第29話⁂達也と陽介の心理!⁂
:達也の心理:***
1956年美しく風に舞う木の葉に秋の深まりを感じる11月に生まれた達也はこの家の跡継ぎとして期待されてそれはそれは大切に愛されて育てられています。
ですが?1960年、竜二との結婚を夢見ていた美智代叔母さんは祖父母の大反対に会い強引に連れ戻されたのです。
その為に暫くの間山城家での生活が始まります。
1年後には祖父哲也の決めた結婚相手の勤務医と結婚した叔母は泣く泣く陽介を手放します。
こぶ付ではあの時代まともな結婚相手など到底見つかりません。
祖父母の説得で泣く泣く陽介を手放したのです。
陽介が幼かった頃は本当に仲の良い義兄弟で、微笑ましい光景があちこちで目撃されていたのです。
4歳違いの兄達也は、まだまだ赤ちゃんの足元もおぼつかない陽介の手を引いて、それはそれは大切に陽介を慈しみの眼差しで見守っていたのです。
そんな微笑ましかった義兄弟ですが?
それは忘れもしません。
達也が高校1年生の時の事です。
その前から、もうじわりじわり付箋が現れ出していたのですが?
それでも何と言ってもこの家の直系の跡継ぎ。
まかり間違っても形勢逆転など有ろうハズがないと高をくくっていたのです。
達也の成績はどんなに頑張っても上の下か?中の上?と言ったところでしょうか?
それに引き換え陽介は小学校の頃からずば抜けて優秀。
おまけに絵に描いたように可愛い坊や。
普通だったらもうここでいじけそうなものですが…………。
まさかこんな素性の悪い居候まがいの義弟などがとんでもない!有り得ない!ましてや4歳も下の弟の事、悔しい思いはありましたが、それ以上に可愛さが勝っていたのです。
ですが?陽介が中学校に上がる頃から、この家庭ではじわりじわり達也に冷ややかな眼差しが注がれるようになって行ったのです。
陽介は元々誰にも負けない天賦の才が備わっています。
達也がどんなに頑張っても手の届かなかった偏差値最高峰の私立の中高一貫校A中学に難無く合格したのです。
最初の内は{まあ仕方ないや!}と思う程度だったのですが…………?
母咲子が入れ知恵を付けます。
母にして見ましても、自分の息子を何としてもこの病院の跡継ぎにと願うのは当然の事。
「お爺ちゃんが達也と陽介では出来が違い過ぎる、医学の道は知性が最大の武器。あんな達也じゃとてもじゃないがこの病院は譲れないと、事あるごとにおっしゃっているのよ、あんな素性の悪い陽介になんかに負けてどうするの、あんな結婚前に子供を産んだふしだらな美智代の子供になんか負けてどうするの?全く情けない!ウカウカしていたら陽介にこの病院乗っ取られちゃうわよ~?」
又それに輪をかけて祖父母の達也と陽介への扱いの違いです。
最初の内はスープの冷めない距離にある祖父母の邸宅にチョクチョク2人一緒に顔を出していたのですが。
「達也もっと勉強しなくては、とてもじゃないが医学部は無理だ!どうしてこんなに出来が違うんだ!陽介の爪の垢でも煎じて飲んでおけ!このバカが!」
「お爺ちゃん達也兄ちゃん勉強しているよ!それなのにお兄ちゃんもどうしてあんなに頑張っているのに出来ないの?おかしいよ~?」
達也をかばっているつもりですが、なおさら出来の違いを痛感させられる一言なのです。
そこにおばあちゃんの留めの一言です。
「本当に陽介は容姿も申し分ないね~!ご近所さんからこんな可愛い子見たことない。と言われて私は鼻高々だわ!」
家族全員から責められまくる達也。
家庭に完全に居場所を失った達也。
{幼い頃はこの家のやんちゃな王子様だった。
もっと言えば王様と言っても過言ではない。それだけ期待されて、注目され、愛されていたのに今のこの現実は何だ。
皆の期待は陽介に注がれ、俺は只の厄介者じゃないか、陽介のせいだ!陽介が許せない!どんなに頑張っても陽介には敵わない!俺はこれ以上は無理なんだ!嗚呼~!辛い!苦しい!}
この頃から徐々に陰に籠り犬や猫を殺してストレス発散をしていたのです。
そしてあんなに可愛がっていた陽介を『殺したい!』と思う程までになって来ていたのです。
:陽介の心理:***
達也とは幼少期は本当に仲が良かった、大好きな義兄だったのです。
ですが?類いまれな逸材と、いち早く感じ取った義母咲子の執拗なイジメ!嫌がらせ!が始まったのです。
未婚の母で生まれたふしだらな美智代の子供だと今までは散々さげすんでいたのにも拘らず、よりによってこの家の正真正銘の直系の我が子よりも、あんな居候と何ら変わらない陽介が優秀だという事が到底受け入れられない、許せない咲子なのです。
夫勇は病院に缶詰め状態、それを良い事にお手伝いさんが帰った後の食事の後片付けにトイレ掃除と厄介な仕事を押し付けています。
又食べ物は残り物の残飯が殆ど!
更には家族旅行も陽介だけは連れて行きません。
夫も仕事で行けませんから気付いていません。
それを良い事に陽介に辛く当たっています。
ともかく気に食わないのです。
もし気が付いていたら夫も黙っちゃいませんが。
又言葉の暴力も酷いものです。
「お前が勉強して何になる?おじいちゃんの御機嫌伺ばかりしてとんでもないガキだね—!恩を仇で返す気か————!」
我が息子達也があんな陽介みたいな素性の悪い居候同然の子供に負けるなんてとんでもない!と憤慨しているにも拘らず、ご近所さんからの容赦ない言葉。
「陽介ちゃんは本当に整ったお顔の可愛いお坊ちゃまです事。成績も優秀だし羨ましいですわ!」
「そうですか~?有難うございます」
とは言っていますが{うちの子達也はどうなのよ~?あんな未婚の母で生まれた子供なんか!}
益々継子いじめが加速します。
これが継子いじめというものです。
陽介は陽介でこの埋められない愛憎劇から辛さのあまり祖父母に逃げます。
祖父母だけが頼みの綱。祖父母に甘えたい、愛されたい一心でお気に入りになるテクニックを知らず知らず身に着けて行きます。
祖父母が最後の砦なのです。
そしてこの諸々の事が付箋となり取り返しが付かなくなっていくのです。
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