第53話 何でも話せる相手って1人はいて欲しいよね

 雪菜ゆきなとの一件があった同日の放課後、莉斗りとは早速彼女に連れられて家まで来ていた。

 せっかくなら落ち着ける場所で話したいということらしいが、彼からすれば落ち着くどころか余計に緊張してしまう場所である。


「そんな固くならないでよ〜♪」

「だ、だって……」

「あやちゃんの家には行ったんでしょ?」

「なんで知ってるの?」

「自慢してたよ〜?」


 クラスのぼっちを家に上げた。莉斗は自分でも自慢にはならなそうだなと思ったが、そう言えば雪菜の前では付き合っていると嘘をついていることを思い出して納得した。

 例え対象の相手が同じであったとしても、彼氏を家に上げたという言い方にすれば、色んな意味で勝ち組感が出るだろう。


「まあ、今日はあやちゃんのことは置いとこ〜」

「そうだね。雪菜さんの相談のために来たわけだし」

「相談と言っても、愚痴みたいなものだけどね〜♪」


 そう言いながら階段を上った彼女は、その先にあるドアを開けて「どうぞ〜」と手招きをした。

 心做しか漂ってくる甘い香りに胸が跳ね上がりそうになるのを抑え、何とか平然を保ちながら部屋へと踏み込む。

 ここからは堂々としていないと相談しづらくなるだろうという考えもあったが、何より男の部分が出ると雪菜を怖がらせてしまうかもしれないからだ。


「お、お邪魔します……」

「好きなところに座ってて。飲み物取ってくるね〜」

「うん、ありがとう」


 莉斗は雪菜の背中を見送った後、とりあえず丸机の近くに腰を下ろす。

 もふもふとしたカーペットは肌触りが良くて、むしろこのまま寝転びたいくらいだったが、人様の家だと自分に言い聞かせて堪えた。


「……あ、写真だ」


 特にやることもないので部屋の中を見回していると、壁に掛けられたコルクボードが目に留まる。

 そこに貼られた写真には、どれも雪菜が真唯と彩音との3人で映っていて、本当に仲がいいんだろうということが伺えた。

 彩音にASMRバレするまで外界に興味がなかった莉斗は、3人が友達ということすら最近知ったばかりだから、少し意外だと思うのも無理はない。


「誰が一番可愛く写ってるかな〜?」

「っ?! ゆ、雪菜さん、いつの間に……」

「この部屋のドア、そっと開けると音がならないから気をつけてね〜♪」


 クスクスと笑いながら、りんごジュースの入ったコップを机に置く彼女。

 莉斗は『気をつけてって言うなら驚かさないで欲しかった……』と心の中で呟きつつ、雪菜が座ったのと向かい合うようにして腰を下ろした。


「それじゃあ、長くなると思うけど最後まで付き合ってね〜?」

「覚悟は出来てるよ」

「ふふ、何から話そうかな〜♪」


 彼女はさぞかし楽しそうに微笑みながら、まず一つ目の真唯エピソードを話し始めたのであった。


「私たち、幼稚園からの幼馴染でね――――――」

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