3.今の私はここにいちゃいけない気がする。

「おねえちゃん?」

 先ほど一緒にいた、ヒイという女の子の声が聞こえる。


 指先に、他人の指が絡む感触がする。


 なんとなく、瞼の裏に光を感じたので、目を開いた。


 ……ここ、どこ?


 辺り一面何もない。さっきまでの道路は? 家は? それ以前にここって……地球? 


 地面はテレビでたまに見る月面のよう。遠くに、クレーターのようにえぐれた場所も見える。


 空はいつも見ている夜のそれよりも真っ黒。そこに、ワタシは星であります。と主張しているかのような、星形の、黄色く発光した星が浮いている。あ、流れ星? これも、アイ アム ア スターと言わんばかりの黄色く発光した星型に、流れ進んでいるのを表す、カラフルな細い帯が何本も付いている。その近くでは、わたしも小さいころに描いた覚えのある、イカ型のロケットが飛び、そこにひとつだけ付いた窓から、猫らしき生き物が手を振っていた。


「ねえ……ここは?」


「秘密基地、だよ」


「ヒイとセイ以外で来たのは、おねえちゃんが初めてなんだよ!」


 やはり、いまいち要領を得ない。けれど、わたしの反応など関係なく、二人は今から何をして遊ぶのかを話し始めた。


「……かくれんぼ」


「おねえちゃんとおはなしするのっ!」


 ふたりの提案が対立し、ぶつかり合う。いつものことなのか、すぐにじゃんけんを始めた。


 何もないこの場所で、セイ君の言うかくれんぼは、一体どうやってするのだろう?


「じゃーんけーん、ぽんっ」


「あーいこーで、しょっ」


「あーいこーで……」


 なかなか決着がつかない。


 空を見上げてみると大きな星が、何事もなく光っていて、手を伸ばしたら掴めそうだったので、手を伸ばしてみた。けれども、近くに見えている星は意外に遠いのか、わたしが背伸びをしても、触れられなくて、すこし、寂しかった。それでも星は光っている。


 どうやって帰るんだろう? そう考えると、急に、私の住んでいる町との繋がりがほしくなり、スマートフォンの画面を見る。電波は当然のように圏外を表していた。


「じゃあ、お話ししよ。おねえちゃん」


 じゃんけんに勝利したのはヒイちゃんなのか、笑顔で駆け寄ってくる。すぐ後ろを見ると、セイ君がじっとこちらを見つめていた。


「……セイ君は、良いのかな?」


「……やだ」


「セイ君はこう言ってるけど、ヒイちゃんは……」


「その呼び方が、やだ」


 ヒイちゃんに振りかえったわたしに、また噛み合わない回答が来る。


 何を言っているんだろうと混乱していると、


「あたしもー」


 賛同の声が聞こえた。


 どうしろと……。


 わたしが呆れた顔で見ていると、それを無視して二人は話を進める。


「ヒイって、呼び捨てで呼んでっ」


「もしくは、セイさん。でも良いよ」


 二人は満面の笑みで、決めポーズのように、こぶしを握ったまま右手を前に出し、親指だけビッと立てた。

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