20 初剣・炎丁複合【炎舞嵐】
ザインはジェネラルを手筈通り冷静に対処しながら、過去何人もの仲間を奪われた恐ろしきボス キングボアーを単独で圧倒するミツカを見て戦慄した。
ステータスは見事なものだったが、キングボアーの両牙よりも遥かに小さな体躯にただの鉄剣とバックラーだけであれほどの巨体を圧倒している。目にも留まらぬ連撃、その一撃一撃が一切の遊び無い殺意の凝縮された剣術。しかしその恐ろしき剣舞が目を奪われるほど美しい。
青白く燃え盛る業火を纏った二刀流で斬っては焼く、まさに地獄のような連撃でありながら、神々しい舞を見ているかのような感覚に陥る。
間違いない。彼は今まで目にした中で最高峰の剣豪。
もっとその雄姿を見たい。その一心で集中力が極限にまで達したザインは、数度目のダウンで完全にバランスを崩したジェネラルの頭に得意の【剛蹄】を叩き込む。
ここに来てその極まった集中力で、過去数えきれないほど放ってきた剛蹄で今までマグレでしか出たことのない補助エフェクト【渾身】が乗る。
さらに脳天に綺麗に叩き込まれた一撃は急所補正と共に【クリティカル】が発動する。まさしくザインの冒険史上最高の一撃が叩き込まれた。
詰めにかかったと察したリズは押し込みダウンの追撃を終えた直後、すぐさま自分がこのタイミングで放てる高速かつ高火力の魔法を展開する。
放たれた魔法、雷乙肆【飛雷震】は強力な単一遠距離雷撃。
ザインの極まった一撃を真正面から受けたところに追い打ちをかけるように雷撃が炸裂すると、全身の至る所をブスブスと焦がしながらジェネラルは絶命した。
ボスの方に目をやると、その巨体の真正面に立って一切引かず、途切れることなく剣を振るうミツカの姿が見える。
リズはキングボアーと対峙するのは初めてではないが、後衛として比較的安全な位置からの遠距離攻撃に徹していたこともあり、まともに向き合ったという感触はない。
それがどうだ。自分より若く気さくな冒険者が、数十倍はあろうかという巨体に怯まず圧倒する様を見せつけられる内、今さっきミツカの冒険者登録に立ち会ったときから折られっぱなしの鼻っ面がついに根元からへし折られた。
憧れと羞恥という似つかない感情がリズの中で同時に巻き起こる。
今までは前衛にあの役を任せきり、後ろから得意の魔法を打つだけで少しはできる気になってしまっていた。実際には何も知らないし何もできていなかった。彼との攻略はただただそれを思い知らされた時間だった。
冒険者を志したのは成り行きではない。魔法自体への興味もあったが、学ぶだけであれば学院に所属すればいいものをわざわざ身の危険を伴う冒険者にまでなったのは、守りたいものがあったからだ。
今のままでもいいと思っていた。
だがほんの一時間ほど前までは「あり得ない」とまで考えていたたった三人でのダンジョン攻略が今まさに成せそうなのだ。主にはミツカという規格外の冒険者の功績だが、彼の采配で攻略を進めただけで、今までよりも格段に効率良く進むことができた。
今の私にできることはそう多くない。だが私にでもできることはまだまだある。
それを知って立ち止まれるか。この高揚に収まりが付くか。
凄まじい連撃の果て、断末魔の悲鳴を上げて何ら猛威を振るう間もなくその場に崩れ落ちたキングボアーを見て、二人の冒険者の中に熱く
………
若干オーバーキル気味の【炎舞嵐】でHPを削りきると、キングボアーは初撃以降ボスらしい見せ場もないまま息絶えた。
そのまま霞むように巨体が消えていくと、巨大な牙と蹄の素材がドロップしている。通常種でも武器ドロップがあれば現状では多少役に立ったのだが今回は素材のみで残念だ。
しかし雑魚とはいえダンジョンボスを討伐したので経験値はそれなりに稼げた。せっかくなのでレベルアップで稼げたスキルポイントで丁魔術一式を育成しておこう。
ともあれ
「お疲れ様でした!一周目完了ですね!」
振り返ると、無事ジェネラルを倒した二人が唖然としながらこちらを見ている。
「本当に……たった三人で……」
「…………」
攻略を噛みしめている風のリズと、言葉も出ない様子のザイン。
何となく、年上であるはずの二人の眼差しが心を打たれた少年少女のように見えた。どうやら上手く魅せられたようだ。ならアドレナリンが出ているうちに……
「二人とも、ぼーっとしてないで。この調子で変異ボス出るまで周回しますからね」
続けて言うと、二人はがっくりと肩を落とした。
※ ※ ※
お読みいただきありがとうございます。
面白い!ここが気になる!というようなご意見ご感想
レビュー、ブクマ、応援、コメント等とても励みになります!どうぞお気軽にお願いします。
※ ※ ※
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます