第75話 バレバレの嘘と言い訳次第
温泉旅行への誓いを立てた同日の昼休み。
「はい、あーん♡」
「あ、あーん」
少し照れながらも、差し出された卵焼きにかぶりつく莉斗。
広場の噴水前に座りながらこんなことをしていれば、当たり前のように人目に付く。その視線の全てがカップルを見るようなものだった。
中には生温かいものもあれば、殺意のような黒いものを纏ったものもあって、ミクはともかく莉斗はいつ通り魔が現れるかずっと気が気でない。
「ねえ、週間彼女計画って秘密なんだよね?」
「そうよ?」
「思いっきりバレてると思うけど……」
「普通に仲良くしてるだけじゃない」
「普通の友達はこんなにくっつかないよ」
ミクは肩がずっと触れ合っているような距離に座っていて、食べさせてくれる時は向き合う形になるため体の距離も近くなる。
それは身長差のせいもあって、彼女が背伸びをしようとした際にも何度か胸が当たっていた。
純粋な男子高校生として2人っきりなら大歓迎なのだが、学校という環境でのそのソフトタッチはかなり問題なのである。
「莉斗は私がくっついてると嫌なの?」
「嫌じゃないよ」
「じゃあ、嬉しい?」
「そりゃ、まあ……」
「ならいいじゃない♪」
そう言って正面から「ぎゅぅぅ♡」と甘い声で言いながら抱きついてくるミク。
おまけに胸に顔を埋めてから上目遣いでニッコリ笑われたりなんてすれば、莉斗の心臓は苦しいほどに締め付けられた。
「み、ミク?!」
「幼馴染でハグなんて普通のことよ」
「それは小さい頃の話だから……」
「ふふ、随分と発展しちゃったものね?」
やっぱり何度考えてみても、つい最近までツンツンしていたあの子と同じだとは思えない。
彩音と莉斗の秘密の行為を注意し、家にまで連行して怒った理由が、本当は自分が先にそれをしたかったからで―――――――――――って。
「か、可愛すぎるよ」
「んぅ、そんな耳元で囁かないでちょうだい……」
くすぐったそうに首をすくめる様子に、自分の中で何かが外れる音が聞こえた。
それから彼は半分ほど残っているお弁当箱を閉じると、ミクの手を引いてその場から移動する。
彼女も初めは引っ張られていたものの、それがどういう意図でのことなのかを理解しているようで、やがて横に並んで歩き始めた。
「こういう時だけ強引なんだから」
「嫌ならまだやめれるよ」
「……もう、分かってるくせに」
その言葉を了解と捉えて、莉斗は滅多に人の来ない校舎横の細道へとミクを連れ込む。
決して一線を声はしないものの、お試しとはいえ関係が変わったことによって2人の求め合いが一層激しくなったことは言うまでもない。
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