没落貴族の下剋上

新哺乳類

身分の重さ

 永遠なんてものはない。何事においても。

分かっているつもりでも、終わりと言うのはいつも突然訪れる。

その突然の時に居合わせたらみんなこう考えると思うんだ。

「なんで今なんだ…」って。

例えば世界が終わる時、どこにも逃げ場がなく、何もできずにただただ世界の終わりを待つ事しかできない時に考えると思う。

「自分が生きている時代にこんなことが起こるなんて…」。

まぁ、何が言いたいかと言うと、突然何かが起きたら頭の中が真っ白になるよねってこと。実際に僕もそうだったからね。


 まずは僕の世界の話をさせてほしい。

アンバー大陸と呼ばれる大地に僕が住む国、ヴァール帝国がある。

このアンバー大陸には他に2つの国があるんだけど、それは追々説明するとしようか。

ヴァール帝国はアンバー大陸にある3つの国の中で国土が1番小さいし、歴史も建国7年とまだ浅い。

ヴァール帝国は一言で言うと権力至上主義。

 1番上から順に、皇族おうぞく貴族きぞく平民へいみん下民げみんと分かれている。

皇族おうぞく・貴族は言わずもがな、絶大な権力を持っている。貴族の中でも爵位制度しゃくいせいどと言うものがあって、爵位しゃくいが高い者ほど権力を持つことが出来る。


 この国では月に1度、帝国会議と言うものがあり、王侯貴族おうこうきぞくが集まって帝国の運営を話し合うのだが、帝国会議ほど無駄なことはないだろう。

 帝国会議は会議であって会議ではない。結局の所、身分が高い人間にこびを売って自分の保身ほしんはかる場だ。

 先程も言ったように、このヴァール帝国では権力がものを言う。

どんな議題でも最終決定権は権力の頂点に立つ皇帝が持っている。皇帝が黒と言えば黒、白と言えば白、と言った具合に全て皇帝の意見で物事が決定される典型的な独裁国家だ。

 そして平民。この国では平民でいることも並大抵なみたいていの事ではないんだ。

毎年莫大まいとしばくだいな税を国におさめる必要がある。

この場合で言う【税】とはもちろん金品も含まれるが、それに見合う物なら何でもいい。本当に何でもいいんだ。例えそれが自分の血を分けた子供だとしても【税】として認められる。

そして【税】を納める事で市民権を貰える。

この市民権は1年毎の納税によって更新される仕組みになっている。

 だから平民は毎年決まった時期に【税】を納めるんだ。

平民でいることは並大抵なみたいていの事ではないと言ったけど…もう分かると思う。平民で居続けることの大変さが。

 市民権の更新時期に決められた【税】を納められなければ市民権を剥奪はくだつされる。

だからこそ平民の人達は税を納める事で頭がいっぱいなんだ。片時かたときも心が休まる時がないと思う。

だって、市民権が剥奪はくだつされると…下民に落とされてしまうんだから。

 そして最後に下民。下民は簡単に言うと奴隷どれいと大差ない。

ヴァール帝国南部にある荒れた広大な大地、通称【ケージ】と呼ばれる場所に老若男女ろうにゃくなんにょ全ての下民がここで暮らしている。

【ケージ】は文字通り区画分けがされていてさくおおわれている。自由に出入りすることはできない。

建国からの7年間、毎年相当な数の人がここに送られてくるから人口密度が高くなって年々暮らしにくくなっているんだ。

 基本的に下民は貴族の許しがなければケージから出ることができない。

まぁ出れると言っても奴隷どれいとして人手が必要になった時だけだから、仕事が終わればまたすぐここに戻されるんだけど…。

でもその際に少なからず子供の小遣い程度の給料が貰えるから、自分から進んで奴隷どれいとして志願しがんする人もいるんだけどね。本当にたくましい。重労働をさせられて暴力振るわれるのなんて普通だし、何より人間扱いされないし…僕は奴隷としての仕事はごめんだな。


 さて、前置きが長くなってしまったけどここで自己紹介をさせてほしい。

僕の名前はルービス。ヴァール帝国に住む下民だ。年齢は17歳の男。10歳の頃から下民として生活しているからケージでの暮らしも慣れたものだよ。悲しいことにヴァール帝国建国の時にこのケージの中に来たんだ。仕方ないよね…子供だったし…。

 ここには本当に娯楽ごらくと言うものがない。

だから毎日毎日無駄に1日を過ごしている感じ。立派なダメ人間が誕生するよね。

 でもね、まだ元気があった頃は帝国に一矢報いようとか、他国に亡命ぼうめいしてやり直そうって思っていた時代もあったけど、その情熱はどこへやら…今は日付も分からないし、その日その日をただ自堕落じだらくに生きているだけの抜けがらみたいになったんだ。

 今ではこの生活に満足している自分がいる。

腹が減ったらゴミめをあさって食べれそうな物を探して、眠くなったら寝て、寝るのに飽きたら空を見てボーっとして、この繰り返し。

最近「悪くない」とか思い始めている。

本当に慣れって怖いよね。

でも、そんな僕のだらけ切った日常を土足どそくみにじったのは…そう、あの女だった…。

この女が現われなければよかったと何度思った事か…。

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