無口な窓際ぼっち君、実はASMRにハマっていることが隣の席の美少女にバレてしまいました―――彼女はいつでも僕の右耳を狙っている―――
プル・メープル
第1話 きっかけは偶然だった
教室最後列窓際、通称『神席』と呼ばれるそこに座っているのは、
髪型をいじったこともなければ、私服にこだわったことも無い。パリピとは正反対のいわゆるぼっちと呼ばれる部類の人間だ。
しかし、彼は一人でいることに抵抗がないため、いつも自分の席でイヤホンを付けながらウトウトするのが習慣だった。
「今日も長篠くん寝てるね」
「いつも何聞いてるんだろ?」
「ちょっと聞いてきてよ」
「ええ、無理無理〜!」
クラスの女子がキャッキャ騒いでいることも知らず、平和な自分だけの世界に閉じこもり続ける莉斗。
しかし、彼のそんな日常は彼女の介入によって大きく歪められるのであった。
「ねぇ、何聞いてるの?」
「……」
「おーい、聞こえてるー?」
「……」
隣の席から声をかけた彼女は
金色に染めた腰まである髪と着崩した制服から陽キャ感溢れる、莉斗とはまさに水と油のような立ち位置の人間である。
「こんなものつけてるから聞こえないんでしょ?」
「……ん?」
彩音が耳からスポッとイヤホンを抜き取ると、莉斗はようやくその声に気がついて顔を上げた。
「……どちら様?」
「彩音様だよ。話しかけてるのに無視しないで」
「何か用?」
「どんな音楽聴いてるのかなって」
彼女がそう言いながら、抜き取ったイヤホンを耳にはめようとすると、バッと立ち上がった莉斗はそれを慌てて取り返す。
「だめ」
「別にいいでしょ、教えて?」
莉斗は別に相手がパリピだから断っているわけではない。彼はぼっちではあるが、話しかけられれば誰であろうと分け隔てなく接するタイプなのだ。
「ふふ、勝手に聞いちゃうもんね」
「あ、ちょっ……」
ひょいと今度はスマホごと掠めとった彩音は、止めようとする莉斗を押さえながらイヤホンを装着する。そして―――――――――――。
「……こ、これって……?」
聞こえてきた音に彼女は体をビクッとさせる。自分でもその反応に驚いたのか、彩音は耳を押えながら慌ててスマホを返した。
「莉斗君、学校でなんてものを……」
彼女の頬は微かに赤らんでいて、戸惑いが隠せないでいるらしい。それはそのはず、莉斗が聞いていたのは『耳に息を吹きかけられるASMR』なのだから。
「彩音、どんな音楽だったんだ?」
「あ、いや、えっと……」
興味ありげに近付いてきた女生徒に、なんと答えるべきか戸惑う彩音。
しかし、彼女は机の上で絶望したように落ち込んでいる莉斗をチラリ見ると、「あ、アイドルの歌……かな」と嘘をついてくれた。
「なんだ、意外と普通なんだな」
「うんうん、人生意外と平凡ばっかよ」
女生徒も納得して離れていき、ザワついていた教室もやがて静かになる。莉斗は庇ってくれた彩音にお礼を言おうと、突っ伏していた顔を持ち上げた。
「……ありがとう」
「あんなの、みんなに知られたら大変だよね」
「意外といい人なんだね、金髪だからてっきり怖い人かと」
「彩音さんは正真正銘いい人だから!」
ドヤ顔で胸を張ってみせる彼女に、莉斗がもう一度お礼を言おうとしたその時だった。
グイッと顔を近付けてきた彩音は、彼が驚くのもお構い無しに耳元へ口を寄せたのである。
「ふふ、2人だけの秘密だね♪」
「っ……」
にんまりと笑いながら耳に息を吹きかけてくる彼女に、莉斗はゾクッとすると同時にゾワッという感覚も覚えた。
こうして莉斗が彩音におもちゃにされる日々が始まったのである。
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