第83話<火花>

時は少し戻り。


マオーとクイーンが、魔王城で戦っていた頃。




苦しそうに胸元を押さえ、倒れたクイーンを俺が見下ろし。




決着は付いたかの様に見えたが、何故かクイーンは笑っていた。




互いに牽制する様に、合わさった視線が火花を散らす。




殺さない様に手加減したとはいえ、笑える状態ではないはずだ。




何か強力な返し技や、回復方法でも有るのか? 




解らないが、不気味さが尋常じゃない。




まだ油断は出来ないので、距離を保ったまま警戒していると。




クイーンが笑ったまま、口を開く。




「魔王よ気にいったぞ、妾と子を為そうぞ」




「……!?」




クイーンの言っている意味が解らず、俺はエミリと顔を見合わせ。




そんな困惑している俺達を観て、ウスロスも笑いだしている。




「いったい、何の話しをしているんだ? 」




なんとか魔王らしく装い聞いてみるが、会話の内容のせいで威厳の欠片も無い。




「妾の番を殺したのは、お主なのだから責任を取る必要が有るだろう? 」




そう言って、立ち上がるクイーンの見た目はキレイな女性。




正直、誘われて悪い気はしない。




会話は成立しているので、子を為すの意味は解っているのだろう。




魔物だから貞操観念が、人間とは違うのかもしれない。




だがエミリの前で欲望むき出しでいては、もう話し相手にすらならないだろう。




ずっとエミリの肩に乗ったまま喋らないトウも、行く末を見届けようとしているのか黙ったまま。




それでいて遠慮の無いトウの鋭い視線は、まるで審査員の様だ。




「其れは無理な話しだ、我は骸骨だからな……」




「そういうものなのか、試してみぬと解らぬぞ」




そう言って俺に近付いて来たクイーンは、魅惑的に俺の頬を撫でる。




グヌヌ。


戦闘が続くよりはマシだが、実に困った状況だ。




「離れてくれ……」




「子を為すのを認めるなら、離れようぞ」




そんなやり取りをしていると、王室の扉が開く。




「グレン様お戻りになられたのですね……」




そう言って嬉しそうに、入って来たのはネズだった。




だが俺に摺り寄るクイーンを見て、ネズの顔色が変わる。




「グレン様、その者は……? 」




「妾は魔王の嫁じゃ」




「嫁? 」


「それは違うぞ」




ネズの視線が俺に刺さり否定するが、クイーンは気にせず会話を続ける。




「お主こそ何者ぞ? 」




俺を間に挟み、対峙する二人の視線が火花を散らす。




「私は魔王グレン様、一の配下ネズよ」




一の配下というのも違うが、今は黙っておこう。




「なら妾の部下も同然、下がっておれ」




当然ネズが引き下がる訳も無く、睨み合いは続く。




「仲間割れを止めろ、もういい俺は眠る」




「流石は魔王ぞ、話が早い」




「そういう意味ではない」




透かさず王室を出たが、クイーンとネズが押し合いながら後をつけてきている。




まあまあ早歩きだが、二人を引き離す事が出来ない。




自室寝床の扉を慌てて閉めると、数秒後二人の足音は離れて行った。




やっと一人になったと思ったら、魔王の声が、直接頭に聞こえてくる。




「中々モテてるではないか」




もう、本当に一人にしてほしい。




魔王の言葉を無視して、ベッドに入った俺は寝たふりを決め込む。




オカシイぞ、異世界のハーレムってこんなんじゃね-だろ。




そんな心の叫びすら、隠すしかないのだった。




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