13 小技【飛び級】

※NSV始めたての初心者が、効率よくスピーディーにレベリングするのに最適なダンジョンにいち早く到達すべく、ギルドに到着するまでの道すがらでダンジョン攻略要件のCランクまでに必要な採集と討伐を済ませて置く。

 そもそもはじまりの森からルイーゼの街まで、逃げ回らず真面目に戦闘をこなしていれば余裕で達成できる量ではあり、登録した次の瞬間にはCランクに到達してしまう秒速昇格、通称【飛び級】は常識中の常識である。




 受付、訓練場ときて次はギルドの解体場にやって来た。

 ここは素材豊富な魔物の死骸などをそのまま持ち込んで魔石、各種素材、物によっては皮や食肉、薬などに加工してもらえる場所だ。商店に直接持ち込むより買取単価は安くなるが一括かつ短納期で任せられる分楽ではある。



 「これでCランク要件に足りませんかね?」


 そこで俺は目覚めてからルイーゼまでの道中せこせこと狩ってきたゴブリンの魔石、獣系の死骸、採集した薬草類をインベントリから一挙に放出した。


 「…………」


 絶句も絶句である。何だか懐かしいなと思ったら、チャットの最中にラグで一拍遅れたときの感覚に似ている。


 「……とりあえず、鑑定かけて集計だな。あー、少し時間がかかりそうだからミツカは訓練場でザインを見てやってくれ。アロマは鑑定職と事務員何人か連れてきてくれ」


 「わかりましたっ!」


 受付嬢は言われるなり走って行ってしまう。


 「リズは……」


 「…………」


 魔女風ことリズは魔法書の一件以降、しょぼくれている様と辞書にイラストの例が付くとすればこんな感じだろうなというような様子でいる。


 「ザイン、任せていいか?」


 「分かった」


 ザインがきっと労おうとしてリズの肩をポンポンと叩くが、ザインの力が強いのかリズの気が抜けているのか叩くたびにガクガクと体を揺らして危なっかしい。

 そんな二人を余所にケニーは頭皮の耐久が心配になるくらいに頭をボリボリボリボリ掻きながら、先に走っていった受付嬢の後を足早に追っていった。



 ………



 そんなこんなで隙間時間に我ぞ我ぞと目を輝かせるザインに剣術の指導をすることになり、やる気満々のザインとそんなザインに担がれるぐったりしたリズを伴って再び訓練場にやって来た。


 まずはおさらいということで先の試合の運びについて解説する。


 NSVにおけるPvPの鉄則は結局「如何にして決定打に持ち込むか」だ。

 PvPにもスキル縛りや職業縛りなど色々あるが、自由ルール、つまりスイッチロールが席巻した何でもありの技巧モリモリバトルにおいてこそ如何に力押し、如何に欺き、如何に封殺するか魅せて勝つのが本分。技巧極まる猛者達のトドメの一撃への拘りは一層強かった。


 ザインが試合開始早々【剛蹄】の大勝負に出たのは趣旨としてはある意味正解とも言える。それで決まればそこまで。決まらなければそこから一戦また一戦、違う手筈で勝負を運ぶという作戦もあったかもしれない。だがそれが通用するのはザインより明確に地力で劣る格下相手か、手筋を読まない魔物くらいだ。

 今回相対した俺はこれでも世界で最高峰に身を置いてきた一端の猛者だ。詰まるべくして詰まる極まった一撃ではなく、これで決まってくれと投げやりで放たれた一撃は決定打ではなくただの一手であり、その対応ぐらいヒョイ~のパク~の朝飯前というわけだ。


 「試合においては剛蹄自体か、剛蹄からの展開に如何に意外性を持たせるかが重要だと思うんです」


 「なるほど。あれでも意表を突いたつもりだったんだが、まだまだ考えが浅はかだったというわけだな」


 ザインは真面目な男だった。

 剣術に纏わる経歴を聞きながらより実践的かつ効率的なスキルの運用を解説したところ、その体躯にあの馬鹿正直な戦法からは考えられないほどによく耳を傾けてくれた。

 職業前衛盾役タンクらしいザインは攻略においては前線防衛と前進の要を担っているらしい。持ち前のVITで大きな一撃を往なしつつSTRゴリ押しの剛剣で斬り込む。危険な立場を努める勇敢さを含め、ロールプレイパーティーにおける盾役としては優秀なのだろう。

 そしてそんな剛剣で実績があるからこそ、今までは本職盾役でありながら剣術においても自分より拙い相手にはゴリ押しで通用した一方で、技巧で劣る俺には手も足も出なかった。ケニーが言っていた「一応」の含みも今となってはその意味が分かる。


 だがパワー剣術は攻略前線において悪手とひとえには言い難いものでもある。要は適当な場面で結果に繋げられるかどうか。結局は個人の技量が左右する。

 ザインは命がけの前線にいるからこそ、ルイーゼ近辺の攻略における盾役としての最適解を自分なりに考えて現状に至っているのだろう。そのバックボーンを無視してスイッチロール仕込みの技巧で上塗りするより、盾役なら盾役ならではの良さを土台を活かした上で補強する方がいい。


 そして恐らく、ザインにこそ遠隔攻撃スキルである【飛燕】とその上位スキルは役に立つ。

 飛燕の正しい振り、つまり力任せのザインが脱力を身に付ければ、前線攻撃の幅が広がるだけでなくSP温存も可能となり、盾役として一皮むけること間違いなしだ。


 バガァ!!!


 振りと力み方から教え、そこそこの本数素振りをする内にそれまで力任せに振るっていた剣筋に淀みが無くなってきた。その感覚を忘れない内にと飛燕を放ってみたところ、曰く今までは気持ち深めの切り傷しかつかなかったらしい的が弾け飛ぶように荒く両断される。

 お世辞にも綺麗とは言えないが、実戦級の威力を身に着けた成果は大きい。

 一方、ザインが飛燕をまともに矯正する様子を見たリズはいよいよその場に座り込んでしまった。


 「おぉ……!」


 自分で破壊した的を見て目を見開くザイン。


 まだ威力、射程距離など詰めるべき要素はあるが、きっと今までは手が届かなかっただろう痒いところにも今後は果敢に斬り込める。


 「かたじけない。まさか俺がこんな飛燕を打てるとは……」


 「はは、いやでもこれからですよ。できることが増えれば見えるもの気付くものも増えてきます」


 どれほど気付いてどれほど学んでどれほど身に着けても上には上がいる。自分では手の届かない、見つけていない、気付いていない何かがある。

 ザインの場合、今まで目の前にいながら救えなかった仲間もいるだろう。だが今正しく学んだ飛燕だけでも、ほんの数分前のままでは救えなかった者を一人でも多く救えるかもしれない。

 これから力を付けてもやはり救えない命は出てくるだろう。その度にひたむきに強くなっていってほしい。


 「ミツカ殿には聞きたいことが山ほどある。今晩は肉だな。肉を食いながら是非話をしよう」


 悪くない申し出だ。肉は肉で楽しみだったが、今はそれよりも楽しみなことがある。


 「あー、待たせた。三人とも」


 来た来たケニーさん。いや、いきなり面倒な仕事を任せて申し訳ないことをした上にカモネギだなんて思ってはいけない。


 「提出された魔石や素材だが、全て依頼要件を満たすグレードとして提出が受け入れられた。これを以ってミツカ……君を本日付けでCランク冒険者として登用することになる」


 「じゃあ、今から丁1Dルイゼリオスを攻略してきます」


 「……は?」


 ルイーゼのほど近く、洞窟タイプのダンジョンである丁等級第一ダンジョン『ルイゼリオス』。

 NSVでは初心者の多くが最初に到達する「ダンジョンとはかくいうものですよ」というような定番要素を浅く散りばめたほとんどチュートリアルステージだ。

 特に初心者は仲間探しに苦心する人も多いので、このダンジョンは平時はソロ攻略も可能な難易度に設定されている。それがスタンピードの変異種湧き中ともなれば……周回しかない。

 こうしてはいられない。丁1Dの通常ドロップはせいぜい丙等級ダンジョンで通用するレベルのスキルスロットエサ武器厳選用素材か売ってはした金にするくらいだが、スタンピードのレアドロップはなかなかニッチな旨味がある。

 

 パンビリオのビーフシチューが腹に残っている内にサクッと攻略だ。

 そして最高に気分良くザインイチオシの肉を食らう。働いた後の飯は美味いというし、一仕事しようじゃないか。





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