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「わたしは大人なんかじゃない。大人になんか、なりたくない。毎日見ている大人は、面白くなさそうに、作業のように毎日を過ごしてるか、子どもを皮肉のように自由だって言いながら、縛ったり、あてつけの様に怒ったりするの。ねえ、大人って、なにも楽しいことはないの? 何に縛られてるの? どうして毎日、愚痴のような話で会話を成り立たそうとしているの? それって本当に生きてるの? お母さん、お父さん、学校の先生、塾の講師。そんな大人の見本のように生きてるって主張してる大人よりも、クラスメイトの男子の方が、ずっと楽しそうに生きてる気がするし、なれるなら、そっちになりたいよ。」
濁って淀んだ言葉は、止まるところを知らず、ある一定量になるまで、放流し続けた。
吐き出し終わって肩で呼吸をしながら呆気にとられている二人の顔を見ると、急に恥ずかしさが込み上げてくる。
なんで、こんな話ししちゃったの。ごめん、ごめんね。
「おねえちゃん、大人に、なりたくないの?」
セイの問いに、わたしは目を伏せ、答えるように小さく頷き、そのまま俯く形になった。
「どうして?」
ヒイが、落ち着かないのか立ち上がり、くるくると舞うように回りながら言う。
「あたしは、大人になりたいよ」
わたしにも、こんな時期があったなあ。
「大人ってね、夜遅くまで起きていても怒られないし、外に出ても良いんだよ。それでね、きっと、夜はあたしたちの知らない、すっごく楽しいことで一杯なんだよ。夜が楽しすぎるから、昼間はつまらなさそうにしてるの。だから、大人になりたいなあ」
確かに、ほしいものがあって、それが買ってもらえないと、わたしが大人だったら買えたのになあ。なんて思ってた。
「大人は、自由、なんだ」
小さいのころはそう思っていた。でも、大きくなるにつれて、現実が見えてくると、大人の不自由さが、わたしに突きつけられた。
自分よりも、他人に縛られて、自分のために生きているのか、他人のために生きているのか分からなくなる。それを、守るためなんて言えたらカッコイイかもしれないけど……。
ああ、こんなことを考えれるのは、わたしがもう子どもで居れないからかなあ。
俯いたわたしの顔を覗き込むセイ。
くるくると跳ねているヒイ。
今の私はここにいちゃいけない気がする。
「大人は、自由なんかじゃ、ないよ」
言いながら、わたしは立ち上がり、二人に背を向ける。
「ごめんね。もう、帰らなくちゃ」
もう一度、呟くように、ごめん。と繰り返す。
「えー、もう帰っちゃうのー」
うん、ごめんね。
「また、来てくれる?」
また、来て良いのかな?
わたしは、二人に振り向かず、頷いた。
来た時と同じように頭の中に鳴り響くきぃぃーんという音。視界、ブラックアウト。
また明日、今度こそ遊ぼうね。
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