これはまだどこにもでてない新型ロボットの情報です!

ちびまるフォイ

新型ロボットの使いみちなんてあるの?

「整備長、俺じつは新しいロボットを考えたんです!

 これならきっとロボット戦争にも勝てますよ!!」


「ダメだ。新しいロボットなんか作らなくてもいい。

 さっさと量産型ロボットの足の裏の塗装を続けるんだ」


「こんなの誰でもできるじゃないですか!

 俺はより最先端のロボットを作りたいんですよ!」


「そんな割にあわないことしなくていいから、

 黙って今の仕事を続けていればいいんだよ!」


「このまま続けていたら才能が腐るから、こうして話してるんです!!」


巨大ロボットの整備長とはそりが合わなくなって辞めてしまった。

それでも自分の技術さえあれば、食いぶちに困らないと踏んでいたが現実は厳しかった。


敵国との巨大ロボット戦争真っただ中で負け続けているうちの国に、

もともとの整備会社とケンカ別れした悪評つきの問題児を雇っちゃくれない。


「ちくしょう! なんで俺の技術を認めてくれないんだ!!」


自分が評価されないことがだんだん許せなくなっていく。

どうすれば認めさせられるかと考えた結果、新型ロボットの開発を行うことにした。


今、ロボット戦争で活躍している新型ロボットを自分が作れれば

その高い技術が認められるに違いないとふんだ。


「うーーん……どうしよう、でも最新パーツが足りないな」


新型ロボットの開発をスタートしてからすぐに問題は発生した。

戦争の第一線で活躍しているロボットはまだ市場に出回っていない新型パーツをいくつも使っている。

とても用意できずに不完全なものしかできない。


「……しょうがない。塗装でごまかすか」


ロボットの足の裏の塗装だけというマニアック極まりなく、

性能にも影響しないどうでもいい部分だけを担当していたが塗装だけには自信があった。


新型パーツはないものの塗装でそれっぽくして新型ロボットを完成させた。


「どこからどう見ても本物じゃないか! これなら俺の技術と根性が認められるぞ!」


紆余曲折こそあれど自信作のロボットが出来上がった。

このロボットを名刺代わりにさまざまな現場を回ったが結果はどれも同じだった。


「不合格ってなんでですか!! これを作ったんですよ!?」


「こんな偽物がバレないとでも思っていたのか。こっちもロボットにかけちゃプロだ。

 新型パーツはこんなふうな形じゃないことくらいお見通しだよ」


「うぐっ……!」


いくら塗装でそれっぽくしても、相手はプロなのであざむけるわけがなかった。

このままでは明日の生活すら危ぶまれると感じたのでとっさに口が動いた。


「こ、これは……情報のない最新鋭のパーツなんですよ」


「なんだって?」


「今、軍では新型ロボットをさらに強化するプロジェクトを行っていまして

 俺が作ったのはその最新鋭のものなんですよ」


「たしかに、そう言われるとどことなく最新っぽさがある」


「でしょう? 見たこと無いのも無理はありません」


「でも、それだけ最新ロボットにかかわっていた君がどうしてうちのロボット工場へ?」


「敵国とのロボット戦争は日に日に激化しています。

 この戦争を終わらせるためもっと強いロボット開発が必要なんです。

 軍の工場じゃダメなんです。技術力の高いこの工場でこそそれができると思いました」


「採用だ!! 君のような人材を待っていたんだよ!」


幸いだったのは、最新鋭のパーツだというので軍に確かめても「知らない」と言われてしまうことが本物っぽさを演出してくれる偶然だった。

嘘を嘘で固めながら新型ロボット開発を進めていると、整備工場に元エースパイロットの人がやってきた。


「ほおほお、これはすごいなぁ」


偽物の新型ロボットを眺めながらため息をもらしていた。


「整備長、あの人は?」


「元パイロットの人だ。たまにこうしてロボット工場に来るんだよ」


「なにが目的なんでしょう」


「さあ、今じゃただのロボットマニア。放っておくのが一番さ」


耳うちで話していると元パイロットは上機嫌で訪ねてきた。


「おい君、あの見慣れないロボットはなんだ?」


「あ……あれは、その、し……新型ロボットですよ。ははは」


元パイロットにはすぐバレるんじゃないかと冷や汗が止まらない。


「買うよ。いくらなら売ってくれる?」


「え? いや、でもあれはまだ試作段階で売り物とかでは……」


「そこがいいんじゃないか。戦争で見慣れたロボットになんの価値がある?

 私は最新鋭のロボットを誰よりも早く自分のガレージで眺めたいんだよ」


「でしたら、これくらいの価格でお譲りします」

「いいだろう! 買おう!」


元パイロットは自称新型ロボットを買い付けて去っていった。

整備工場の人たちは突如舞い込んだ臨時収入に狂喜乱舞だった。


数日後に軍が到着するまでは。


「お前だな、新型ロボットを売ったのは」


「え? なんで軍人さんが……」


「こっちへこい」


銃口を向けられてうながされるまま別室に監禁されてしまった。


「貴様、以前にここへ出入りしていたロボット収集家の元パイロットへ

 まだ出回っていない新型ロボットを売ったそうじゃないか」


「え、ええ……」


「そんな情報をどこで知ったのか話せ。さもなくばここで殺す」


「待ってください! 俺がまさか軍の情報を盗んだとでも!?」


「でなければ最新のロボットなど作れないだろ!!」


こちらへ向けられた銃口がいつ火を吹くかわからない。

死んでしまっては元も子もない。


「ちがうんです! あれは新型ロボットなんかじゃなくて、

 俺が勝手に作ったそれっぽい偽物なんです!」


「なんだと?」


「軍の情報なんて盗んでいません! 新型なんてうそっぱちです!」


「馬鹿言うな! 整備長もあれが最新型であると認めていたぞ!!」


「それは俺が刷り込んだ嘘です! 軍の情報なんて盗んでません! 信じてください!」


「ロボット開発者にまとめて嘘を刷り込んだお前の言葉なぞ信用できるか!」


ついに軍人の指が銃の引き金へと進んでいくのを見逃さなかった。

すでに大うそつきのレッテルを貼られているため、これ以上の弁解は逆効果。


「わかりました! これからあれが偽物だってことを証明しますよ!!」


「なんだと?」


「ほらここを見てください、塗装を剥がせば中身は100均のと同じ。

 こっちは塗装でごまかしていますが実際は鳥のささみで作られてるんです」


「ほ、本当だな……」


「これが新型でないってこと信じてもらえましたか?」


「ああ、どうやら本物ではないようだ。軍の情報を盗んだわけじゃなかったのか」


「当たり前じゃないですか!」


「ふむ、そうか、盗んだのであればなにか有益な情報が得られると思っていたがまあいいか」


軍人はなにかぶつぶつ言っていたが意味はよくわからなかった。

最後にひとつだけつけ足した。


「もしも、この偽物を本気で動かしたらどうなるんだ?」


「こんな見た目だけ整えたできそこないを操縦でもしたら、

 とたんに空中分解して使い物にならなくなりますよ」


「そうか。ではこの新型ロボットを軍の配備させることにしよう」


「はい!? 話聞いてなかったんですか! こんなの使い物にならないですよ!」


「それがいいんじゃないか」


軍人は新型ロボットをたくさん作らせてから敵国へと寝返った。

そのときに手土産として提出したという。



「あっちの国の最新鋭のロボットを手に入れました。どうぞ使ってください」



敵国のパイロットは喜んで最新のロボットに乗り込むと、さっそうと戦場へと向かった。

やがて敵国はパイロットを大量に失ったことで戦争ははやくに終結した。

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