ラブコメ好きの僕が1番読みたいラブコメを自分で書いてみた。【フォーチュン・レター】
ビター砂糖
第1話 俺のスマホはベイブレード
俺はまた、この手紙に手を伸ばす。
「春。桜が風に舞う。歩き出す。そこは大舞台のステージ。大歓声の中、君はステージに立つ。ギターを肩にかけ、そっと目を閉じる。大きく息を吸い、君は歌い出す。会場の全員が、君の歌声に聞き惚れる。曲が終わる。大歓声。大きな拍手に包まれた君は、夢をかなえている。だから諦めないで。歌うことをやめないで。君の歌を好きになった人が、必ずいるから。またいつか聞けるといいな」
そして、最後の1文はこう書いてある。
「迷ったって、止まったって、また歩き出せ。いつか辿り着ける。星をたどって」
「これ、やっぱりクリブルの『星をたどって』の歌詞だよなぁ……」
いつも通り、手紙をそっと封筒にしまう。
俺は明日から高校生。この手紙をくれた子にも、いつか出会えるのかな……。
***
4月。桜並木の間を俺は歩く。
新しい制服、新しい通学路、新しい学校……。そう、俺は今日から高校生になる。
やっぱり新しいっていいよな。靴にしてもゲームにしても、漫画にしても。新しいものってのは本当にワクワクするものばっかりだ。さぁ、次はどんな新しいものに出会え……。
「よーっす
こいつは幼なじみで腐れ縁の
「こいつは新しくない……」
「いきなりひどくない!?」
いつもと同じような挨拶をかわして、校門をくぐった。
***
「えーっと、
「カケルゥ! よかったぜ俺も1組みだ!」
「あーよかったなぁ」
校舎の入り口付近に、高校に入ってから最初のクラス分けが掲示されている。俺と智也は同じクラスになった。
「あーよかったなぁ」とかぬかしたけど、本当はすごくほっとしてる。
だって俺インキャだし、アニメオタクだし、智也みたいなやつと一緒にいたら、友達たくさんいそうに見えるじゃん。あ、でも友達ってのは人数じゃなくてですね……以下略。
自己紹介がまだだった。俺の名前は藤原駆。
容姿は普通、学力も普通、運動神経も普通。ザ・普通グランプリ優勝。全日本アマチュア普通選手権大会優勝……をしてそうなくらい普通。
特技は、しいて言えば少しだけギターが弾ける。
中学2年の時、ロックバンドclear blue water(通称クリブル)に出会い、ギターを始めた。勢いで出た中3の学園祭では、機材トラブルでライブは大失敗。それ以来、人前で歌うことを避けて通ってきた。
「高校でも俺と青春を
「……お前銀河美少年だったの?」
「なにそれ?」
智也みたいなリア充にはアニメネタは通じない。わかる人にだけ伝わればいいんだ……。いや、泣いてなんかないよ?
そんなやりとりをしつつ、智也が急に声をあげる。
「おわっ! あれ
「誰? 有名人なの?」
俺にはさっぱりわからん。
「お前知らねーの? 内田香奈と言えばめっちゃ美人で有名で、しかも成績優秀。さらに美人。誰もが憧れる美少女だぞ?」
「美人って2回言ったぞ。確かにめっちゃ美人だけど」
かなりモテそうな感じだ。背が高くてスラッとしてて、髪もツヤツヤだ。肩くらいまでの長さで、軽くウエーブがかかってる。あれ地毛なの? 巻いてんの? 校則的に大丈夫なの? と色々疑問が出るが、もちろん話しかけられない。
「お! 挑戦者あらわる!」
智也が勝手に盛り上がっている。おそらく俺と同じ新入生だと思われる男子が、内田香奈の方へ向かって歩いて行く。
「う、内田さん! 同じクラスだね! 俺にLINE教え……」
「は? アンタ誰? 初対面だし普通に無理」
一発ノックアウト。あの人なんなの? アスカなの? 声をかけた男子の友達……と思われるやつらは爆笑。「いやーだから無理だって言ったろ」「お前クソウケる」「ダッセー」などなど。まぁ見事にネタにされている。
「うわーこっえー! 美人だけどこっえー!」
「あれ言われたら俺泣いちゃうわ……」
お調子者の智也も、少々ビビったようだ。
「さて、そろそろ教室行こうぜ、智也」
クラス発表も見終わったし、新しい教室へ入ってもろもろ準備しないといけないし。心の準備も含めて。あー友達できるかなー……。色々心配だわ。
――――ガッ!!!
色々と考えながら校舎の入り口に向かって歩こうとした瞬間、右足に何か硬いものが引っかかった。なんでこんなところに石があるんだよクソッ! と思ったら、普通に段差でした。
「おっとっと! あっぶねー! ズッコケるとこだった」
と無事に転ぶ寸前でバランスをとり、なんとか体勢を立て直した。
「あれ!? 俺のスマホは……!?」
転ばずには済んだものの、手に持っていたスマホをぶん投げてしまっていた。
ベイブレードみたいに回転しながら、女子の靴にぶつかる。待ってくれ俺のドラグーン。じゃなくて、よりによって女子の足元かよ。
しかも、それはあの内田香奈の足元に。
ブッ飛ばしてしまったスマホを、内田香奈が拾い上げる。ヤバい。今のスマホケースは、推してるアニメのヒロインのユズちゃんだ……。
これは終わった。俺の高校生活が終わった……。
内田香奈は拾い上げたスマホの裏面を見た後、画面の方を向ける。
「は!? ウッソ……まじ……?」
あーこれは引かれてるやつだ。もうやめてくれ。推しのスマホケースなんて痛いよな。ただユズちゃんは手放せないんだよ。もう許してくれ……。
内田香奈が俺を見た。ズカズカと俺の方に歩いてくる。そして口を開く。
「アンタも、クリブル好きなの?」
「……は?」
俺は、開いた口がふさがらなかった。
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