第6話<絶望と下心>

お手上げだ。


両手上げて、参りましたって言いたい位の。


ゲームならコントローラー放り投げて終りだけど、自分の命を投げ出す事は出来ない。




もう周りの魔物すら気にならない位に、希望も何も無い。


牢屋内の景色と同化して、只天井を見上げる。


其れだけが今の自分に出来る事だった。




せめて死ぬ迄に恋人位は欲しかったが、其れも叶わぬ夢。


こんな時に思い返す自分の人生は、平凡で特に面白い事も無く。


何時死んでもおかしくない。


こんな状況になって思うのは、もっと色んな事に挑戦すればよかっただ。




興味は在ったが、面倒くさくてしなかったスポーツ。


やってみたい仕事の為の勉強。


見てみたい景色や食べてみたい料理の為の旅行。


育ててくれた両親に親孝行。


何よりも好きな人を見付けて告白、結婚、そして子供を育てる。


全てがこれからのはずだったのに、全てが儚き夢となった。




もう涙すら流れない、そんな自分を月明かりだけが慰めてくれる。


退屈であろう同室の魔物達は、何事も無かったかの様に眠り始めている。




勿論此処には寝る為の枕や布団なんて無い。


自分も隅っこで横になってみたが、床の冷たさと固さが疲れた身体を鞭打つ。


体感的に冬ではないが、其れでも震えが止まらない。




見渡すと同室内の魔物は平気そうに寝静まり。


聞こえてくるのは手前の牢屋から「グヘヘ、旨そうダナ……」という魔物の声だけ。


視線が合うと刺激しそうだから、気付かないフリをして瞼を閉じ続ける。




まるで悪夢だ。


眼が覚めたら元の世界だったなら良いが、体感する寒さのリアリテイ-が其れを期待すらさせない。


もう眠ってしまいたいが、聞こえ続ける魔物の譫言が気になり眠気なんて微塵も感じない。




其れにしても片言な魔物が多いな。


魔物にも環境やランクで知能に違いが在るのだろうか。


そう考えると普通に喋れている同室の魔物は、知能が高いのかもしれない。


とはいえ、そんな事は気休め程度の予想でしかなく。


現状殺され待ちなのは変わらない。




眠れずに考え続けていると、新しい囚人なのか骸骨兵の足音が聞こえてきた。


どんな魔物かとこっそり眺めていると、骸骨兵が連れていたのは人間の女の子だった。




可愛らしい二十代前半の彼女の肩には赤い鳥が乗っていて、骸骨兵は何故か距離を空けて歩いている。




結界魔法とかで触れられないのか?魔物なら手錠をされていたが、彼女は手錠もしていない。


そんな彼女と一瞬視線が合った時に、微笑み掛けられた気がした。




此れはもしかして恋ゲーなのか?そう思える位に彼女の顔が頭から離れない。


時間が止まったかの様な錯覚に落ちる。


此れはゲームじゃない、実際に恋に堕ちたのだ。


牢獄の中というスパイス付きで、運命の女神に。




違う牢屋なのか、奥の方に通り過ぎて行く彼女をただ眺める事しか出来ない。


其れでも俺の心はメラメラと燃え上がっていた。




さっき迄の絶望を忘れ、希望を抱いて。


勿論下心が無いと云えば嘘になるだろう。


だがそんな事は関係ない。恋に堕ちてしまったのだから。


能力が低くスキルが弱くても、必ず彼女を救いだしてみせると。


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