第307話 28-2 地球温暖化対策?
2026年5月、優奈は神戸市灘区の実家に居て、のんびりと過ごしていたのですが気がかりな事が起きていました。
台風6号がマーシャル海域で発生し、勢力を増しながらゆっくりと北上してきているのです。
気象庁の予測ではまたしてもスーパータイフーンとなる可能性が高く、日本直撃の恐れもあるそうなのです。
2025年は、実に14もの台風が日本を直撃し、風と大雨により多大の損害を日本各地に与えました。
その所為か優奈の寄付行為も年々その額を増やしている状況です。
まぁ、支出よりも収入がはるかに多いのは事実で、2025年は海外分と国内分の総額で5億円余りを寄付しているのです。
そうそう昨年9月には台風23号が首都圏を直撃、神奈川県で大きな被害を出しました。
横浜と横須賀で大規模な土砂崩れが発生し、三千戸以上の家屋が倒壊、23人の犠牲者が出ました。
それでも早期非難が幸いして死傷者は少なかった方なのです。
停電、断水も神奈川と首都近傍で大規模に発生しました。
どちらも武蔵境に影響はなかったのですが、それでも物流に影響はあって、スーパーに品物が無くなる異常事態が武蔵境でもありました。
幸いにして優奈のマンションと秘密基地には膨大な量の非常食量がありましたし、神奈川と東京の一部で停電になってすぐに念のため麻生山の秘密基地から小型発電機を運んで、ベランダに設置、非常時には給電ができるようにしておきました。
因みにお隣さん達にはかなりの量の保存食料をおすそ分けしています。
困ったときには相見互いですものね。
いずれにせよ地球温暖化の
5月で既に6号という発生数も異常ですよね。
優奈は精霊達にお願いして状況確認のためのミーティングを開きました。
風の精霊ファーレン、大気の精霊ミア、海の精霊アケアンの三精霊です。
彼らは口を揃えて言いました。
二酸化炭素等温室効果ガスの急増と工場や機器からの熱量放出により、極地の精霊であるアルクトスとコイトスの力が弱まっていることが地球温暖化の原因の一つであり、優奈の力でアルクトスとコイトスに魔力の供給をしてほしいと頼まれたのです。
ミアによれば、台風6号は放置すると日本近海に達した時点で最大瞬間風速毎秒85mを超え、その強風圏は直径3500キロに及ぶそうで、日本列島がすっぽり隠れてしまいます。
この台風が日本列島を掠めただけでも大きな被害が出そうなのです。
アルクトスとコイトスに魔力の供給と言ってもその方法を優奈はよく知らないのですが、精霊たちの話では優奈がオーラを放ちながら傍にいるだけでその魔力の供給を得ることができるのだそうです。
但し、アルクトスとコイトスはその役割上いずれも極点にある拠点からほとんど動けないらしいのです。
従って、どうしても優奈自身が北極点と南極点に赴く必要があるようなのです。
2025年に開催された気候変動枠組条約第31回締約国会議(COP31)でようやく各国も本腰を入れて地球温暖化対策に乗り出し始めましたが、あいにくと人類の対策は明らかに後手後手に回っているようです。
アケアンの話では既に北極における下降海流の流れが遅滞し始めており、このままでは太平洋と大西洋の海流の流れが大規模に変動する可能性が高いというのです。
北極で冷却された海水は沈降して海底の緩やかな流れとなり表層海流の定常的な動きを補助しますが、万が一にでもこれが止まると表層海流そのものが乱流となって予測のつかない影響を及ぼすことになるらしいのです。
例えば、英国は緯度の割には温かい気候なのですが、これは欧州大陸西岸という地理的要因から生ずる西岸海洋性気候であって、米国西岸地域と同様に暖流の北進による温暖な気候の賜物なのです。
仮に極地域での沈降海流が止まると、連動する海洋での海流も影響を受け、下手をすると暖流が止まって、ロンドンがサハリン北部の寒冷地と同じ気象になる恐れもあるのです。
ロンドンの緯度は概ね51度56分、これは稚内(北緯45度62分)よりも6度凡そ360海里(約670キロ)ほど北に位置するのです。
雪が降るのは勿論ですが、暖房がなければ間違いなく凍死する気象であり、もしかするとドーバー海峡も流氷に覆われて徒歩でフランスに渡れることになるかもしれません。
なにせ北緯52度近辺の間宮海峡周辺の冬場の最低気温は、マイナス40度にも達する寒冷地ですからね。
でも、現状のロンドンの場合なら、西岸海洋性気候で冬場でも神戸と同じような気温なのです。
そうしてミアが言うには大気の循環も、海流の擾乱によって大きな変動を余儀なくされることになるそうです。
更に北極の氷塊が失われ、南極の氷河が消えた場合には、最悪でポールシフトが発生する蓋然性が高まり、その結果として一時的に地磁気が失われ太陽からの放射線を遮ることができない可能性があるのです。
因みに一時的な喪失と言っても地磁気が正常に戻るまでには百年単位の時間がかかるらしいので、これはまさしく人類絶滅の危機なのです。
どうやら極点の冷却と地磁気はかなり密接な関係がありそうですね。
正直なところ現時点で優奈にはその辺の科学的な説明はできません。
地球物理学や電磁気学をもう少し勉強していれば良かったのかもしれませんが、それよりも精霊たちの助言に従った方が良いと直感的に思ったのです。
優奈は早速その夜に麻生山の秘密基地に跳び、特別な素材で防寒服を製造、それを着込んで北極と南極に向かうことにしました。
優奈の製造した防寒服は近未来映画の宇宙服に似ています。
銀色にコーティングされた薄手の布で作られたボディースーツはぴっちりと身体の線を浮き上がらせます。
頭部は透明な素材のフルフェイス・ヘルメットで完全な機密構造になっており、腰に付けた物質転送の換気装置で麻生山の秘密基地にある清浄な空気と常時入れ替えています。
まぁ、物質転送なんてしゃれた機械を持っているのはユーリーのお陰です。
彼の一族の製造技術と知識を譲って貰えたのでできたことなんです。
因みに、ユーリーからもらった知識の中には、このほかにも宇宙船の建造技術なんかもありますけれど、現在の人類には早すぎますよね。
未だに惑星間旅行もできていないのに、銀河間すら航行できる宇宙船を所持するというのは、石器時代の未開人が原子爆弾を保有するようなものです。
危なくてとても容認できません。
優奈は良いのかって?
優奈は勿論旦那様候補のユーリーがきちんと管理してくれるから良いのです。
何か文句がございますか?
仮に文句を言われたにしても無視しますけれどもね。
いずれにしろ、優奈はその夜から毎夜二時間ほど北極と南極の拠点に交互に赴き、アルクトスとコイトスと
駄弁っている間にアルクトスとコイトスは、優奈がまとっている強大なオーラから魔力というエネルギーを得ることができて徐々に元気になるのです。
そのおかげで年々弱まっていた極高気圧が徐々に回復を始めました。
ロシアには悪いのですが北極航路は数年後には閉鎖されることになるかもしれません。
以前のように北極周辺の氷塊が厚みを持ちだしたのです。
南極も同じです。
氷河が毎年溶けていたのが止まったのです。
こちらも徐々に増えてくるのではないかと思います。
アケアンの話では極めて遅くなっていた両極周辺海域での沈降速度が、少しずつ元に戻りつつあるそうです。
優奈の両極点訪問は9月半ばまでほぼ毎日続けられ、その後は一月に一回程度の訪問で済むようになりました。
因みに台風6号は、少し優勢になった極高気圧に影響を受け、更には偏西風が少し南下したことにより日本を直撃せずに太平洋を北上してアリューシャン海域に抜けました。
幸いにして日本に直接の被害はありませんでした。
一応、アルクトスとコイトスの強化はできましたが、すぐには地球環境が変わるわけではありません。
おそらくは今後も数十年規模でスーパータイフーンの脅威は続くのだと思います。
勿論、優奈の動物病院はスーパータイフーンの脅威に晒されても大丈夫なように設計されています。
高潮や津波対策のために一階部分は駐車場と倉庫ぐらいしかありません。
二階部分以上が病院と居住設備になりますが、窓ガラスなどは大使館等の窓口で使用されている強化ガラスで、ライフルの銃弾すらも弾きます。
建設会社の完工後に更に優奈が構造材やガラス部分にも強化をしますので、おそらく12センチ砲弾や千ポンド爆弾の直撃にも耐えられるはずです。
しかも、ビルは免震構造で、震度7以上の激震にも耐えられる構造になっています。
そのために通常のビル建造よりも高額な建造費がかかっているのです。
動物病院の話はともかくこうして人知れず、地球温暖化対策の一つが優奈の手によってなされました。
課題はまだまだあるのですが、一応、めでたしめでたしというところでしょうか。
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