21 Q:St-T1D-EX【怒り狂う王猪の民】
>Quest : Stampede - 丁 1 Dungeon - Extra
記念すべき初攻略、NSVではチュートリアルダンジョンと名高い第一の正規ダンジョン
核座はダンジョンの攻略――大抵はダンジョンボスの討伐が成された場合に開放されるダンジョンマップの終着地点で、攻略の褒賞として何らかのアイテムを入手することができる他、ダンジョンの入り口まで一方通行のご親切な転移魔法陣まで設置されている。
ダンジョンは通常、奥に進めば進むほど出現する魔物が強力になるので、レベリング重視であれば徒歩で中盤まで引き返して魔物を狩り、ボスが再び湧くタイミングでチャレンジするのが効率的だ。今回はザインとリズの二人に丁1Dそのものの攻略手順を正確に叩き込むためにも転移で入り口まで戻り出直すことにした。
「さ、二周目行きましょうか」
第一層に転移で戻り息つく間もなく進みだそうとするが、ザインとリズの待ったがかかる。
「み、ミツカ殿。まさか休憩もせず挑むつもりか?」
俺はSP管理を徹底して効率よく狩っていたからもちろんだが、今までは慎重に進む分かかっていた時間が格段にショートカットされただろうザインとリズも、恐らく各々の想定以上に消耗せず一周目は終えられたはずだ。感慨だとか安堵だとかでまだ気持ちが落ち着いていないのだろう。
「冒険者がいつ何時もベストコンディションで攻略に挑めるとは限りませんからね。多少消耗した状態でも手順を覚えれば攻略可能だということを知ってもらうためにもこのまま行きます」
「う、むぅ……」
命がけの攻略はベストコンディションで挑みたいのが当然だろう。休憩の提案は至極真っ当だが、俺の言い分にも一理あると思ってしまったのか二人は言葉を詰まらせた。
だがNSVの設定を熟知している俺からすればこの程度の消耗でルイゼリオスに挑むのはソロでも無謀とは程遠いので、俺が引率している限りはスピード周回も問題なしと判断できた。
その根拠をいちいち説明して都度納得してもらうよりも、実践して納得してもらう方が分かりやすいだろう。
二人は最初こそ不安そうではあったものの、当然ながら一度経験した道筋、しかもボスを攻略して上昇したステータスと高揚した士気をもってすれば、多少消耗していようが問題ないと進みながら実感していった。
「今まで慎重に攻略していたのがバカらしく感じてしまうな」
「油断するといつか痛い目見ますよ」
「冗談だ。もちろん、慢心してダンジョンに挑むほど俺も馬鹿ではない」
順調にボス部屋前まで進んだところでザインとリズも冗談の応酬ができるくらいにはリラックスしていた。
余談だが、残念ながら二周目でもレアドロップ魔物と出会うことはできなかった。
「さて、まぁ多分今回は大丈夫だとは思いますが、一応変異ボスが出たときの流れもおさらいしましょう」
原因はボスであるキングボアーがマッドキングボアーという幻惑属性特攻の変異種に化けることにある。
通常は【震撃】の他は突進などほぼ単純な打撃系の攻撃に終始するキングボアーだが、その背に毒キノコ風な怪しい植物が生え散らかし目の焦点が合っていないマッドキングボアーは、敵である冒険者には幻覚効果、味方である魔物には狂騒効果をもたらす毒胞子を撒き散らす上、魔物のバフ系スキル代表格である【咆哮】まで使う。一周目の道中幻覚耐性の獲得を進めていたのはこの対策のためでもある。
狂騒変異のおかげで初心者にとっては幻覚耐性無しでは難易度が一気に跳ね上がるが、NSVでは中級者の末端くらいになると狂騒ゴブリンジェネラル程度ワンパンで屠れるので周回が容易なのには変わりない。乙等級以上の理不尽さを思えば、雑魚がはっきり雑魚である丁1Dは親切な部類だ。
とは言え、基本的なボス討伐の流れは通常時と同じだが、狂騒変異ではジェネラルを筆頭に雑魚の始末が課題となる。
狂騒モードに加え中盤で必ず一度は発動する【咆哮】に当てられると、雑魚でも致命傷を負っても数アクションは倒れないというタフさまで見せるので、オーバーキル気味に潰して一撃鎮圧する火力と回転力が求められるのだ。
また、ボスは攻撃を加えるたびに胞子を飛ばし、終盤には自身も狂騒モードでの猪突猛進を見せる。バトルアクションとしてはそこそこ面白く、受けてよし弾いてよし躱してよしと中々に競りがいがある。
余談だが、マッドキングボアーのターゲットをとった状態で狂騒突進を一定回数連続で躱しきると攻撃動線予測のボーナススキル【突進予測】が獲得できる。
初回はそこまで遊ばないとしても、今のステータスでの変異ボス対応は俺はともかくザインとリズが幻覚を食らってしまった場合の治癒にどうしてもタイムラグが発生するため、一周目のようにほぼ一方的な蹂躙とはならない可能性が高い。
「というわけで、行ってみましょう」
一応変異ボスを想定こそしたものの、現状の変異種討伐ペースと近場の冒険者の練度を考えれば今回は通常ボスだろう。
と思ったのだが
「げ……ザインさん!一旦引いてください!」
先の手筈通り扉を開けてまずザインが飛び込み、魔物のタゲを一挙に受ける傍らすかさずメイジを見つけて射止める。が、一瞬目に入った奥に佇むボスのシルエットに違和感を覚え、即座にザインに退避を命じる。
するとザインが本来受けるはずだったジェネラルが先ほどと比べ物にならないスピードで迫りくる。
すかさず弓からバックラーに持ち替え、すぐさま引いたザインの前に滑り込む。
ガギィ
甲高い音が響き渡ると、まさに出会い頭のザインとの試合を彷彿とさせる愚直な振り下ろしを弾かれた変異ジェネラルが一瞬スタンする。
思いがけない接敵とはいえ、難なくパリィを決めた俺をターゲットするジェネラルと目が合う。明らかに正気ではない眼光だがこちらをしかと見据える。変異種の上にこの苛烈な特攻……狂騒モードで確定だ。
つまり今回のボスは変異ボス、マッドキングボアー。
「変異ボスです!陣形Dでいきます!」
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