第43話 いつか越えるかもしれないライン
「そろそろ帰ろっか」
店から出てくるなりすぐにそう口にした
二度の気絶による疲弊も全く感じられない表情に、彼は心の底から安堵した。
「初デートだから、もっと落ち着いた感じの方が良かったかな?」
「そんなことないよ、すごく楽しかったし」
「ふふ、私も同じ」
彼女は「次はお家デートかなぁ」なんて言いながらにっこりと笑う。その顔を見ていたらこっちまで自然と笑顔になってしまった。
「お家デートなら彩音さんの家になるけど……」
「あの妹がいるから仕方ないよね」
「
「さすがに本気で襲ったりしないだろうから大丈夫……多分だけど」
お互いの間に数秒の沈黙が流れる。どちらの家にも邪魔してきそうな存在がいるなら、お家デートは不可能かもしれないという諦観から来るものだ。
しかし、彩音さんは「私は諦めない! お姉ちゃんを旅行にでも行かせて一晩開けてもらう!」と拳を握りしめる。
「一晩って……お泊まり?」
「お家デートだよ? 何が起こってもいいように、環境は整えておかないとね」
「っ……」
「何を想像しちゃったのかな?」
「な、何でもないよ……」
「嘘は良くないよ嘘は」
彼女は「めっ」と莉斗を叱ると、右手に待っていた紙袋を軽く掲げながら彼の目を見つめた。
「本当のこと言わないと、コスプレ見せてあげないよ?」
「えっ……」
あの中にはナースと警官、そしてバニーガールのコスプレ衣装が入っている。
せっかく買ってもらったと言うのに、あると分かっていながらそれを見れないなんてもはや拷問だ。
「ほら、何を想像したの? 彩音さんに言ってみて」
「わ、わかったよぉ」
背に腹はかえられないとばかりに彩音の耳に口を寄せた莉斗は、一度は躊躇った心の内を囁く。
しかし、それを聞いた彩音はキョトンとした後、「本当にそれだけでいいの?」と聞き返した。
「もう少し欲望をさらけ出していいんだよ?」
「さらけ出すって、十分だと思うけど……」
「だっていつもしてることじゃん!」
彼が想像したと言ったのは『朝まで耳を舐められること』。彩音が期待していたのは、それよりももっと上の行為だ。
男の子ならこれが本心ではないはず。そう思って聞き返したのだが、彼の表情から嘘は感じ取れない。
まさか、自分の体には興味が無いのか。彩音が少し悲しい気持ちになった瞬間、その意図に気がついた莉斗がハッとして顔を赤らめた。
「あ、彩音さん?」
「ん?」
「僕が一線を越えないのは、彩音さんのことが大切だからだよ。傷つけてたらごめんね」
「……ううん、大丈夫だよ♪」
「あと――――――――――――」
唇を震わせながら発された次の一言に、彼女が顔を赤くしたことは言うまでもない。
「す、すごく興奮するから……!」
何にとは言わないものの、お互いに熱くなった顔を突き合わせて微笑み合う二人。
そんな彼らの帰宅途中、一方が我慢出来ずに路地裏へ連れ込み、汗だくになったからと銭湯に寄って帰ったことはまた別のお話。
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