第129話 13-19 近代五種競技出場の道
6月29日、オリンピック準備委員会が競技日程の一部変更を記者会見で発表しました。
女子近代五種の日程を競技場の都合で8月7日から9日に変更すると言うものでした。
オリンピックの最終日閉会式の前であり、特段の問題はないと思われましたが、その翌日には近代五種競技連盟からオリンピック出場選手の追加が発表され、大騒ぎになったのです。
特別枠で追加される選手が加山優奈と発表されたからです。
優奈には同じ29日に連絡が入りました。
自衛隊体育学校の河原崎学校長がわざわざ大学を訪れ、優奈に面会を求めたのです。
時間は、午後の講義が終了する10分前でした。
従って、優奈は、講義が終わるとすぐに学長室に呼ばれました。
学長室には河原崎学校長ともう一人の人物が優奈を待っていました。
もう一人の人物は、近代五種競技連盟の理事長瀬川庸蔵と紹介されました。
河原崎が用件を説明した。
「近代五種は今年の3月には既に二名の出場選手が決まっていたんだ。
日本の選手枠は、開催地なので2名プラス1なのだが、余りレベルが低い者は国際大会に出せないのでこれまではプラス1は欠員の予定だった。
プラス1とは近代五種競技連盟が認める競技者であれば成績とは無関係に、開催国の恩典で出場させることができる枠なんだ。
日本は男女ともこの競技で優勝は一度もない。
そうしてIOCでほぼ内定していることなのだが、近代五種は東京オリンピックを最後にオリンピックの競技種目から外される。
まぁ、もともとメジャーではない種目だから仕方がないのだが、一方で関係者である我々としては非常に残念なことなのだ。
そうして、君は多分授業を受けていたから知らないかもしれないが、オリンッピク準備委員会が先ほど日程の一部変更を記者会見で発表した。
競技会場の都合で、女子近代五種の日程を8月7日から8月9日に変更したんだ。
これはIOCの了解も得ているし、参加各国にも通知済みだ。
で、君の話になるんだが、8月9日は君の陸上競技出場種目には影響を与えない日だ。
女子の陸上競技は8日までに全てが終了しているからね。
そうして、この日は夏季休暇だから君の学業にも影響がない日だ。
君に無理は言わない。
強化選手は体育学校で練習をしているのだが、君の場合は練習にも出ずとも構わない。
但し、オリンピック最終日の競技には出場してほしい。
君が大会に出場するために必要な装備・衣類の類と資格については全て近代五種競技連盟で用意する。
尤も、資格付与のための受験と衣類・装備の採寸だけは行わせてくれないと、それすらできないのだが・・・。
どうかね、オリンピックの競技としては最後になる予定の近代五種競技の有終の美に花を添えてはもらえんかね。
これは私の長年の夢なのだよ。
日本人も近代五種で活躍できるのだと言うことを欧州の貴族崩れに見せてやりたいのだよ。
彼らは鼻っ柱だけは強くてね。
アジア人を見下している。
まぁ、そうでない者もいないわけではないが、8割がたは「平民どもが近代五種のような貴族階級の競技に出て来るな」という態度を示しておるなぁ。
残念なことに、現状はそうした白人優位の状況を覆すには至っておらんのだよ。
ロンドンオリンピックの際に男子近代五種で中国人選手が銀メダルを取ったのが一度きりだ。
君ならメダルを狙えるし、金メダルも夢じゃない。
頼む。
うんと言ってくれ。」
そういって河原崎は深く頭を下げた。
優奈は真摯に頼まれると弱い。
だから優奈のサインが欲しくてすり寄って来るファンの頼みを断り切れず、毎回サイン会の真似事をしているのである。
そうして今の状況である。
困っているところへ追い打ちのように瀬川理事長からもお願いされ、更に崎島部長までもがいつ入って来たのか加わった。
「優奈君、君に余計な手間は駆けさせることにはなるが、これも河原崎学校長と関わったのが悪かったと諦めて、受けてあげなさい。
河原崎校長はわしの同級生でな、昔から二人で悪ガキを演じておった。
この男はなかなかの策士でな。
周りを全部潰してから本命に当たるんじゃよ。
水面下で動いている間は滅多に気づかれん。
気づいた時にはもう遅い。
で、優奈君もその手に嵌ったのだからジタバタせずに、大和撫子らしく潔く受けてやればいい。」
優奈は肩をすくめた。
「仕方ありませんね。
寄ってたかって、私を虐めるんですから・・・。
これで断ったら私が悪者にされそうです。」
「そうじゃ、まさにそれこそが河原崎の思惑じゃよ。」
学長室に笑い声が上がった。
こうして直前になって優奈の近代五種出場が決まったのです。
無論参加するためにはいろいろな資格を取らなければならないなどの障害もあったのですが、全ては優奈をオリンピックに参加させるために様々な機関が特別配慮をなしたことで、準備が整ったのは半月後のことでした。
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