適性値と幸運値がバグってるサイテー男が異世界生活をエンジョイするだけの物語(魔王はいるけど戦いません。勝てないから)

京衛武百十

転生の章

凡庸なサラリーマン、異世界転生す

 俺の名前は千代本ちよぼん庸太ようた。かつては平凡なサラリーマンだった男だ。

 会社は少々ブラックだったものの子供の頃から要領だけはよかった俺は、細かいことを気にしない性格とも相まって、大変な中でもそれなりにはやってこれた。

 はずだった。

 なのに、何の因果か、事故に巻き込まれて死んだらしくて、結果、巷で噂の、

 <異世界転生>

 てのを果たしちまったようだ。

 気付いたらこっちの世界の<マービン>という青年に生まれ変わっていた。

 だからって別に俺がマービンの体を乗っ取ったってわけじゃねえようだ。なにしろ、マービンとしての記憶も感覚もしっかりとある。

 マービン自身、炭鉱で働いていて事故に巻き込まれちまって生死の境をさまよったのをきっかけに、前世の記憶が戻ったというパターンのようだな。

 そんな事がそうそうあるのかどうか俺は知らねえ。アニメとかまあまあ好きだったからそういう話自体は割とありがちなのは知ってるが、実際に経験するの初めてだし経験者を見たこともねえしな。

 だが、俺自身がここにいるのは少なくとも現実だ。だったら理屈云々は抜きにして、目の前の現実自体は受け止めなきゃダメだろ。そうじゃなきゃ話が進まねえ。

 それに俺は、前世には大して未練もねえし。

 俺の両親も、要領が良くて調子のいい奴らだったから、俺の生命保険金でも手に入れてうはうはだろう。高校の頃から付き合ってた彼女にも三年前にフられて以降はそれっきりだし。

 未練を抱く利用がねえんだよ。

 ネットもテレビもつまんねえし。

 そんなわけでこっちの世界でマービンとして生きることになった俺なわけだが、生きていくにはまずこっちの世界のことをよく知らなきゃいけねえ。

 と言っても、この世界に生まれて育ってその上で前世の記憶を取り戻しちまったパターンなおかげで、体力やら免疫力やらはこっちの世界に適応しているようだ。加えて、マービンとしての記憶があることで大まかな仕組みは分かった。

 世界観としてはありがちな中世ヨーロッパ風の社会なんだろう。王様がいて貴族がいて平民がいてそして奴隷がいる。

 マービン自身は基本的には平民だが、辺境の寒村の生まれで、正直、平民の中でも最底辺のようだ。だからまあ、出稼ぎとして炭鉱で働いていたりしたわけか。

 その辺については前世でもブラック企業の社畜だったのもあって、そんなに大きくは違わねえだろう。

 それよりも大きいのは、ここは典型的なファンタジー世界らしく<魔法>がある世界だってのが、一番重要な点だな。

 マービンが助かったのも治癒魔法のおかげだそうだし。


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