15 小技【げんきのこ】

 【実】の魔法の習得は実に簡単で、自分でトドメを刺した生き物の死骸を土台に、自らの魔力を注いで実らせた植物を食らうという食物連鎖を体現することがトリガーとなっている。

 植物の生育中に魔力を注ぐ――スキルというかコマンドとしては【祈祷】という扱いになるが、それにより若干の成長補正がかかる。

 ただ、死骸が肥料になるまで待って植物を種から育てようとすると時間がかかりすぎるので、今回使うのはこれだ。


 「キメタケじゃない」


 取り出したキノコを見てリズが言う。

 キメタケ――正式には『マヨイムクロタケ』。魔力を持つ生き物の死骸から魔力残渣ざんさかてに生えるキノコで、食べると若干MPが回復するが魔力酔いとやらを起こし幻覚を見る。道すがら食いまくってきたお馴染みの幻覚キノコである。

 NSVではドラッグ扱いでキメタケなんて言われていたが、そんな俗称がこちらでも使われているとは……

 土台には先ほど狩った魔物の死骸を使う。ねた頭を土に置き、その上でキメタケを振って胞子を落とす。狩りたてで魔力豊富な土台に祈祷でダメ押しの魔力を注ぐと


 ポコポコポコポコ


 瞬く間にキメタケが生えてきた。

 御覧のようにそれはそれは元気に萌えるのでこのメソッドはちまたでは「げんきのこ(正式名称:きのこのこのこげんきのこ)」と言われている。

 後はそれを食らえば



 ――実属性魔法 丁壱【芽吹き】を習得しました



 スキルクエスト達成である。


 「覚えました」


 「えぇ……」


 ステータス画面を表示して見せるとリズが頭を抱えて座り込む。


 「そんなあっけなく……ていうか何でキメタケを平然と食べられるのよ!?」


 「ミツカ殿は高レベルの幻覚耐性を持っていたな」


 自分とは縁がないと思っていただろう実の魔法の習得を目の当たりにしたことと、俺のレクチャーが余程突拍子もなかったのかリズ大きく溜息を付いてその場に座り込んだ。


 「リズさんが自分で狩った魔物を土台にすればできるので、道すがら適当に狩ってやりましょう」


 「やるわよ!やります!!!教えてくれてありがとう!?!?」


 何だかキメタケを食らう前からもはや錯乱状態のようだった。



 ………



 そんなこんなで丁1Dルイゼリオスの入り口。

 

 道中見つけたウサギのような小型の魔物をリズが気合いの入り過ぎた土魔法でドスンと仕留め、先ほど教えた手順でキメタケを生やすと最初は躊躇したものの勢いよく食らいつき、案の定酔ったところを状態異常回復魔法【キュア】で即座に治癒して無事、実の魔法を習得した。


 余談だがリズは回復魔法の習得方法にも興味を持った。

 曰く「回復魔法は聖職者しか使えない」らしい。たしかに「っぽい」話ではあるが、そんな縛りは実際にはない。何故聖職者ではない俺が習得しているのかといぶかしがったので、そんな縛りはなく既定の作法で礼拝すれば覚えられることを伝えるとザインと二人揃って腰を抜かすかと思うほど驚いていた。

 

 鼻息を荒くした二人にせがまれたので、実の魔法の分とザインには剣術稽古の件も併せ、二人にはルイーゼ滞在中しばらくの飯代と引き換えにダンジョンから帰還したら回復手段習得を一通り手引きすることになった。

 ついでに毒・麻痺・幻覚等の耐性獲得方法についても教えたところ、リズは「そこまでするのは……」と嫌がり、ザインは毒と麻痺についてはそれで耐性が獲得できるならと嫌そうな顔をしたものの積極的な姿勢を見せた。

 一応、装備の付与で状態異常耐性を獲得するのも容易であることを伝えると二人は目に見えて喜んでいた。ガチ攻略最前線の感覚としては装備の付与スロットに状態異常耐性如きを嵌めるのはもったいないと思えてしまうが、この世界での攻略ペース……もとい人里の防衛レベルを考えると、状態異常耐性の付与も現場ではかなり重宝されそうだ。


 「じゃあ、ダンジョン攻略しますか」


 「その攻略っていうの、冗談?比喩?ダンジョン攻略は甘くないわよ」


 リズは俺の言を訝しむ。

 確かにここに至るまでの道中まともに戦闘らしい戦闘のスタイルを二人には見せていない。同時にこちらも二人の戦闘をじっくりとは見られていない。

 スタンピードというから喜び勇んで山林に突入し、実を言うと変異魔物と出会いやすいようにと敢えて最短ではないルートでダンジョン入り口まで来たのだが、運の悪いことに溢れているはずの変異魔物には全く出会えなかったのだ。既に相当狩られてしまっているのだろうか……


 何はともあれここから先はダンジョン。

 変異魔物が斬っても焼いても湧いてくるボーナスステージだ。


 甘くはないとリズは言った。確かに俺の現状のステータスは依然駆け出しに毛が生えたくらいだ。

 だがその多少の不足を補うために二人が付いて来るのを敢えて突っぱねず受け入れたのだ。ここからは二人にもきっちり働いてもらって効率的に周回を進めていこう。





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