剣……この部屋の主であるロードのために取り揃えられたであろう武器の数々。ロードはそれらを極めて高いレベルで使いこなす。その手数の多さもここの
「フーッ!!フーーッ!!!」
片やロードの方はあの手この手が丸腰の少女に軽々あしらわれては強力な反撃を受け続ける展開に苛立っているのか、ただでさえ醜悪な顔がとんでもない形相になっている。
何度目かの武器の取り回しでロードが棍棒を持ったところで
「つい遊んじゃいました。そろそろ決めます」
カツゾウは不意にどこの雑貨屋にも売っているような円盤型の金具がついたブレスレットを手に持つと、指でちょちょいとロードを煽る。
ブチッ と、聞こえたわけではないがその形相からまぁブチギレたであろうロードは、棍棒をこれでもかと振りかぶってカツゾウへと迫る。結局こういう安直なところがゴブリンなんだよなぁ~と思いながら、彼女の詰めを見守る。
剣術で言う【剛蹄】のようでその数倍の威力を持つユニークスキル【崩撃】、全
凄まじい勢いで振り下ろされた棍棒は円盤と接触すると不自然に勢いを失い、ふわりと減速してピタリと制止した。
ロードの顔に戸惑いの色が浮かぶが、
ドゴォン
次の瞬間にはその顔面を原型が分からないほどに
高等技術である中盾肆【水面受け】による全吸収からの中盾弐【盾勁】で全放出する二挙一撃強化カウンターパリィ――スキル番号
相手の渾身の一撃を利用し、最小限の力で最大限の破壊力を見せるその様は「踏んだら終わり」とまさしく地雷を冠するに相応しい恐れられ様だった。
彼女とて依然超絶デバフ状態でありながら、死張の片手間に繊細なコントロール技術を要する発勁を完璧に放つなど、衰え知らずもいいところだ。
あぁ、彼女が仲間で良かったなぁ……
もはや虫の息でダウン中のロードにトドメとばかりに些か過剰な魔法を放ち、着弾と共に立ち上がる爆炎を背に「終わりましたっ」と満面の笑みで振り返る彼女を見て強く強くそう思うのだった。
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