百合の花 ー27ー
A(依已)
第1話
わたしは、ずいぶん久しぶりに、実家に国際電話をかけた。
「もしもし?」
「ああ、久しぶりね。
どう、あんた元気にやってんの?」
母だった。声だけで、すぐに風天はなはだしい娘の声だとわかったようなのだ。さすが、実の母親である。
「元気元気。
そっちは?」
「特に変わりないわよ」
「そっか、そりゃよかった。
なによりだね」
確かに久々に聞いた母の声は、以前となんら変わず、いたって元気そのものだ。
わたしは、両親がわたしがなにも告げずに急に家を飛び出したことに、毎日腹を立てているんじゃなかろうかと、そのことがずっと心に引っかかり、気がかりで仕方なかった。しかし、拍子抜けするほどの、その元気そうな声を聞き、心底ホッとした。きっと失踪中のままよりかは、どこがで元気にやっていてくれている方が、よほどマシだと思われているのだろう。
「ところで、わたしの部屋の百合、どうなった?」
「どうなったもこうも、あのまんまよ。
そんなの決まってんでしょ。
あんたも、ずいぶん変なこと聞くのね。
アレ、それにしてもホントよく出来てるわよねぇ。
とっても綺麗。
造花なんでしょ?
どうこうなるわけがないじゃないの。
どこで買ったの?
あたしも買おうかしら・・・」
母親は、いっさいの疑いもなく、受話器越しにそういった。実際は、どうにかならないはずがないのだが―――。
百合の花 ー27ー A(依已) @yuka-aei
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