異世界守護霊無双~異世界に行ったらスキルが最弱だからと廃棄されたけど、このスキル実は最強!?~

こういってん

魔の森編

第1話初異世界……

 いつもの日常。繰り返される怠惰な日々。世間では華の高校生といってもスポットライトが当たるのは陽キャラといわれる人間達だけだ。




スポットライトは誰でも照らしてくれるわけではないのだ。




 久道明人くどうあきと




 名前だけはクラスの中心に居そうなものだが、リア充はもちろん「リア充爆発しろ」などと声を出して言うことも出来ない。




 平凡な外見の何の特徴もない男子高校生である。




しかしスポットライトは当たらなくても、人生の転機は訪れたようだ。




 それは格の違いをまざまざと見せつけてくるカップルを、視界から排除しようと試みている時であった。




(あの2人幸せな青春を送っているんだろうな)




 なるべく見ないようにしても、視界に入ってくる以上明人の心は蝕まれていく。




普通に生活をしているだけで、磨り減っていく心はどこまでも脆く儚いもの。明人は自分の心を守るために、これ以上前のカップルを視界に入れてはいけないと判断した。




追い越してしまえばもう自分の世界に入ってくることはない。しかしそれだけのことが難しい。頭で考えただけで、鼓動は早くなり、歩みは亀のごとく遅くなっていく。




(そうだ、このまま遅く歩けばそのうち視界から居なくなるじゃないか)




 そんな逃げ腰の考えが、沸々と湧いてくる。




どこまで自分は弱いままでいるのだろうか。僅かばかりの反逆心が自分に対して燃え上がる。




(よしここで少しでも自分を変えてやる!)




 追い抜くときに何か言われるのではないのか。キモいと思われているのではないか。


どこまでも染みついた負け犬根性が頭をよぎる。




 それでも一瞬で追い越せば大丈夫と自分に言い聞かせ、歩調を上げていく。




(あと少し、あと少しで自分に勝てるんだ!)




 明人は速度を上げ一瞬横に並ぶ。高鳴る心臓に追従して気持ちまでも歩みをせかしてくる。 




それでも無事カップルという心を掻き乱す存在を視界から排除することに成功した。無事追い越すと、安心感からか達成感からか自分の後ろに行った2人よりも自分は何か大きな存在になれたような気がした。




 何事もなく明人の戦いは終わった……はずであった。


いきなり足下に不思議な魔法陣が現れるまでは。それはカップルの足下にも広がっていく。




その大きさを増す魔方陣は、4人を足下から光の粒子に変えていった。




 自分の体が消えていくというのに、明人は妙な安心感を覚えていた。こころのどこかで知っていたのだろうか。




(心の弱い自分に神が罰を与えたんだ)




側で慌てふためくカップルを見ても、明人は全てを受け入れたかのように穏やかに消えていった。




永遠の眠りにつくのをどこか覚悟していた明人だったが、一向にお迎えがこない。




仕方なく目を開けてみるとそこには見慣れない光景が広がっていた。




 一変した目の前の光景はまさに異世界。一目見ればその場が異世界であることはわかるくらいまさに2次元に迷い込んだような景色であった。




足下には真っ赤な絨毯。頭上には高い天井。さらにそこには、日の光をこれでもかと浴びて輝く、巨大なシャンデリアが吊されていた。




そして後ろを振り返れば、そこには異様に迫力を感じさせるご老人が鎮座していた。                                     その白く長い髭を撫でる姿はどこか気品を感じさせ、金色に輝く王冠も被っていた。




彼らは明らかに玉座の間にいた。




さらにあからさまな事に、彼らを召喚しただろう魔法使いの女がこれみよがしに杖を掲げ、明人達を見下していた。




普通ならば戸惑いを隠すことが出来ない状況の中だが、明人もその例に漏れずしっかり困惑していた。




(何だこれ? 何で僕がこんなところに……)




しかしそんな明人とは対照的にこの状況を魔法陣に飲み込まれている最中から理解していたものがいた。




 それは天道浩樹てんどうひろきだ。




 明人と対して変わらない、クラスの人数補充のために生まれてきたような奴である。前に出ること決して出来ない、心の中で悪態をついて自身のプライドを成長させるような奴だ。




 しかしそれが功を成したか、自尊心の化け物はこの状況に対応していたのだ。




(くっくっく、やっとか。やっと俺に相応しい世界に来たか。俺はこの世界の勇者に選ばれたんだ。結局前の世界では本気を出すことがなかったが、この世界では本気を出してやろう。


しかし転生の仕方が少し引っかかる、勇者の俺だけでもいいはずだが。まぁ大丈夫か、俺は勇者だからな)




「ようこそいらっしゃいました。勇者様方」


「え、何? 勇者?」




魔法使いの女性が声をかける。それは間違いなく異世界転移イベントであった。魔法使いの言葉は浩樹を昂ぶらせるものであった。




しかし同時に空気を読まない言葉も聞こえてきた。一緒に来た男がこの状況に困惑して聞き返したのだ。




(この時点で落ち着いて居る俺はやはり勇者だからだろうか)




 浩樹が自分に酔いしれる中、さらに違う声も聞こえてきた。




「何これ、どうなっているの」




 女の方も取り乱している。




(ちっ、少し顔が良いからって前の世界では調子に乗りやがって。この世界ではもうお前たちの態度は通じないんだよ)




天道浩樹は内心勝ち誇った気分で、後ろに軽蔑の視線を送る。そしてすかさず言い放った。




「この状況、もしかして我々がこの世界の勇者ということですか。なるほど、ぜひとも俺にお任せください。この世界は俺、天道てんどう浩樹ひろきが必ず守ってみせます。そうこの世界の勇者として」




 片膝を立て思い描いた騎士然とした振る舞いをする浩樹に、召喚に居合わせた人々が期待と羨望の熱を視線に乗せて送ってくる。




 それは今までに感じたことのない喜びを浩樹にもたらした。前の世界では手に入れることはしなかったこの歓声や喝采、そしてなによりこの高揚感。




 それは浩樹の燻ったプライドをさらに勢いづける推進剤となる。




 ついに来た人生の転機となるイベント。浩樹は決して逃すわけにはいかなかった。




「ちょ、ちょっと待ってくれ。一体何が何やらで。これはどういうことなんだ」


「そうよ、どこよここ。何でこんなところにいるのよ。それにあんた勝手なこと言わないでよ」




 たった2人に何を言われようとも浩樹は笑いが込み上げてくるのを抑えられない。




「2人ともまずは落ち着いて。勇者の俺に任せてくれれば、しっかりと2人も導いてあげるから。それで? まずは簡単に俺たちを転生させた理由を教えてもらえますか?」


「はい、もちろんです。現在我々の国は魔物の脅威に脅かされているのです。この世界で魔王が新たに出現して、魔物の大群が我が国に侵攻してこようとしています」


「それが私たちに一体何の関係があるっていうのよ」




 浩樹は初めて感じる優越感に水を差されたことに内心腹を立てるが、やかましい女に心の中で愚痴を吐き捨てるだけに留めた。




 勇者としての自信が心に余裕を持たせたのだ。




「そこで私たちの国に古くから伝わる禁忌魔法、異世界からの召喚魔法によって勇者様を召喚させていただいたのです。勝手なことをしたことはお詫びします。しかしそうもいってはいられない事情が我々にはあるのです。何卒、何卒、勇者様方の力をお貸しください」




 そう続けた魔法使いの女は頭を深く下げ、肩を少しだけ震えさせていた。




「ふざけないでよ。そんなこと私達に関係ないでしょ。私たちを元の世界に帰してよ」


「そうですよ。早く元の世界に返してください」




(さっきから後ろがうるさいな。全く、勇者でない奴らは気楽にそんなことが言えるから羨ましい。俺は勇者だからこの国、延いてはこの世界を救う使命があるというのに)




浩樹は後ろの2人を無視して強く宣言した。




「俺たちにお任せください!」


「な、何を言っているんだ君は」


「信じられない。何言ってるのよあんた」




(これだから一般人は。俺がせっかくかっこよく決めたのに台無しになってしまうではないか。しかしそんなことで怒る勇者の俺様ではない)




 だから浩樹は優しく2人を諭すように言ってやった。




「いいかい2人とも。まずはよく落ち着いてほしい。彼女が言ったようにこの国は今、危機的状況に置かれているんだ。でも俺たちは、その危機からこの国を救うことが出来るんだよ。俺たちのおかげで救われる命や国があるんだぞ! 君たちはそれを放って置くことが出来るというのかい? 俺にはそんな非道な行為をとることなんて決してできない!自分の命を賭してでも、この国を必ず魔物の脅威から救い出して見せると誓おう。俺たちがこの世界に呼ばれたと言うことは絶対に意味があることなんだ! だから俺たちがこの国に、そしてこの世界に希望の光を見せてあげようではないか!」




 言い放った言葉は確かな力を纏い、その場にいた多くの者の心を強く打った。




浩樹の言葉に感激した多くの者が、万雷の拍手と褒め称える声援によってその返事をする。




圧倒的優越感。もはや後ろの2人の言葉が浩樹の耳に届くことはない。




響き渡る喝采は鳴り止む気配すら見せなかった。しかし永遠に続くかのように思えたそれも確かな終わりを迎えることとなった。




「皆の者、静まれ」




 いつまでも続くかに思えた声援は、奥に居た一人の老人のたった一言で嘘のように静まりかえってしまった。




 僅かに不満を抱いた浩樹はじっと老人を見据えていた。




「ヒロキよ。よくぞ言ってくれた。そなたの気持ち、ありがたく受け取らせてもらう。勇者たちに今一度拍手を」




 その一言でまたしても響き渡る歓声。




(まぁいい、この爺さんも以外に分かっている)






 彼らを称える空気は、後ろの2人の不平、不満を完全に呑み込んでしまっていた。




「本当にありがとうございます。勇者様方。それではこれよりステータスの儀に移らせていただきます。どうぞこちらに」




 魔法使いの女性に促されて玉座の間から移動した先には、祭服を着た神官が白い台座を取り囲んで立っていた。さらにその台座の上には丸く青い水晶が浮かんでいる。




(なるほど、ここで俺の勇者としての素質が明らかになるということか。ふん、悪くないな。あの玉座の間の方がベストではあったが、まぁいいだろう。許してやる、俺は勇者だからな)




「それではこちらの水晶に順番に触れてみてください。この水晶に触れることで神が私達に与えてくださった恩恵が分かるのです。一度ステータスの儀を受けていただけば後はいつでも『ステータス』と念じるだけで確認することができます」


「それ本当に大丈夫なんでしょうね?」




 魔法使いの女性の言葉を信じることができない女が疑いの言葉をぶつける。




「ここまで来てまだ彼女を疑うのか。見苦しい人間もいるもんだな。こんな奴らにこの国を任せることになってしまったこの国が可哀想だな。まぁいい、俺から行く」




 浩樹は悠然と歩を進め、水晶に触れる。身体が少し浮き上がる浮遊感と共に目の前に薄く青い透明の板が現れた。それには名前、称号、種族、スキルが映し出されていた。




 名前: 天道浩樹


 称号: 勇者 


 種族: 人間  


 SSスキル: 〈強制正義〉〈聖剣術〉


  Sスキル: 〈全属性耐性〉〈全属性魔法(最上級)〉 


 AAスキル: 〈自動生命力回復(上級)〉〈自動魔力回復(上級)〉〈魔力制御(上級)〉


  Aスキル: 〈言語理解〉




そこには確かに勇者と明記されていた。




「ふん、やはり俺が勇者だ」


「すごいです。SSスキルが2つもあるなんて素晴らしいです。SSスキルは英雄と呼ばれる人しかもっていないスキルなんですよ! 勇者様、いえ英雄ヒロキ様どうかこの国をお救いください」


「もちろんですよ。俺に任せてもらえれば何でも解決して見せますよ」




 目に見える証拠でさらなる自信をつけたヒロキは、魔法使いの女性に近づき、手の甲に軽く口づけをしながらそう言い切った。




(俺の目にはこの女のうっとりとした表情がはっきりと見えているぞ)




 恍惚とした表情を浮かべる女性はいつまでもヒロキを目で追っているようだった。




「本当にありがとうございます。この国をどうか、どうかよろしくお願いします」


「あぁ、任せてくれ」


「どうぞ次の方もよろしくお願いします」


「俺が先に行くよ」




 彼氏の方がが水晶に触れるために前に出る。




「俺だけでいい気もするがな。まぁ役に立ってくれよ」




 ヒロキが横から口を出すが、彼は一瞥もくれず球体に触れる。




 名前 竜泉眼


 称号 剣聖 


 種族 人間 


 SSスキル 〈神剣術〉


  Sスキル 〈錬成の剣〉〈神速〉


  Aスキル 〈居合〉〈抜刀術〉〈言語理解〉


 BBスキル 〈気配探知〉〈気配感知〉




「ん? お前の名前なんて読むんだ?」


「りゅうせんだ」


「ちげーよその次のことだよ。め? がん?」


「ちっ、別になんだって良いだろ」


「何だよ、言えよ。勇者の俺が聞いてんだぞ?」


「ちょっとやめてよ。まーくんは自分の名前が好きじゃないのよ」


「まーくん? まから始まるのか。ま、ま……」


「……まなこだよ」


「まなこ? ぷっはははは、まなこ、まなこね。そりゃあ言いにくいわけだ。りゅうせんまなこってこの世界じゃ良い名前なんじゃないか? くくっ、まなこ」


「ちっ、だからこんな奴に言いたくなかったんだ」




 ヒロキが嘲笑を向ける中、魔法使いの女性は心底不思議そうしている。




「マナコ様私には綺麗な名前だと感じますが」




魔法使いの女性は至極あたり前のことのようにその言葉を笑顔と共に贈った。




しかしそれをヒロキが気に入るはずもなかった。




「ったくこれだから異世界は、笑いの壺がちがうのかね。ん? そうだマナコが嫌なら俺があだ名をつけてやるよ。そうだな……ナマコで良いんじゃないか? ナマコ。うん、どうだナマコくん」




 そんな勇者をマナコは努めて無視して彼女の元に戻る。


 険悪な空気が流れる中、魔法使いの女性は言葉を紡ぐ。




「それでは次の方もお願いします」




 今度は彼女の方が水晶へと歩いていく。




 名前: 治上悠希


 称号: 聖女 


 種族: 人間  


 SSスキル: 〈女神の祝福〉〈癒しの言霊〉


  Sスキル: 〈治癒時間〉 


 AAスキル: 〈自動生命力回復(上級)〉


  Aスキル: 〈言語理解〉




「おお、次は聖女様でしたか。素晴らしいステータスです」


「ちがみゆうき、聖女か、ふん、悪くないな」




 天道は目を僅かに細めながら彼女を見る。


治上はステータスを確認すると、そそくさと彼氏の場所にまで戻っていった。




「よし終わったな。それで? 次は何をするんだ?」


「いえ、あとお一方残ってますので、そちらの方が終われば次に進みたいと思います」


「あと1人? そんな奴いたか?」


「お前、そんなことも気付いてなかったのか」




 マナコがぼそりと呟くとヒロキは心底ムカついたように睨んだ。しかしその怒りの矛先は直ぐにその原因となった明人に向けられた。


 明人はヒロキと目が合うと居心地が悪そうに視線を外した。




(なんで僕はこんな目にあうんだろ……)




「そ、それでは失礼して」




 明人はカップルの後ろからひょっこりと出て、皆の前を通り水晶へと向かう。


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