第2話 俺の鼓動は16ビート

「だーかーらー! 1番いい曲は『beautiful ice moon』だって言ってるでしょ!?」


「い、いやいや! 絶対に『星をたどって』だっての!」


「はぁ!? なにアンタ古参ぶってんのよ! 『昔からの曲知ってますー!』的なアピールでマウント取りたいわけ!?」


「お、お前だって最近人気になってから聴き始めましたって感じの曲選んでんじゃねーか!」


「なに言ってんの!? 私の方がアンタが聴き始めるより前から聴いてるっつーの!」



 開幕早々ケンカのシーンからのスタートです。両者一斉にスタート。各自の主張を続けています。おーっと友人の斉藤智也選手、藤原駆選手と内田香奈選手の口ゲンカの様子をチラチラと伺っています。おっと! ついに斉藤智也選手が2人に割って入ります!



「君たち初対面じゃないんですか……?」


「「初対面ですけど!?」」



 おっとハモりました! 藤原、内田、両選手が同時に同じ発言! 2人はとても中が良さそうに見え……



「「仲良くない!」」



 ……これは大変なことになった。


 謎の実況はここまでにして、ここに至るまでの流れを説明したい。


 転びそうになりスマホでベイブレードをした俺。そのベイブレードは内田香奈に拾われた。内田香奈は俺のスマホの画面を見たのだが、俺のスマホのロック画面は、ロックバンドclear blue water(通称クリブル)のギターボーカル、近藤さんの画像だったのだ。


 そのロック画面を見た内田香奈は、たいそう驚いたらしい。だってスマホケースは今見てるアニメの押しキャラのユズちゃんだし、パッと見だとアニメキャラのスマホケースと、ロックバンドのギターボーカルの待ち受けは釣り合わない。


 どうやら、内田香奈が驚いたのはアニメキャラのスマホケースではなく、ロック画面の近藤さんだったようだ。


 そして今は1年1組の教室にいるのだが、スマホを拾ってもらった玄関からここまで、クリブルの人気曲の話で盛り上がった。


 ……というわけではなく、お互いの好きな曲が全く合わず、ケンカになっている。


 会話のキッカケとしてよくある「1番好きな曲ってなに?」というやつ。俺が1番好きだと言った曲は、内田香奈の感に触ったらしい。いいじゃん昔の曲。だって自分が好きになったキッカケの曲だから仕方ないもん。あーまた内田香奈がキレ始めた……


 

「しかもなによあのスマホケースは! クリブルファンならスマホケースもグッズにしなさいよ!」


「いくらクリブルが好きでもユズちゃんは手放せねーんだよ! しかもユズちゃんはクリブルがOP歌ってるアニメのキャラだから関連してるじゃねーか!」


「アニメなんて知らないわよ! なにそれキッモ!」


「まぁまぁ2人とも落ち着いて……どーどー」


 智也が場を落ち着かせようとする。大好きなクリブルの話だからつい熱くなってしまった。「い、いやいや!」とか、「お、お前だって」とか、完全にインキャ丸出しのかみかみ口調で対抗。失礼、かみまみたとか言ったらさらにキレられた香奈? あ、変換ミス。



 呼吸を落ち着かせながら、内田香奈と2人で見合っていると……



「やーやーやー! 2人とも朝から熱いねー! なんか仲良さげですかぁ……?」



 後ろを振り返ると、女の子が教室に入ってきた。仲良くないですし初対面なんですけど、いきなりバトルが始まってしまって……とか言おうと思ってた。え? あれ? もしや……


「や、山本さん!?」


「お! もう名前知ってくれてるなんて! これは光栄ですなぁ〜!」


 女の子が俺の驚きに返事をしてきた。後頭部を手で触りながら、いやー照れますなぁ的な仕草。頭の上の方で縛ったポニーテールが揺れる。


「まさか知り合いか〜駆?」


 智也が意味深な表情を浮かべつつ、俺に聞いてくる。「あれ? 君インキャなのに別の学校の女友達なんているの?」みたいな顔でこっちを見てる。……こっちみんな。


「あ、いや、別に」


 ヤベェ……思わず名前を呼んでしまった。一方的に知ってただけなんだけど。



 その女の子の名前は山本菜々やまもとなな


 中3の時、俺の初ライブは失敗に終わった。そのあと、わりと近くの中学の学園祭で、クリブルのコピーバンドをやるという噂を聞き、こっそり見に行ったのだった。



 その時演奏していた曲は、「星をたどって」だった。



 そう、手紙の、最後に書かれていた歌詞……。まさにその曲が「星をたどって」だった。そして俺が1番好きな曲。


 バンドメンバーは全員男子……と思いきや、ドラムだけ女の子だった。結構激しい曲で、ドラムも難しい曲なのに、完璧に叩き上げていた。


 あまりにカッコ良かったのと、その可愛さに俺は一目惚れ。山本さんも同じ学校だったんだ。それだけで幸せすぎる。恋に落ちるってのはこういう感覚なのかな……? ウフッ、ウフフ……。ヤベェ、声が出かけた。


 懐かしい思い出と恋のエピソードを思い返していると、いきなり山本さんが話しかけてきた。


「ねぇねぇ! 君、ギター弾ける?」


 それが憧れの山本さんに話しかけられた、初めての言葉だった。


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